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#4 奇遇 

「うぅ...6時か...はぁ...」


ジリリリ...と静かで薄暗い部屋のなかに目覚まし時計の必死の声が響く。が、時計をかけた張本人はベルを止め、現在の時刻を確認しただけでベッドからは出る気配は一向になかった。別に雀がいつも起きるのが苦手という訳ではない。昨日、椿のあとを継ぎ、店の片付けを終わらせ、風呂に入り、寝ようとした雀のもとにクラスメートでもあり親友の亮から音声通話やチャットが可能なアプリ『LIVE』の通知がきたのだった。

眠たい目を擦りながらスマイルフォン、巷ではスマホとよばれる端末を手に取った。


〈雀ってさ、戦争のこと本当に知らないんだよね?〉

〈いや、まぁ、テレビとかで聞く程度には知ってるけど〉

〈そんな雀のために僕がわざわざ分かりやすい競技要項ののってるサイト見つけといてあげたよ〉

〈へぇ、わざわざありがと〉

〈んじゃ、張り付けて送っとくから〉

〈分かった。サンキュ〉

〈いいよ。んじゃ明日〉


数十秒後、戦争(マーセナリィ)の公式ホームページのURLが亮から送られてきた。雀はページを開くとトップにあった〈公式ルール〉の欄を開いた。そこには部活体験の時に三年の四宮から説明された事だけでなく、使用可能な武器の詳細、反則の基準などが詳しく記されていた。


「すごいな、こんなにルールあるのか...」


一通り目を通した雀はブラウザを終了させるとベッドの上にスマホを投げた。

そんなことをしている間に、雀の目はすっかり冴えてしまった。その後、寝ようとベッドに潜り込むもまったく眠れず、そして現在、完全に寝不足でいるのだった。


「眠い...ダルい...動きたくない...」


高校生の、それも入学式の次の日に言うこととは思えないような言葉を呟きながら、雀はぐだぐだと朝の支度をした。雀達の通う統羽高校は県内ではそれほど頭の良い部類の高校ではなく、普通の高校である。が、一応スポーツに力を入れている学校として知られる。実際、数年前までは『戦争』の強豪高として全国的にその名が知られていたらしい。


「まっ、盛者必衰ってね」

「...そんなもんかね」


高校への道の途中で会った亮とそんなことを話ながら歩く。


「じゃあ、なんで亮は統羽の戦争部に入るんだ?戦争部なんて統羽じゃなくてもあるんだろ?」

「なんでって、そりゃあ、統羽が良いからに決まってるじゃないか」

「...あっそ」


気楽にそう答えた亮に雀は呆れたように返事をかえす。

はは、と亮が笑う。雀は亮と親友、幼なじみと呼べるほどには時間を過ごしている。たったそれだけの答えで会話ができる程度には二人は仲が良い。


「そういや雀、ちゃんと入部届もってきた?」

「あぁ、持ってきたぜ。でも説明を受けただけで入部とは我ながら大胆だなぁ」

「時にはそういう大胆さも大事だよ」


昨日の夜降ったらしい雨のせいでじめじめとした道路を二人は笑いながら歩いた。

早い時間に家を出発したのもあって、かなり早くに学校に到着した。部活の朝練の声が既に聞こえていた。

雀と亮は朝練に勤しむ生徒達を眺めつつ、教室へ向かった。教室にはすでにほとんどの生徒が揃っていた。


「やぁーみんなおはよう!」


亮が声をかけながら入っていく。入学して次の日であるにも関わらず、女子も含め過半数のクラスメイトがそれに応えていたのを見ると、亮の社交性の凄さがわかる。雀は自分の席を探しだすと、鞄から教材を取り出した。雀たちの科は普通科なのでこれといって中学とやっていることは変わっていない。


「ほらお前らー席着けー」


ガラガラ、と教室の扉が開き、めんどくさそうに言いながら1人の女性が入ってきた。それに気づいた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように自分の席に戻っていった。


「あー、まぁ昨日も言ったけど一応。お前らの担任になった笹木真琴(ささき まこと)だ。担当は数学。これから一年、もしかするとそれからも付き合っていくかもしれん。よろしくな。それじゃあ出席とっていくぞ―...ってもまさか初日から登校拒否はいないよな?」


笹木はそんなことを言いながら出席をとっていった。笹木は校内でも人気が高いらしく、その証拠に結構な美人でテレビで見る芸能人よりは断然魅力があった。後ろで纏めている長い黒髪が動く度にゆらゆらと揺れていた。


「―よっし、全員ちゃんと来てるなー。優秀優秀。連絡事項は...特にないな。あ、それと入部届は顧問に渡すのは私に提出してからな。んじゃ、ホームルームを終わる」


笹木はそう言うと教室から出ていこうとした。


「雀!入部届、出しに行こ!」

「おう」


亮に促され、笹木のあとを追うと、すでに何人かが入部届を渡していた。


「お願いします」

「はいよー...ってなんだお前ら二人戦争部に入部するのか」

「そうですけど...何か?」


亮が聞き返す。


「...別に。了解、じゃあ二人は今日から部活参加していいぞ」

「いや、俺らまだ顧問に出してないんすけど?」

「あぁ、そっか。私昨日部活行かなかったからなー。戦争部の顧問、私だから」

「えっ!?そうなんですか!」


亮が驚く。


「まぁな。んじゃ、そういうことでよろしくな~」


そういい残して笹木は職員室に消えていった。


「いやはや、まさか担任が顧問とは...」

「すごい偶然だな」


そんなこともあり、雀は亮と喋りながら廊下を歩いていた。そして何気なく他クラスの教室の前を通ると―


「...ふんっ」


天木楓とすれ違った。そして睨まれた。


「理不尽だ」

「ん?どうかした?」

「あーいや、なんでも」


一体俺が何をしたのか。そんな疑問を抱きつつ時間は過ぎていった。――――そして、放課後。


「っし、待たせたね。それじゃ行こうか」

「おう」


雀は亮と昨日訪れた戦争部の部室に向かった。昨日は気付かなかったが、戦争部の部室は他の部室からは少し離れた場所にある。確かに基本的に広い室内で行う競技ではあるし、ルール上、危険物を振り回すのだから当然の処置ということか。


「おや?君たちは昨日の―」

「あ、はい!今日から正式に戦争部に入れてもらえることになりました!」

「成る程...ということは顧問はもう誰か分かったね?」


雀と亮が部室に来ると小柄な女子―部長の三葉が部室の鍵を開けていた。


「まだ部長だけですか?」

「今のところはねー。そうか~君たちもう部活に参加するのか~。なにから練習させれば―」

「とりあえずは筋トレとか、基礎練だろうな」


三葉がムムム...と頭を捻らせていると背後から声がかけられた。


「えっと―副部長の四宮先輩でしたっけ?」


亮が言う。


「あぁ。二人はジャージはもってきてるよな?」

「はい。マーセナリィの基礎練ってどんなことするんですか?」

「基礎練と言っても色々あるが...とりあえずはマスディからだな」

「マスディ?それってどんなことするんすか?」


初めて耳にする単語を雀が問いかけた。


「マスターアンドディサイプル...まぁ直訳すれば師匠と弟子。要するに先輩がマンツーマンで教えることだよ」


三葉が四宮よりも早く答えた。


「マスターアンドディサイプルでマスディ...なんというか単純っすね」

「まぁね。基本的にこれは同じ武器を使ってる先輩がつくんだけど...」

「藤田は湯本につかせればいいだろう。九条は...どうしたものか」


ふむ...と四宮が考え込む。


「最初のうちは三葉が教えていても問題ないと思うが、カタナとソードは全く性質が違うからな...」

「まぁ、とりあえずは私のとこで教えとくよ。詳しいことは先生が来てから決めよ!」

「だな。...では二人にはとりあえず...」


そのとき部室のドアがゆっくりと開かれた。


「あの、失礼しますっ!」

「四宮さん!」「沙綾!」


部室に入ってきた女子―四宮沙綾に雀と四宮和樹が反応するのはほぼ同時だった。







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