#2 戦争部
「終わった...」
入学式のあと、それぞれのクラスに分かれての学級活動があった。自己紹介やら、課目の説明やらと雀にとってはさして興味のない事ばかりだった。雀がぼんやりと窓から町を見ていると、うしろから声がかけられた。
「ようし、雀、それじゃあ部活動体験に出発しようか!」
「...亮、なんでそんなに楽しそうなんだ?」
雀が亮の右手を見ると、わくわくとした様子でリズムを刻んでいた。
「そりゃあ、あの統羽の戦争部だからね!」
「あのって言われてもなぁ」
雀はゆっくりと腰をあげると鞄に荷物をまとめた。
「それで?その戦争部とやらはどこでやってるんだ?」
「え?雀、教室に来るときに見えなかったの?」
「なにが」
「戦争部の部室さ。あの大きな」
確かに亮の言うとおり、体育館から教室までのルートに戦争部の部室が見える場所は何ヵ所もあった。しかし、雀はずっと携帯を弄っていて、周りの様子など全く頭に入ってはいなかった。
「あ...うん。あったな。でっかかったな」
九条雀、迫真の知ったかである。
「ということで、今からそこに行くよ」
「分かった。でもこんな急に行っても良いのか?」
「雀...部活動体験は今日からスタートなんだよ」
「......知ってる」
二人は教室をでると、1年教室のある二階から降りようと、階段に向かった。道中、すでに体験の始まっている部活の声が聞こえてきた。
「そういえば、雀って今までずっと帰宅部だったよね」
亮が思い出したように話し出した。
「どうしてまた高校で部活を?」
「いや、俺も最初はそうするつもりだったんだけど、椿さんがなんかやっといた方が良いって」
「なるほど...椿さんがねぇ。それはもう従うしかないね」
「ああ」
話しているうちに一階に着いた。新入生や生徒会らしき人達が職員室を出入りしていて、廊下はとても賑やかだった。
「はぁ~、こうも活気があるとうるさくもおもえるな」
「そう?僕はこういうの結構好きだけど」
「そうかい」
二人は校舎からでると人通りのある道から少しはずれ戦争部部室に向かった。
「おっ!雀、着いたよ」
「やっとか。にしても本当でかいな」
そう言って雀は部室を見上げた。そこは部室、というよりは少し小さいドームといわれた方が納得いく大きさだった。中からは何やら人の話す声が聞こえる。
「こんちは~!」
亮が勢いよく部室のドアを開いた。手前には休憩スペースのようなものから、まるで会社の会議室のような部屋まで上等な設備が揃えられていた。奥には頑丈そうな大きな扉があった。そしてその休憩スペースには2人の男女が腰かけていた。
「おぉ、いらっしゃいました新入生クン!」
そう言って一番に立ち上がったのは短髪の小柄な女子生徒だった。
「体験入部だね?うんうん、よく来てくれたよ!」
その生徒はそのままこちらに近づいてくると、こう続けた。
「私は戦争部の部長やってる、三葉 遊佳!」
「え!?部長!?」
亮は本人の目の前で驚いた。
「キミっ!人は見かけで判断しちゃいけないんだよ!」
そういうと遊佳は二人に向き直って、話を続けた。
「二人とも、体験で間違いないよね?」
「あ、はい!」
「キミも?」
「...はい」
雀も頷いたのを確認すると、遊佳は満足そうに笑った。
「ごめんね、今ちょうど2年生の試合中でさ。二人は『戦争』をやったことは?」
「二人ともないです」
「そっか!全然大丈夫だよ!部員のなかにも初心者だった人いるし」
そういって遊佳は近づいてきた男子生徒に目をやった。
「三葉、はしゃぎすぎだ。すまないな、部長がこんなで」
「あ、いえいえ」
亮が対応する。
「俺は副部長の四宮という。今いない部員も何人かいるが、それはおいおいということで」
そう言うと四宮は頑丈そうな扉に歩いていった。
「さっきも言ったが、今2年が軽い試合をしている。見ておくといい」
そう言うと四宮は雀と亮を休憩スペースの椅子に座らせた。
「うちのフィールドはノーマルしかないが、初めて見るなら十分に楽しめるだろう」
四宮は休憩スペースに備え付けられている大型のモニターを指差した。画面には青色のラインが光るスーツをきた男女とオレンジのラインが光るスーツをきた二人の男子がそれぞれ映し出されていた。
「せっかくだし、試合見ながらルールも説明しちゃおうか」
遊佳が提案した。
「だな。『戦争』は同じ人数で2チームに分かれて試合を行う。普通は1チーム6人なんだが、うちの2年は4人しかいないのでな。青チームの男子が湯本、女子が北崎。オレンジの大男が吉田、髪の長いのが浜崎だ」
四宮は2年の紹介も混ぜつつルールの説明を続けた。
「『戦争』のルールは至ってシンプルだ。相手を戦えなくして、全滅させろ。簡単だろ?」
本当に簡単そうに四宮が言った。
「あの、戦えなくするってのは具体的に?」
亮が手をあげて質問した。
「相手を戦闘不能にさせる方法は主に2つ。1つは直接攻撃して設定された相手の耐久を削り、強制的に『敗北』させる。もう1つは相手の武器を破壊し、無力化させる。相手が降伏するという例外もなくはないが、まぁ、ほとんどないから今言った2つが戦闘不能にする方法だな」
「武器って壊れるんですか!?」
「あぁ。ソードやアックスはなかなか頑丈だが、レイピアやカタナは全力攻撃を刀身で受け止めると折れてしまう事がある。ほら、画面を見てみろ―」
四宮が画面を指差した。そこには槍のような武器をもった湯本と斧をもった吉田がつばぜり合いをしていた。斧での強烈な打ち込みに湯本は長い柄を使ってなんとか防いでいた。
「どっちが壊れると思う?」
雀に遊佳が問いかけた。
「この様子だと、あの槍―」
「あぁ、あれは槍じゃなくてハルバードって言う武器だよ」
遊佳に指摘されて一瞬、雀の顔が動揺する。
「...あのハルバードを持ってるほうが破壊されるんじゃないですか?」
「どうかな~?」
ニヤニヤしながら遊佳は画面に視線を戻した。
(どう考えたって、ハルバードが―)
雀がそう考えた、その時だった。ハルバードを持つ湯本が斧の攻撃の一瞬の隙を見極め、くるりと吉田の後ろに回り込んだ。それに気づき、吉田もあわてて方向転換する。が、その一瞬のうちに湯本が見事にハルバードをふるい、斧の刃を柄から切り離した。
「...マジか」
「ね?スゴいでしょ?」
遊佳が雀にウインクをした。
「とにかく、今のが武器破壊だ。『戦争』では武器を使用しての攻撃以外は禁止されている。この調子だと湯本と北崎たちが勝つな。次にいこう」
そう言うと四宮は雀と亮を連れ、フィールドに続く、扉の側に向かった。その扉のそばにはもうひとつ小さな部屋が設けられていた。
「ここは?」
「ここは武器管理室。ここには『戦争』で使う武器が保管されている」
四宮の言葉の通り、その部屋にはロッカーのようなものに、沢山の武器が保管されていた。メジャーな剣から死神の持っていそうな大鎌まで数種類の武器が用意されていた。
「知っているとは思うが、『戦争』は11種類の武器を使用する。選手はこの11種類の中から武器を選び、試合に挑むんだ」
そう言って四宮は雀達にタブレットを渡してきた。その画面には武器の画像とその武器の使用者が映し出されていた。
「レイピア、サイズ、スピア、アックス、メイス、クロウ、ソード、ハルバード、ロングボウ、カタナそしてパイルバンカー。この部室には11種類すべての武器が用意されている。本来なら部員以外には触らせてはいけないんだが...君たちは入部してくれるんだろう?」
「まぁ、そのつもりです」
「ならば、武器に触れても大丈夫だろう。いいな三葉!」
「ぜーんぜんオッケー!」
「ということだ。気になったものを選ぶといい」
雀はタブレットの画面をスクロールして武器を眺めた。用意されている武器は本当に多種多様でパイルバンカーなんていう誰が使うのか分からない巨大な武器まである。隣では同じように亮がタブレットを弄っていた。
「じゃあ、僕はこれで!」
「どれ。なるほど、スピアか。これなら扱いやすいし、いいんじゃないか?」
亮が選んだスピアという武器は簡単に言うと槍だ。長い柄の先に鋭い刃がついている。
「キミはどうするの?」
遊佳が雀のタブレットをのぞきこんだ。
「...今までその、『戦争』っていうのを観たことがないんで...なんとも」
「へぇ~、本当に初心者なんだね~。それなら面白そうに思ったのでいいんじゃない?あくまでも体験だしね?」
「確かに...じゃあ...これを」
そう言って雀が選択していたのは武器欄の一番最後にあるカタナだった。
「ほ~、カタナかぁ。扱いが難しいけど体験だしね。じゃあ、はい」
そういって遊佳が雀に渡したのは古めかしい日本刀―ではなく近代的な装飾の施された鞘付きのカタナだった。
「カタナは当たれば強いんだけどね、めんどくさいことに鞘とセットなの。だから試合中もイチイチ鞘から抜き放って使わないといけないんだ。それに他の武器より、刀身が脆く設定されているから武器破壊もされやすいんだよね」
遊佳は雀に軽くカタナの説明をした。亮も四宮にスピアの説明を受けているらしく、メモ帳を手に熱心に話を聞いている。
「聞けば聞くほどめんどくさい武器っすね」
「ははっ、まぁ他の武器と違ってカタナはロマン武器ってのがあるからね」
そう言って遊佳は笑った。
「別に、変えてもいいよ?」
「あ、いえ。面白そうなんでこれにします」
「そっか。じゃ、頑張ってね。私、部長の集まりがあるから。じゃ四宮、あとよろー」
そう言って遊佳は部室から出ていった。
「よし、二人とも次は―」
ガチャンッ
四宮が口を開くのとほぼ同時に、勢いよく、部室の扉が開かれ、1人の少女が現れた。