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#1 始まり

戦争(マーセナリィ)』―一定の範囲が決められたフィールドで、1チーム6人による武器を使用しての殲滅戦を行う競技。2050年に流行りだしたこのスポーツは瞬く間に人気になり、2055年にはオリンピック競技にまで成り上がったー


2050年、いち早く部活動に『戦争』を追加した統羽高校は当時、生徒数が2000を越えるという快挙を成し遂げた。一流選手を数多く輩出し、メディアからの注目も集めた。


そして現在ー2058年、4月。統羽高校入学式。


「ここが、統羽高校...」


桜が舞い散る中、校門を見上げる一人の少年がいた。まだ新しい統羽高校の制服を身につけたその少年は同じく新しい鞄を持ち直すと、統羽高校へと足を踏み入れた。


「おーい!さーくー!」


後ろから緊張した雰囲気に似合わない元気な声が響いた。さくと呼ばれたその少年は足を止め振り返った。


「おぉ!(りょう)じゃんか!」


亮と呼ばれた少年は手をふりながら走ってこちらに向かってくる。亮はサクと同じく統羽の制服を着ていた。


「なんだ、お前も統羽だったのか!」

「いやぁ俺もビックリしたよー。なんか知ってると思ったら、サク何だもんよ」


二人は笑顔で話をすると一緒に入学式の行われる体育館に向かった。


「にしても、ここ凄い広いな!」


亮が感心するようにいった。確かに、この高校は部活動が盛んでそれなりに敷地もあるらしい。現に、まだ朝早い時間であっても少し遠くからは部活動生の活気のある声が聞こえてくる。


「だな。そういえば、亮はなんか部活するのか?」

「ん?あぁ、もちろん!」

「何するんだ?」

「ふっふっふ。統羽高校といえば、戦争(マーセナリィ)だよ、サク!」


亮は自慢気にそう言った。


「マーセナ、リィ?なんだそれ?」

「えぇ!?サク知らないの!?」


サクの発言にひどく驚いた様子の亮。それもそのはず、戦争(マーセナリィ)は3年前に正式にオリンピックの競技として登録された。それはテレビでも報道され、小学生だって知っていることだ。


「なんで知らないのさ!?この前もテレビでやってたよ!」

「悪いな、ウチにはテレビなんてものはないんだ」

「あ...そうだった。すっかり忘れてた」


納得したように亮はガックリと肩を落とした。


「で?そのマーセナリィとやらは統羽が有名なのか?」


サクが亮に訊ねた。


「うん...まぁ、有名っちゃ有名なんだけどね。最近は部員も減ってるみたいだ」

「そうなのか?」

「そうさ。もともと『戦争(マーセナリィ)』を部活動にしたのが統羽なんだけど、皇聖が『戦争(マーセナリィ)』に力を入れ出してからは、そっちにもってかれてるね」


そう。統羽高校の側には皇聖高校というもうひとつの高校があった。統羽高校が部活に『戦争(マーセナリィ)』を追加して直ぐには、生徒が減少したが、すぐに『戦争(マーセナリィ)』を部活動に追加し、今では統羽高校に勝る名門校として有名になっている。その事を亮から聞いたサクはふと疑問に思った。


「じゃあ、なんでお前は皇聖にいかなかったんだ?」

「甘いねぇサクは。統羽があるからこそ部活動としての『戦争(マーセナリィ)』があるんだ。なら統羽で『戦争(マーセナリィ)』をやってこそだろう?」

「さいですか」


そんなことを話ながら二人で歩いていると体育館についた。入学式は9時から。今は8時半でまだ少し時間があった。用意されていたパイプ椅子に二人は腰かけると、ゆっくり時間を待とうとした。


「ふむ...暇だな。亮、なんか面白いネタでも―」

「ないね。そんなに暇ならもう少し校内を見てまわったら?」

「....そうするか」


サクは椅子からたちあがると体育館を出た。9時まではまだ時間があった。


「...トイレにでも行くか」


サクはそう呟くと、ふらふら~っと校舎一階のトイレへと向かった。廊下では校庭から野球部のかけ声やボールがバットにあたるカキーンという音も聞こえた。


(部活かぁ...ん?)


サクが何気なく校舎裏に目をやると、1人の女生徒が立っていた。


(何やってんだろ?)


その少女はなにやら1人でオロオロしているようで、端から見るととても怪しかった。胸には藍色の学年章がついていた。それはサクの胸についている学年章と同じ物だった。


(あの子も新入生か...)


サクはふと時計を見た。針は8時50分を指しており、急がなければ入学式が始まってしまう。


(ちょっと話を聞きに行くか...)


叔母に「女の子には優しく」と教わってきたサクは少女のいる校舎裏に向かった。


(いた)


サクが校舎裏につくとあの少女はまだオロオロしていた。


「あの―」

「ひゃあっ!!」


サクが声をかけると少女はビクンッと肩を動かした。


「あぁ、ごめん。何してんのかなと思って」


その少女は髪を二つ結びにした小柄な体格をしていた。


「どうしたの、こんなところで?」

「あっ!はい...その...迷子に...なってしまって...」


そう言うと少女は顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。


「なるほど。確かにここ広いしな」

「面目ないですぅ」

「君、名前は?」

「ひぇ!?わ、私、ですか?」

「あ、うん。そのつもりだったんだけど」

「そ、そうですよね。えと、私、四宮(しのみや) 沙綾(さあや)と言います」


そう言うと沙綾と名乗った少女はまた顔を真っ赤にした。


「そう。よろしくな。俺は九条(くじょう) (さく)

「さ、く?」


どうやらサクというのを漢字に変換出来なかったようで沙綾はキョトンとした表情をしている。


「あ、えと、すずめって書いて雀」

「すずめ...あぁ!」


合点がいったようで沙綾は表情を明るくする。


「っと、話してる間にこんな時間だ。四宮さんも新入生だよな」

「は、はい!」

「よし、じゃあ急ぐか」


雀は沙綾の腕を掴むと体育館に向かって走り出した。




「はぁ、はぁ」


二人とも急いで走った結果、盛大に息切れをしていた。沙綾にいたっては咳き込んでしまっている。


「ごめん、ちょっと走り過ぎたかな?」

「あ、いえ。私、もともと体が弱いんです」

「そうだったの!?ごめん、そうとは知らずに―。でも、もう体育館もすぐそこだし、歩いても大丈夫だな。時間も間に合うっぽいし。じゃあ、四宮さん。またどこかで」


そう言うと雀は沙綾のもとを離れようとした。すると、


「あ、あの!」


うしろから沙綾に話しかけられた。


「あの、雀さん、ありがとうございました!」


そう言って沙綾は深々と頭を下げた。その綺麗なお辞儀からは良い家柄なのが見てとれる。


「良いって。ほら、せっかく走ったのに遅刻するぞ?」

「あ、はい!」


そう言って二人は笑いながら別れた。


「ん?なんか良いことあった?」


椅子に戻ると、すでにたくさんの生徒と仲良くなっていた亮がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「別に。可愛い女子と一緒にいただけさ」

「な、なにを当たり前のように!?入学式での出会いはかなり強力なフラグだよ、雀!」

「なにいってるんだ、お前」


そのあと少し他の生徒とも話をしていると、放送がはいった。


『これより、統羽高校、入学式を開始します』


大きな拍手が起こる。新入生の後ろにはそれぞれの保護者が座っていて、子供の晴れ舞台をカメラに納めようと、頑張っている。


(にしても、眠いな...)


雀は校長の話を聞き流しながら遅い来る睡魔と格闘していた。入学式が始まって数十分後、


『新入生、挨拶』


代表の生徒が舞台上に上がった。その瞬間、生徒たちがざわめいた。


「雀、雀、起きてみろよ!」

「なんだよ...」


バシバシと亮に肩を叩かれ、雀が目を開ける。


「どした」

「見ろよ、新入生代表の子、めっちゃ可愛いぞ!」


なんだそれ、と雀は呆れたがやはり、思春期の男子としては少し気になったので、舞台に目をやった。そこには髪を揺らしながら、優雅に歩く、絵にかいたかのような美少女がいた。


「晴れやかな―」


その少女は透き通った声で挨拶文を読み始めた。その声、姿にほとんどの男子生徒が目を奪われていた。それは雀も例外ではない。


(...あんなに綺麗なヤツ、現実にいるんだな)


雀はそんなことを考えていた。


「―私達はこの統羽高校で新たな生活を送っていけることを誇りに思います。新入生代表―」


雀は無意識のうちに耳を澄ませていた。


「―天木(あまき)(かえで)





「ふ~、終わったあ~」


入学式が終わり、立ち上がった亮が伸びをした。


「にしても、代表の子かわいかったな!」

「確かに。なんか同じ人類に思えなかったよな」


亮と他の男子がそんなことを話して、青春を謳歌しようとするなか、雀はまったく違うことを考えていた。


(なんかアイツ...性格悪そう)


朝、礼儀正しい沙綾にあってしまっていた雀はどうしても天木という生徒の性格が悪いように思えてしょうがなかった。先入観の問題である。


「なぁ、雀。お前も一緒に『戦争部』入らないか?」

「なんだその物騒な部活は」

「あはは...『戦争(マーセナリィ)』をする部活だよ」

「あぁ...でも、俺やったことないしな」

「俺もやったことないよ。で?どう?」


雀は迷ったが、特に迷うような候補が無いことを思いだし、答えた。


「まぁ、特に入りたい部活もないしな。亮も入るなら、やってみるか」

「そうこなくっちゃ!それじゃ、学活が終わったら、早速見学にいってみよう!」



そうして、雀と亮は『戦争部』へと向かうのであった。





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