僕の血は鉄の聖書【読了2分】
奉仕という言葉がある。利害を離れて国家や社会などのために尽くすこと、という意味だ。
ボランティアという言葉がある。自発的に奉仕活動に参加する人のことだという。
「我が校ではクリーンキャンペーンと題して……」
その夏は暑かった。校長先生のありがたいお話をまともに聞いている人間は、多くない。僕はその数少ない人間のひとりだった。校庭に茂った雑草たちがざわざわと風に揺れる……。その風は決して涼しくはなく、熱波は逆に汗を流させた。
校庭に集められた百人程度の生徒たちとその保護者たちは既にだれていた。まだ朝八時だというのに汗がちっともひかない。過酷な日であった。集められている約二百人のうち、まともにその日の奉仕活動に参加する気のあるものは一割に満たないだろう。
奉仕活動というと、雑草をむしったり、窓を拭いたりするあれだ。ここにいる百人くらいの生徒たちは三年生で卒業前に学校に貢献する、という名目で学校の清掃をさせられる。大抵の生徒たちは勝手知ったる様子で、校舎内の穴場スポットでボイコットを決行し、保護者たちは適時草を引っこ抜いたり、窓を拭いたりしながら談笑する。
本当の意味で奉仕をしているものはいないのだろうか。僕はキャップを深くかぶり、首にかけたタオルで顔の汗をぬぐった。山のように積み上げられた雑草を見て、満ち足りた気持ちになり、さらに雑草を抜く。
「くっ……」
細い葉に手を切られてしまった。指先にかすかに赤色が滲む。
血だ。あいにくと絆創膏は持っていない。僕は指先をなめる。
鉄とかすかに草の味がする。気づけばもう夕方だ。あたりに人の気配がない。
奉仕活動はとっくに終わっていた。