夕月と暁空
背中合わせのような小さなふたつの影。夕刻に白く浮かぶ細い月に、朝焼に染まる赤い空。色づくそれらが出逢うのなんてほんの一瞬で、何かの奇跡みたいに一日に二度まみえるだけ。夕暮れに向かう午後五時と夜明けの朝の五時。申し合わせたように入れ替わって、それぞれ自分の場所へ帰るんだ。すれ違う瞬間、片手と片手を合わせて鳴らして。きっと慰みの微笑を交わしているんだろう。詩人に抱かれた曙は快楽を知ったかい。詩人に歌われた月影は夢を見られたかい。幻みたいなそれが本当だったら、いつかぼくも照らされるときがくるんだろうか。小さな雑草のぼくが踏みつけられながら、見つかって摘み取られる日がくるだろうか。夕暮れの月も明けていく空も、憧れで眩しさしか見えないんだ。せめて毎日居てくれるそのふたつの光が、いつまでも輝き続けてくれるよう。ぼくの寄る辺として消えることのないよう。
祈ることしかできない。