1/8
プロローグ
『俺の代わりにあの子に伝えて』
ざあっ、と音を立てて、風が通り過ぎた。それに合わせて草花も揺れる。まるで、俺が今言った願い事を否定するかのように。
――大切なことは、自分の口で伝えろ。
風が遠くへ行ってしまうと、草花も黙り込んでしまった。周囲には、水の流れる音だけが残る。いつもと変わらない、河川の風景だ。
名前も知らない雑草は、俺の様子を静かに見守っている。彼らは平常、無口なのだ。むしろ普段は何も話さない。少なくとも、俺から見れば。
けれど彼女からすれば、この草花はとてもお喋りなのかもしれない。
自分で伝えろ、か。
俺は大きく口を開けて息を吸い込むと、声とすら呼べない掠れたものを吐き出した。