青色生誕祭
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
産まれる、となると君はどのような色を想像するだろうか。
人の場合、赤を連想する声が比較的多かった。やはり自分の身体を流れる血の色が想像しやすいのだろうかね。もちろん、いくらか違う色を想像した声もあったなあ。
僕かい? 僕はねえ、青色のイメージかなあ。
産まれる、というのは広々とした世界へ接することで、はじめて誕生する概念だと思っている。その世界を覆っているのは空であったり、海であったり……いずれも青で描かれることが多い場所だからさ。
ゆくゆくは地下とか、試験管の中とかサイエンスフィクションの香りが強まる時代もくるかもしれない。でも、僕はやはり自然の成す青さに触れることが、命の産まれることである、という印象が強いわけ。
まあ、感性だけの話じゃないよ。過去の経験もちょこっと関係しているのだけどね。
そのときのこと、聞いてみないかい?
シール交換。
君のまわりじゃどうだろう? 流行っていたりしたかな? あるいは、現在進行形で流行っているのか。
互いに持っているシールを交換しあいながら、手帳などへ貼っていってコレクションする。視覚的にも、収集欲的にも、興味がもりもり湧いてくるだろう。人と接する機会も増えるしコミュニケーションのきっかけとしてもふさわしい。
僕自身は、はたでそれらの様子を見ているだけだったんだが、このシール交換でひとり、特徴的なシールを配っている子がいた。
その子はシール交換するメンツの中でも、格別に多くシールのやりとりをしていたな。クラスや学年を問わず、顔が広かったのだと思う。
もらうシールは多種多様だったが、彼女側から配るシールには共通点があった。
青色をベースとしている。縁のみが青だったり、内側まで青に染まっていたりとバリエーションはあったものの、模様やキャラに至るまでどこかしら青みを帯びているものばかり。
当時のシールとしては、いかにもファンシー系を連想させるようなピンク色をベースにしたものが多かったから、彼女のものはひときわ目立ったさ。
ただの交換におさまっているうちは、僕だってとやかくいう気はなかった。
けれども、しばらくして彼女は校舎内の様々な場所へ、シールを貼り付けるようになっていったんだ。
最初のうちは、物の影とかにこっそり貼られていて、掃除で細かく見るときなどでないと発見しづらいポジションにあった。シール自身もまた、先生が記録用紙などへ貼るような、小さくて丸い青シールだったから、何かの拍子に台紙からこぼれて貼りついちゃう事故とかあるかなあと勝手に思い込んでいたよ。
それがやがて、天井とか壁とか掃除用具入れの中とか、普段生活していれば目につくところへ頻出してくるようになる。こうなると、もう事故や偶然で片付けるには無理があった。
まだ犯人が誰かまでには思い当たらなかったけれど、下校途中でたまたま教室に忘れ物をしたことを思い出して、取りにかえったときにシールを貼っている彼女とかち合ったというわけさ。
彼女は無人の教室で、天井へシールを貼っているところだった。ご丁寧に、僕の机の上に乗っかってね。
「あ」と目があった瞬間、一緒に声をあげていたよ。そのときにはちょうど、僕の席の真上に青色のキャラクターシールが貼られ終わっていた。当時、人気だったアニメのキャラクターをデフォルメしたやつだったなあ。
席を勝手に踏んづけてくれたことの謝罪を彼女から得た後で、申し開きを尋ねる僕。
「青色生誕祭が迫っているの。その準備のため」
あおいろせいたんさい~? と僕は明らかに眉唾な口調で復唱してみせる。
彼女いわく、この世界に青色を補充するために必要な儀式とのことで、今回はこの学校の環境がそれにふさわしい地点かつタイミングもよいからとのことだった。
「はあ? 理科の授業でいってたじゃん。空や海が青いのは、空気中の分子に光がぶつかって散らばったり、水が他の赤い光とかを吸収しちゃったりしたからだって。結局は光の関係なのに、あたかも『青』そのものがあるような言いぐさだけど? 聞いてると」
「うん、君の言っていることこそもっともなんだろうね。けれども、中には光によらない青色が混じっていたりするんだよ。放っておくと悪さをしがちなそれを、どうにかしておくと……」
と、言いかけたところで、ふと教室がぐらりと揺れる。
地震? と思いかけたけれど、彼女がそっと手渡してきたものがある。サングラスだ。
「う~ん、思ったより早産ぽい……ごめん、もう産まれるみたいだから、これかけといて。そうしないとこれから先、青一色しか見えない世界で生きることになるから」
急に物騒なことを言われて、わけもわからないままサングラスを装着。彼女も同じようにサングラスをしたところで、にわかに目の前がまぶしくなった。
サングラス越しでも目を閉じたくなるくらいだったから、ただごとじゃない。光は3秒ほど続いておさまったけれど、それがやんでからは先の天井を含め、彼女が教室各所に貼ったシール周りから、青くて粘つく液体が垂れ落ちていた。
腐敗臭に近い気がしたけど、長く嗅いでいると、おのずと鼻やのどをかきむしりたい衝動に駆られる、気味悪いものだったよ。
彼女の話だと、あれでも「お産」はうまくいったほうだとか。
もし失敗すると、学校全体があれに汚されていた恐れがあるとも。産まれた「青」については、これ以上くわしくは教えてもらえなかったよ。




