婚約破棄を突きつけられたので、素直に受け入れました。……え? 待って?
婚約破棄を突きつけられたので、素直に受け入れました。……え? 待って?
王太子から婚約破棄を宣告された悪役令嬢エレナ・フォン・ローゼンタール。
前世の記憶を持つ彼女は、これが死亡ルートだと知っていた。
「わかりました。ご意向に従います」
素直に頭を下げて退室したエレナは、さっさと実家に帰る準備を始める。
ところが、王太子殿下をはじめ周囲の貴族たちが突然慌てふためき始めた。
「エレナ! お前がいなくなったら国が回らないんだぞ!」
ざまぁ展開のはずが、なぜか予想外の溺愛と逆転が待っていた――。
王太子アルフレッド殿下の冷たい声が、謁見の間に響いた。
周囲の貴族たちが息を飲む中、私はゆっくりと頭を下げた。
「わかりました。ご意向に従います」
殿下の声が一瞬、間抜けに聞こえた。
私は顔を上げ、穏やかに微笑む。
「婚約を解消いたしましょう。殿下がお望みになる女性と、どうぞお幸せに」
前世の記憶を持つ私は、このシーンを何度も夢に見てきた。
ここで逆らえば、確実に死亡フラグが立つ。
聖女と呼ばれた平民の娘にすべてを奪われ、私は陰謀の罪を着せられて処刑される運命だ。
だから、素直に受け入れる。
これが最善の生存ルート。
「待て、エレナ。お前……本当にそれでいいのか?」
殿下が眉をひそめる。
私は心の中でガッツポーズをしながら、完璧な令嬢の笑顔を保った。
「はい。殿下のお心が定まられたのなら、私がしがみつく理由などございません。
では、失礼いたします」
くるりと背を向け、私は優雅に歩き出す。
後ろで慌てた足音が聞こえた。
「エレナ! 待てと言っている!」
無視して廊下を進む。
もうこの城には用はない。
実家に帰って、のんびり領地経営でもしよう。
次の日。
実家の屋敷で荷造りをしていると、突然王宮からの使いが殺到した。
「エレナ様! 殿下が大変お怒りです! すぐに戻ってください!」
「国庫の管理が滞っています! あなたがいないと数字が合わないと……!」
「魔力供給の調整も……エレナ様の魔力制御がなければ王都の結界が……!」
私は荷物をまとめながら、にこやかに答えた。
「申し訳ありません。私はもう王太子殿下の婚約者ではございませんので。
すべて殿下のご判断に従います」
三日目。
王太子殿下本人が、私の実家に乗り込んできた。
顔は青ざめ、目は血走っている。
「エレナ……お前、何をした?」
「何もしておりません。ただ、婚約を解消しただけです」
「嘘をつけ! お前がいなくなってから、王国の運営がガタガタだ!
財務書類は誰も読めない、魔導具の調整は失敗ばかり、聖女とやらはただ祈るだけで何もできない!」
私は心の中で大笑いしながら、肩をすくめた。
「それは殿下が、私を『ただの飾り』だと思っていたからですよ。
実際、私はこの国の裏方をほとんど一人で回しておりました」
殿下が膝をつく。
「……すまない。俺が悪かった。
お前がいないと……本当に何もできないんだ」
周囲の貴族たちも、次々と頭を下げ始めた。
「エレナ様、どうかお戻りください!」
「王妃として、ぜひ……!」
私はゆっくりと殿下を見下ろした。
前世ではここで惨めに泣きながら処刑されるはずだった悪役令嬢。
今は、すべてのカードを握っている。
「殿下。私を必要としてくださるのは嬉しいですが……
素直に『愛している』と言っていただけますか?」
殿下が顔を真っ赤にして、声を震わせた。
「……愛している。エレナ。お前がいないと、俺は……」
私はようやく、本物の笑顔を浮かべた。
「では、婚約をやり直しましょう。ただし条件があります。
今後は私を対等なパートナーとして扱うこと。
そして、毎日ちゃんと『好きだ』と言ってくださいね」
殿下が勢いよく頷く。
その瞬間、周囲から安堵と羨望の溜息が漏れた。
ざまぁ、のつもりが、
予想外の甘い溺愛ルートに切り替わった。
私は前世の知識を活かし、これからこの国を、もっと強く、もっと豊かにしていくつもりだ。
もちろん、殿下をたっぷり溺愛させながら。
「エレナ……これからは、ずっと一緒に」
「ええ、もちろん。私の愛しい殿下」
私は優しく手を差し伸べた。
悪役令嬢の、幸せな逆転劇はこうして幕を開けたのだった。
(完)
お読みいただきありがとうございます!
婚約破棄を素直に受け入れたら、逆に周りが大慌て……という、ちょっと意地悪なざまぁから甘い逆転へ。
もし「続きが読みたい」「もっとざまぁが見たい」「長編化希望」などありましたら、ぜひブックマークや評価をお願いします!
次回も、読者の皆さんが「次はどうなるんだ!」と気になってしまうようなお話を届けたいと思います。
【4/18追記】
本作をお読み頂きありがとうございます。
本日、新連載を開始しました。
妹が「お姉様の代わりは務まります」と言うので、婚約者も役目も譲りました。ですが務まらなかったようです【連載版】
https://ncode.syosetu.com/n3418mb/
本作と同時期に投稿した同名の短編を連載化したものです。
光栄なことに、信じがたいほど多くの方々に読んで頂けた短編で(現時点で日間総合5位!)、この連載も少しでも多くの方々に楽しんでいただけるよう頑張ってまいります!
是非是非、皆様の応援をよろしくお願いいたします!




