入道雲
窓の外は、痛いほどに真っ青だった。
結愛は、冷たいフローリングに寝っ転がって、ぼんやりと天井と窓を眺めていた。網戸越しに見える大きな入道雲は、まるでわたがしのように真っ白で、音もなくその形を変えていく。
お母さんが帰ってくるまで、あと三時間。
開け放した窓からは、ときおり自転車がアスファルトを走る乾いた音や、遠くで誰かが歩いていく気配、車のエンジン音が入り込んでくる。世界はこんなに騒がしく動いているのに、自分だけが重力に負けて、床に吸い付けられているみたいだった。
何を見ていたわけでもない。ただ雲を追っていただけなのに、視界が急にじわっと滲んだ。
熱い雫がこめかみの方へ、耳の横へと、重力に従って流れていく。寝転がったまま瞬きをすると、視界は何度も歪んで、そのたびに涙が筋を作った。
一度溢れ出すと、心の中に溜まっていた「なんで」が、泥のように溢れ出してきた。
なんで。
なんで、学校はあんなにつまらないんだろう。放課後の教室で「どこ遊びに行く?」って盛り上がるみんなの声を背中で聞きながら、一人で靴を履き替えるときの、あの足元の冷たさ。
なんで。
なんで、パパがいないの。
友達が当たり前のように口にする「お父さん」という言葉。私にとっては、どこを探しても見つからない、名前のない空洞みたいだ。「お父さんとキャンプに行った」とか「日曜日に遊んでもらった」という何気ない言葉が、鋭いナイフのように心に刺さる。自分だけが、何かが欠けた世界に閉じ込められているような気がして、たまらなくなる。
「なんで……なんで、なんで……」
天井に向かって呟いても、答えは返ってこない。
体中の力が抜けて、ただ、ただ涙が頬を伝って耳の奥へ吸い込まれていく。
青い空も、白い雲も、外の賑やかさも、今の結愛には遠い別の世界の出来事のようだった。
結愛は寝返りを打つ気力もないまま、静かに涙を流し続けた。




