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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯
学園編

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19/19

同じ機体、違う存在


 訓練場は、城の工房よりも明らかに広かった。


 横にも、奥にも、余裕がある。

 天井はなく、空がそのまま覆いかぶさってくるような感覚がある。雲の流れすら、訓練の一部に含まれているかのようだ。


 地面は踏み固められた土で、ところどころに無骨な鉄板が敷かれている。

 規則的ではない配置。意図的に、だろう。


 転倒時の損傷を抑えるためだと説明されたが、実際に見てみると、印象はほとんど野外の闘技場に近い。

 血の代わりに、油が染み込む場所。

 剣の代わりに、鉄の脚がぶつかる場所。


 視界を遮るものはほとんどない。

 壁も、柱も、観覧席すら遠い。


 すべてが見渡せる。

 つまり、すべてが見られている。


 逃げ場はない。

 隠れ場もない。


 ハイドは、量産型鉄騎――サクス型のコクピットに立っていた。


 座っていない。


 立っている。


 それだけで、違和感は強烈だった。


(……やっぱり、違う)


 デュークは着座式だ。

 背中と腰で機体を受け止め、重量を身体に預ける構造になっている。重さを「支える」のではなく、「共有する」感覚。


 だが、量産型は違う。


 吊り下げ式。

 身体は宙に浮いたまま、ハーネスに固定されているだけ。


 足裏に伝わる感覚だけが、かろうじて地面と繋がっている。

 それも、直接ではない。

 鉄騎の脚を通して、間接的に、だ。


 身体の重心が、常に不安定だ。

 意識しなければ、すぐに前後左右へ流れていく。


 少し姿勢を誤るだけで、脚部の反応が遅れる。

 遅れる、というより、「迷う」。


 機体が、操縦者の判断を待ってしまう。


「……難しいな」


 思わず、声が漏れた。


 その瞬間、教官の言葉が頭をよぎる。


――量産型は、身体で乗る機体だ。

――立ち方を誤れば、どれだけ力があっても意味がない。


 最初の一歩で、それを理解させられた。


 踏み出した脚が、わずかに外へ流れる。

 転ぶほどではない。

 だが、確実に「合っていない」。


 機体の反応が、半拍遅れる。


(デュークなら……)


 思考が、自然とそちらへ向かいかける。


 だが、すぐに打ち消した。


 ここでは、それは関係ない。


 ここにあるのは、量産型。

 サクス型。

 家名も、象徴も、誇示もない。


 代わりに思い出すのは、城で受けていた訓練だ。


 背筋を、無言で正されたこと。

 肩の角度を、何度も直されたこと。

 視線の高さを、揃えさせられたこと。


 ただ「立つ」ことだけを、延々と繰り返した日々。


 意味が分からなかった。

 鉄騎に乗るのに、人間の立ち方が必要だとは、当時は本気で思っていなかった。


 だが、今は違う。


 ハイドは、わざと一度、動きを止めた。


 脚を止め、腕を止め、呼吸だけを残す。


 足裏に意識を集中させる。

 鉄騎の脚越しに伝わる、地面の硬さ。

 右と左で微妙に違う沈み込み。

 前後の圧の偏り。


(……同じだ)


 人間の身体と、鉄騎の脚は違う。

 構造も、素材も、重さも違う。


 だが、重さの流れだけは、驚くほど似ている。


 どこに重心があり、

 どこへ流れ、

 どこで止まるか。


 それは、人間が立つときと、変わらない。


 次の一歩は、さっきよりも安定していた。

 地面を「踏む」のではなく、「乗る」感覚。


「よし……」


 サクス型は、マスタースレイブ式。

 身体の動きをなぞるが、完全に一致するわけではない。


 意図と動作の間に、必ずわずかなズレがある。

 それを、操縦者が埋める必要がある。


 レバーも、最低限しか存在しない。


 再び、教官の言葉が浮かぶ。


――強く握るな。

――人間の力で足りる。


 理由は、すぐに理解できた。


 圧をかけすぎると、指が過剰に閉じる。

 金属同士が擦れ、無駄な力が伝わる。


 最悪の場合、自分でグリップを破損しかねない。


 逆に、弱すぎれば、武装を落とす。

 保持すらできない。


(……加減を覚えろ、ってことか)


 量産型は、力を誇示する機体じゃない。

 威圧のための存在でもない。


 感覚を合わせるための機体だ。


 何度か動かすうちに、身体が慣れてくる。

 思考より先に、微調整が入るようになる。


 気づけば、他の生徒よりも、明らかに安定していた。


「……あれ、上手いな」


 誰かの声が聞こえた。


 ハイドは、反応しなかった。

 褒められることに、まだ慣れていなかった。


 そのとき、ふと、隣の区画が視界に入る。


 イーリスだ。


 同じ訓練生。

 同じ量産型。


 だが、動きが違う。


 決定的に、違う。


 無駄がない。

 迷いがない。

 揺れが、存在しない。


 次の瞬間、理解した。


(……人間の感覚で、動かしてない)


 彼女は、機体そのものに触れている。

 感覚を介さず、数値として、構造として。


 重量分布。

 関節負荷。

 接地圧。


 すべてを即座に把握し、最適解を選び続けている。


 量産型かどうかは、関係ない。

 違いは、誤差に過ぎない。


 教官たちが、言葉を失う。


「……同じ生徒、だよな?」


「規定上は、な」


 イーリスは、何事もなかったかのように列へ戻る。

 視線を集めることもなく、誇ることもなく。


 特別扱いを求めず、次の指示を待つ。


 ハイドは、視線を前に戻した。


(比べるな)


 彼女は、ああいう存在だ。

 自分とは、土俵が違う。


 自分は、人間だ。


 それでいい。


 量産型鉄騎は、確かに動く。

 自分の立ち方で。

 自分の重心で。

 自分の意思で。


 ハイドは、もう一度、踏み出す。


 今度は、迷いなく。


 ここは、儀式の場じゃない。

 血筋を示す舞台でもない。

 見せ物の檻でもない。


 操縦を、技術に変える場所だ。


 そう理解した瞬間、

 ハイドは初めて、この学園で呼吸が楽になった。

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