表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炭鉱奴隷の俺が、伝説の鉄騎を掘り当てて女王に拾われるまで  作者: お湯
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/18

初めての決闘


 その日、王都の空気はいつもより重かった。


 王城の一角、古い石造りの回廊に面した会議室。そこに集められたのは、王国でも指折りの家柄を誇る貴族たちだった。彼らは皆、共通して一つの言葉を口にしないまま、しかし同じ対象を意識していた。


――ハイド。


 名も素性も曖昧な、鉱山から拾い上げられた男。

 女王シャルロットが目をかけ、鉄騎に乗せ、ついには「近衛騎士にする」と言い出した存在。


「……馬鹿げている」


 最初に沈黙を破ったのは、白髪混じりの壮年の貴族だった。

 レオポルト・グランヴィル侯爵。保守派の筆頭格であり、代々王国軍の中枢を担ってきた名門である。


「教育も礼儀も知らぬ男を、女王直属の近衛に? 冗談ではない」


 同席する貴族たちも、無言のまま頷く。


 彼らにとって近衛騎士とは、単なる武装要員ではない。

 それは血統と教育、家格によって選ばれる“王国そのものの象徴”だった。


 ましてや今度設立されるという学園――

 貴族の長子を集め、次代の支配者と鉄騎操縦者を育てる施設。


 そこに「ハイドを入れる」という話は、彼らの価値観を根底から踏みにじるものだった。


「女王陛下は、感情で国を動かしておられる」


 若い伯爵がそう言うと、別の者が苦々しく続ける。


「暗殺を防いだ功績は認めよう。だが、それと“近衛”は別だ」

「鉄騎に乗れるだけで貴族になれるなら、我々は何のために代々教育を施してきた?」


 会議室には、怒りというよりも“恐れ”が満ちていた。


 ハイドの存在は、彼らの正当性を揺るがす。

 血ではなく、実力で選ばれるという前例を作ってしまえば――

 次は自分たちの子供が、無名の誰かに居場所を奪われるかもしれない。


「だからこそ、決闘だ」


 レオポルト侯爵が低く言った。


「女王陛下は、こちらの反対を承知の上で“決闘”を認められた」

「勝てば、あの男は近衛になる。負ければ――話は終わりだ」


 それは、表向きは古き慣習に則った公平な判断。

 だが彼らは知っていた。


 決闘とは、形式を整えた処刑にもなり得るということを。


「相手は誰が出る?」


 誰かが問うと、侯爵は一瞬だけ視線を伏せた。


「我が家の次男だ。

 量産型鉄騎サクス型の操縦経験は十分。模擬戦も実戦もこなしている」


 ざわめきが走る。


 サクス型は量産機とはいえ、マスタースレイブ式の制御を理解していなければ扱えない。

 射撃時は自動制御とはいえ、照準と状況判断は完全にパイロットの責任だ。


「拾い物の男に、勝てるはずがない」


 誰かがそう言った。


 しかし、その言葉にはどこか自分に言い聞かせるような響きがあった。


 彼らは既に知っている。

 ハイドが、訓練を受けていないにもかかわらず、異常な適応力を見せていることを。


 だからこそ、恐れている。


 会議が終わり、貴族たちはそれぞれの屋敷へと戻っていった。

 だがその背中には、かつてない不安が張り付いていた。



 一方、別室。


 若い騎士服の男が、静かに剣の手入れをしていた。

 グランヴィル侯爵家次男、アルベルト。


 彼は父ほど激情的ではなかった。

 むしろ冷静で、理知的な青年だった。


「……ハイド、か」


 名を口にした瞬間、胸の奥がわずかに軋む。


 彼は知っていた。

 あの男がどんな環境で生きてきたのか。

 どんな傷を身体に刻んでいるのか。


 それでも、決闘に出ることを拒まなかった。


 それが貴族としての役目であり、

 そして――自分自身が、試される場でもあるからだ。


「勝たねばならない」


 アルベルトは呟く。


 だがそれは、ハイドを見下す言葉ではなかった。


「もし負ければ……

 この国は、本当に変わる」


 剣を鞘に収め、立ち上がる。


 決闘は、ただの私闘ではない。

 旧い王国と、新しい王国の境目なのだ。


 そのことを、彼は誰よりも理解していた。


 夜の王城の向こうで、

 まだ何も知らぬハイドが眠っている。


 そして女王シャルロットは、

 すべてを承知の上で、この一戦を用意した。


 運命の歯車は、もう戻らないところまで回り始めていた。

了解しました。


 王城外縁に設けられた決闘場は、元は鉄騎の試験用区画だった。

 円形に切り出された岩盤、周囲を取り囲む観測席、そして中央に設置された二基分の機体係留ポイント。ここは「騎士の名誉」を賭けるには過剰なほど無骨で、だが鉄騎同士をぶつけるには相応しい場所だった。


 早朝にもかかわらず、場内には既に多くの貴族が集まっていた。

 保守派を中心とした彼らは、興奮と不安、そしてわずかな苛立ちを胸に抱えていた。


 理由は一つ。


「……見たか?」


 誰かが、低く囁いた。


 決闘場の片隅、格納柵の中。

 本来ならばパイロットが搭乗して初めて起動するはずの鉄騎が――


 動いていた。


 重々しい金属音を立て、ゆっくりと姿勢を変える機体。

 関節が微調整され、頭部が左右を確認するように動く。


「搭乗者は……いないはずだろう」

「記録では、あの機体は――」


 ざわめきが広がる。


 それは主人公、ハイドの鉄騎。

 デュークと呼ばれる機体だった。


 外見は、明確に騎士を模している。

 細身のフレーム、無駄を削ぎ落とした装甲線、そして人型としての均整。


 量産型サクスと並べれば、その違いは一目瞭然だった。


 サクス型は、いかにも「兵器」だった。

 胸部から前方に突き出した、腹袋のような装甲。


 頭部もまた象徴的だ。

 角張った四角形、まるで鉄製のバケツを被せたかのような形状。

 視界確保と装甲厚を優先した、実用一辺倒の設計。


 一方、デューク。


 腹部の形状そのものは、サクス型と同系統であることが分かる。

 重心配置、動力ラインの取り回し――根は同じ技術だ。


 だが、決定的な違いがあった。


 胸から伸びる“腹”が存在しない。


 装甲は胸部に収まり、前方へ突き出していない。

 そのため全体が引き締まり、まるで本物の騎士が鎧を纏っているかのような印象を与える。


「同系統……だが、別物だな」

「なぜ量産型から、ここまで……」


 保守派貴族たちは、無意識に距離を取っていた。


 それもそのはずだ。

 デュークは、パイロットなしで動いている。


 機体が周囲を“観察”しているように見える。


「自律制御だと?」

「そんなもの、王国の技術水準では――」


 否定の言葉は、誰の口からも続かなかった。


 なぜなら、目の前で“起きている”からだ。


 そこへ、静かな足音が響いた。


「……見学は、そこまでにしてくださいませ」


 女王シャルロットだった。


 淡い色のドレスに身を包み、だが表情は冷静そのもの。

 その背後には近衛兵が控えている。


「決闘前の機体確認は、規定通り終了です」

「以降は、正式な開始時刻をお待ちください」


 有無を言わせぬ声音だった。


 貴族たちは渋々下がる。

 だが、彼らの視線は最後までデュークから離れなかった。



 決闘開始まで、あと僅か。


 反対側の係留ポイントでは、サクス型が準備を整えていた。

 腹のように突き出した胸部装甲の奥で、動力炉が低く唸る。


 搭乗するのは、グランヴィル侯爵家次男、アルベルト。


 彼は操縦席に収まり、深く息を吐いた。


「……落ち着け」


 モニター越しに見るデュークは、異様だった。

 細身で、洗練され、そして――どこか“生き物”めいている。


『サクス型、起動確認』

『マスタースレイブ接続正常』

『射撃系統、自動制御スタンバイ』


 いつも通りの音声。

 慣れ親しんだはずの感覚。


 だが今日は、違う。


 相手が、違う。


「搭乗者が……遅いな」


 アルベルトは呟いた。


 その瞬間だった。


 デュークの胸部装甲が、静かに開く。


 中から現れたのは、ハイドだった。


挿絵(By みてみん)


 無駄な動作は一切ない。

 慣れた様子で操縦席に身を収め、装甲が閉じる。


 ――その一連が、あまりにも自然だった。


『デューク、有人制御に移行』

『操縦系統、切替完了』


 それでも、完全に“無人だった時間”の異様さは消えない。


「……やはり、普通ではない」


 アルベルトは、操縦桿を握り直した。



 号砲が鳴る。


『決闘を開始する』


 王国の古き慣習に基づく、正式な一騎打ち。


 サクス型が一歩踏み出す。

 重量級の機体が地面を踏み砕き、砂塵が舞う。


 対するデュークは、静かだった。


 だが、次の瞬間。


 滑るように動いた。


 歩行ではない。

 蹴り出し、踏み替え、最小限の接地。


「速い……!」


 アルベルトが驚愕する。


 量産型とは思えない反応速度。

 いや、それ以上に――操縦の“癖”がない。


 まるで、機体そのものが判断しているかのような挙動。


 アルベルトは操縦桿を切り替え照準を合わせる。

 サクス型の射撃腕が自動で追従し、照準線がデュークを捉える。


 だが、引き金を引く直前。


 デュークが、消えた。


「な――」


 視界の端。

 すぐそこに、デュークの影。


 近接距離。


 この距離では、サクス型の腹部装甲が仇になる。


「くっ……!」


 アルベルトは必死に姿勢制御を行う。


 その時、観測席の貴族たちは理解した。


 これは単なる決闘ではない。


 技術、思想、そして時代そのものの衝突だ。


 そしてその中心にいるのが――

 教育も、身分も持たなかった男、ハイドなのだと。


 決闘は、まだ始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ