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色素の薄い茶色の髪、ハシバミ色の瞳。
かわいらしい子供だな、と思った。
レオの心にストンと落ちてきて、リナが嵌った。
今まで欠けていたと思ったところに、リナがすっぽりはまったのだ。
「一緒にいて」
寝言でつぶやいたその一言で、レオは決めた。
この子を育てよう。
成人して、結婚するまでしっかりと面倒をみて、生きていけるようにしてあげよう。
自分が死ぬまでの人生をこの子に捧げよう。
なぜかすんなりそう思えた。
原因はリナの魔力だろう。
なぜかしっくりくるのだ。
反発することもなく、溶け込むようにレオに流れ込んでくる。
レオの魔力も試しにこっそりと流したが、リナは受け入れた。
痛みや不快感を感じることもなく、すやすやと眠っていた。
普通なら不快感を感じて顔をしかめるくらいはするはずだ。
不思議だな、と思ったと同時に、そのあたりに魔力を持たない人間を愛する天使がリナを異世界から攫ってきた原因があるような気もする。
確実に、リナという人物に目をつけて召喚していたのだとしたら、天使はあきらめないだろう。
「じゃあ、この世界には天空都市、空に浮かぶ大きな島があって、そこに天使が住んでるの?」
「そうだ。天使は天空都市から大きく離れられない。天空都市を避けながら移動すれば天使に捕まる確率は低くなる」
「この地上の人は、悪魔って言われてるのね」
「そうだ。魔法が使える魔力を持つものを天使は悪魔と呼んでいる」
「レオも悪魔?」
「そうなるな。しかし、悪魔という言い方は天使が使う蔑称だな。俺たちは魔族と言っている」
リナは手帳にすらすらとメモをとりながら、レオから説明されたことを図にして描いている。
「角が生えてたり、獣の要素があったりという人も、魔族と分類される」
リナは食堂で見たトカゲ人間や狼人間を思い出して、フンフンと頷いた。
あんなに平和にみんなで朝ご飯を食べていたのに、悪魔だなんだと言われるのは腹が立つ。
「私の世界でも、天使や悪魔といった言葉はあったよ。でも、天使は善で、悪魔は悪の象徴というか」
「それはこちらでも同じだな。教会はそうやって天使や悪魔を分類している」
「悪魔は、魔族は悪いことするの?」
「俺たちからすれば、いろんな人がいるということでしかない」
「それはそうね。でも私からしたら、勝手にこの世界に誘拐してきた天使の方がたちが悪いわ」
「リナから見たら、そうなるよな」
自分の膝の上でメモをとるリナの頭をくりくり撫でた。
リナは自分一人で座ろうと思ったが、この世界の人は背が高い。
150センチちょいしかないリナは一人で座っても、メモがテーブルでとれないので、しょうがなくレオの膝に座っている。
「リナは、あー、自分の世界にご両親や兄弟は?」
「私、両親を亡くして兄妹もいないから一人っきりなの。両親も駆け落ちだったみたいで。父親が亡くなってからは母が一人で育ててくれてたんだけど、私が中学生の時、14歳の時に亡くなって」
「そうか……。大変だったんだな」
「施設の人はいい人たちだったし、あんまりつらい思いはしてないのよ」
「あー、あの…」
「ん?」
「恋人とかは?いなかったのか?」
「いない」
リナはフフッと笑った。
「学校行ってる間は勉強大変だったし、仕事始めてからは生活が大変だったし。そんな暇なかったなぁ」
「そうか…」
親の庇護のもと、ぬくぬくと育ってる人たちとは基本的に話が合わなかった。
見た目は父親が外国人だったせいで毛色が違って目立ったが、友達も少なく異性にもモテてはいなかった。どちらかといえば、はっきりものを言ったり群れたりしないせいで遠巻きにされていた。
「やだなぁ。この年で恋人もいないこと、そんなにおかしい?」
「いや、お前の見た目も魔力も心地いい。こっちではどんな男もお前にかしずくかもしれない」
「やだやだ。私ってこっちじゃ子供に見えるんでしょ?それなのにモテても怖いよ」
自分の世界でも身長で子供に見られていたが、雰囲気や顔でなんとなく子供じゃないのは主張できていた、と思いたい。
「大丈夫だよ。俺が守る。俺に勝てる男じゃないとリナは渡さない」
レオが優し気にささやくものだから、リナは真っ赤になった顔を見られないように話題を変えた。
「レオは?レオこそ恋人とかいないの?家族は?」
「両親のことは知らない。俺は孤児で、拾ってくれた魔法使いのばあさんに育ててもらってた。お前と似たような境遇だな。恋人は、いないな」
レオもフッと笑う。
「レオこそ、モテそうなのに?」
「そうか?俺はこの見た目だからな。あと、リナは分からんかもしれんが魔力が強い」
見た目は多少、凶暴そうだが悪くない。魔力が強いのはリナにはよくわからないが不利な条件になるんだろう。
「この世界でモテるなら、私ここにいてもいいかなぁ?」
「元の世界に戻りたくないのか?」
「どこにいても同じだもん。一人だし。天使じゃないと戻り方が分からないっていうなら、天使と接触しないといけないでしょ?私、誘拐犯と会いたくないし」
誘拐犯に「家に帰してくれ」と言って「はい分かりました」と帰してくれるはずがない。
それに、帰ったとしても深夜残業続きの生活にも飽き飽きしている。
それならここにいて、生活するのも悪くないかと思えたのだ。
 




