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「……レオ?」
「リナ。目が覚めたか」
大きなベッドでレオとリナは寄り添いながら眠っていた。
暗いランプの中でもわかるレオの大きな体が、リナを抱きしめてくれている。
「レオ! ここは? 帰ってきた?」
「おう。もう大丈夫だ。北の王の深層世界だ。安心しろ」
横になったまま力強くレオを抱きしめる。レオも抱き返してくれる。
それがなんて嬉しいことか。
大きくて、筋肉質のふかふかした体。
柑橘のオイルの香り。
いつもの安心が戻ってきた気がする。
「…レオ。私どのくらい眠ってた?」
「1日と半分だな。腹減ったろ?」
ベッドサイドまで転がって行って、ちりんとベルを鳴らす。
「聖女様!」
たたたっと隣の部屋から出てきたのはモーラだ。
「モーラ!」
「ああ。聖女様。やっとお目覚めですね」
二人はベッドの上でぎゅうと抱きしめあう。
「モーラ。ここに来てくれてよかった」
「私は聖女様から離れません!おなか減っていませんか?すぐにスープを用意します」
モーラはリナが目覚めるまでずっと起きていたらしい。
「そんな…。モーラが倒れてしまうわ」
「食事はしていますし、私は元気です! お話はあとにしましょう。先に聖女様の食事をお持ちします!」
てててっと軽く走ってドアを開けると、そこにはちょうどローガンが立っていた。
「モーラ。食事の準備ができたから運んだんだけど、よかったかな?」
「ローガンさん。ありがとうございます」
2人が食器を並べて食事の準備をすると、レオがリナを抱き上げて歩く。
「食べさせるからな」
「…ありがとう」
はにかみながら返事すると、膝の上に座らされて、ふうふうと冷ましたスープを口に運ばれる。
とろみのついた豆スープの塩気が美味しい。
「おいひぃ」
「おう、もっと食え。ほら」
「むぐ、おいひぃ…。美味しいね。幸せだよ」
ぐぐっと溜まった涙がぽとんと落ちる。
「リナ。もう泣いていいからな」
「…うん」
「ほら。口あけろ。あーん」
レオはわざとリナが笑うような言い方をする。
「あーん」
「ほら、こぼすなよ」
口の横についたスープを、レオはぺろりと舐めた。
「な!? 舐めた!」
「そりゃ舐めるだろ?」
「みんな見て…」
そこでローガンとモーラのいた場所を見たが、もぬけの殻だった。
気を使った2人はとっくに部屋から出て行った後だったのだ。
「気の利く従者を手に入れたな」
くっくっくと喉を鳴らすように笑うレオ。
「従者、なのかな?モーラは天空都市でお世話してくれてたけど、もう北の深層世界に来たんだから、お手伝いしなくて大丈夫だけど」
「モーラは『聖女様にお仕えするのが私の使命です!』って宣言してたけどな」
「もう聖女でも何でもないし、そんなに気を使わなくても…」
焼き立てふかふかパンを口に押し込まれる。
「まあ、本人がやりたいって言ってるんだから、好きにやらせてやればいい。あいつもリナの魔力をもらって、天空都市にいた時より進化してる」
「進化?」
「天空都市に住んでいた魔族たちは皆、魔力を毛嫌いして、どんどん力を失って行ってた。それがリナといるうちに魔力をため込んで、普通の魔族にまで近づいてる」
魔族の子供は親の魔力に依存する。
親があの水晶玉に魔力を捧げるのが日課であったなら、どんどん力を失っていたはずだ。
モーラたち天空都市で生まれた子供は、ほとんど魔力のない子供達ばかりだった。
それが、モーラはリナと一緒に過ごしていたお陰でどんどん魔力を溜めて、元気いっぱいになっているのらしい。
「モバイルバッテリー…」
リナは自分のことをそう例えたが、レオには通じなかった。
「ほら。食え。それとも食事はおしまいか?」
「まだ食べられるよ」
「口開けろ」
リナは用意してもらった豆のスープとパンをぺろりと食べて、きれいに飾り切りされたリンゴをシャクシャク食べた。
「ミカンも剥いてやろうか?」
「うん」
至れり尽くせりである。
「くふー」
ようやくお腹いっぱいになったところで、またとろりと眠気がやってくる。
「リナ。眠いか?」
「うん。ねみゅい…」
「かわいいな。リナ」
ちゅっちゅと頬やおでこにキスされる。
くすぐったくて、リナは半分目をつぶったままでくすくす笑う。
「くすぐったいよ、レオ…」
「くすぐったいだけ?」
「恥ずかしい…」
「恥ずかしい?俺しかいないのに?」
「レオ。私…」
リナが力を抜いて、レオにすり寄ってくる。
「ああ。リナ。かわいい。俺のリナ。俺だけの…」
「すー」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥寝てる」
レオはリナをそっとベッドに寝かせて、その隣に寝そべった。
すうすうと規則正しいリナの呼吸音。
離れていた間、レオは苦しかった。
身を引き裂かれるような、という言葉は知っていたが、リナが離れて実感することになった。
もう、離れることはない。
リナを一番愛する。一番大事にする。リナを、宝物を、レオは何よりも大事にする。
リナを腕枕すると、ころりと胸元に転がってくる。
可愛い。
このぬくもりを知ってしまったレオは、もう、暗闇で1人ではないのだ。
「おやすみ、リナ」
ランプの明りを消して挨拶する。
また明日。




