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リナの手が光る。
暖かい、柔らかい光だ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
魔王が大きく雄たけびを上げる。
リナの手と同じく全身が光り輝いて、まぶしくて見えなくなる。
「何が…?!」
光が徐々に治まると、5メートル級の長身の男性が立っていた。
角はヌビアアイベックスのような、上に伸び、大きく湾曲するような形をしているため、余計に背が高く見える。
長いひげを蓄え、筋骨隆々の男性で、顔の上半分は女王と同じように鹿の骨の面で隠されているため、どんな表情かはわからないが、自分の体をまじまじと見ているのは分かる。
「…聖女よ。ありがとう、感謝する。君の祈りが通じた」
「王様…よかったです」
「おとうさ ま」
「グリンベッド。わしが不在の間、苦労をかけた」
王様と女王様はひしと抱き合い、涙を流す。
「さて、話し合いだったか? そんな奴とするのか? リナ」
「レオはどうしたいの?」
「命をもらう。やったことがでかすぎる。魔王を三百年繋ぎとめた罪は命で償ってもらおう」
「僕は別にそれでもいいよ。今の責任者は僕だからね」
「アリステッド。ちょっと黙って」
簡単に命を投げ出しすぎる。
「父さんから私をもらったって言ってたけど、私のこと頼まれたの?」
「そうだね。ここを出るときに言ってたよ。『僕が死んだら子供を頼む』って」
「母さんと駆け落ちするって、わかってたの?」
「うん。兄さんは異世界に行けば死ぬってわかってたけど、君がお腹にいたからね。もう二人してここを出るしかなかった」
「ちょっと待って…」
リナはアリステッドの言葉に混乱する。
「婚約者と兄が僕を裏切った、的な言い方してたじゃない」
「まあ、そうだよね」
「まあ、そう、だけど…」
カラッとした言い方に、なんと返事していいのかわからない。
「僕がリナフェリックスの名前を、真名を知っているのを不思議だと思わない?」
「…思う」
「なんと、リナフェリックスの名前は僕が付けましたー」
じゃーんとポーズをつけて発表するアリステッドは嬉しそうだ。
(知られたら私の自由を奪う名前を、弟につけさせたのか…)
自分の両親ながら、能天気なところに呆れる。
(いや、それだけ信頼してたのかもしれない…)
「リナの両親は、その、楽観的だな」
額に手を置いて悩むリナに、レオは言葉を選んで声をかけてくれる。
(両親には、アリステッドってすごくいい顔してたんじゃないかしら)
「だから、リナフェリックスは僕の物だよ」
「だからって、理由になってないわよ」
「そう? 名前つけたら僕の物じゃない? リナフェリックスが天使になるなら僕とずーっと一緒にいられるしね。兄さんたちの仲を許さなかった長老たちは時間をかけて駆逐した。もう4枚羽の正当な天使は僕1人さ」
「1人、なの?」
「うん。僕が最後の1人」
そうだ、天空都市でアリステッドのように4枚羽の天使は見たことがなかった。
長老と言われるような年老いた者も見たことがない。
アリステッドが滅ぼした…?
「リナ。もうコイツの話は聞かなくていい。俺はリナを手に入れる。そのための障害は叩き潰す」
「いいねえ! 僕が勝ったらリナフェリックスを天使にして、ずっと一緒にいる」
「ちょっと!! 私の意見は!?」
リナをほったらかしに、二人は臨戦態勢をとる。
「りな お とこ は たたかって ほしい もの を て にいれる」
「女王様?」
リナの肩に、とんと女王様の手が置かれる。
女王様も王様も、うんうんと頷いている。乗り気だ。
(どうして誰も止めてくれないの?! 好戦的過ぎる!!)
「聖女様。見守りましょう!」
「モーラ!」
てててっと走ってきたモーラがリナに抱き着く。
「無事だったのね!」
「女王様とワンちゃんが守ってくださいました」
「わふ」
「ワンちゃん。ありがとうね」
「わおん」
返事をしたら、またぬるりとリナの影に戻っていった。
「あ! おい! 俺の影に戻れよ!!」
レオはそれを見て文句を言うが、影犬はリナの影が気に入ったようだ。戻る気はないらしい。
「武器は? ちゃんと持ってるんでしょ?」
アリステッドは剣をどこからか出してきて、ひゅうと振り回して構えた。
「勿論あるさ」
レオは影からぬるりと剣を抜きだした。
真っ黒の黒刀が光を反射して、怪しく輝く。
「影鬼か…。手ごわい相手だねぇ」
「ほう、悪魔に詳しいな」
にたりと笑いあう二人。
「かげおに?」
「レオナルドは影鬼という魔族だ」
王様が説明してくれる。
「珍しい種族で、ほとんど数を減らしている。子供が生まれてもほとんど育たない」
生まれてしばらくは、影の中でしか育たないので影に入れる人しか育てられない。
レオのように親を亡くしたものは、魔王レベルの手でしか育てられない。運がよくなければ生き残ることが出来ない。
レオは運がよかった。
ひゃうん!
剣が振るわれる音。
リナが話を聞いているうちに2人の戦いが始まってしまった。
もちろん、リナには2人の動きは目で追えない。
「レオ…」
始まってしまったからにはもう止められない。
無事を祈るしかない。
レオの無事も、アリステッドの無事も。




