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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「レオ!準備できたよ」

「わかった」

 狼耳の女将さんの宿を出て、また長距離乗合馬車に乗るために駅に向かう。


「次の町はもっと寒くなるんでしょ?」

「リナのローブは魔力を通してれば暖かさを保てるから安心しろ」

 スノースパイダーの糸で編んだローブは高級品だ。

 旅に出るために高級品に見えないように、内側にだけだがぜいたくに使われている。


 リナは無意識に魔力の補填をするタイプなので、意識しなくてもローブが吸った魔力を、自動で補充するだろう。魔力が尽きれば寒くなるということだが、そうなればレオの魔力を使えばいい。

 リナはレオの魔力を不快に感じない。

 ローブに分けても不快感としては感じられないだろう。


 こっそりリナはあくびをかみ殺す。

 昨日は考え事をして、ちょっと眠りが浅くなった。


 駅の周りにある露店で、日持ちのしそうなお菓子や食料品を買い込む。

「リナ。もう気になるものがないなら、席に着こう。昨日はあまり眠れてないんだろう?」

「あ。ばれてた?そうなんだよね。色々考えてたら眠れなくて」

「馬車で眠ればいい」

「ありがと」


 乗合馬車はゆっくりと出発する。

 今回の護衛はレオも知らない女性冒険者だという。

 これから先、北に行く人の数は減るだろうということだった。

 確かに乗合馬車も満員にはならなかった。

 リナは席が空いてるので、少し横にならせてもらい、レオの膝枕で眠ることにした。


「リナ。起きられるか?」

「う…?」

「休憩時間だ。トイレは大丈夫か?」

「あ、ありがと」

 ボーっとする頭でリナは起き上がり、首をコキコキ鳴らす。

 外はもう日の入りだ。薄暗い中でランプが付けられる。


 外に出てからトイレを済ませ、馬がざぶざぶと水を飲んでいるのを見ながら、自分も温めてもらったミルクを飲む。

 冷たい飲み物はもうそろそろ辛くなる気候だ。


(なんか、頭痛いな…)

「リナ。体調は?」

「うん。大丈夫だよ」

「いや、少し、気になるな。顔色が…」

 レオはさっとリナのおでこや首に手を当てる。


「熱はないが、いつもと違う」

「うん。ちょっと頭痛いかも…」

「リナ。我慢なんてしなくていい」

 レオはポーションを出して、リナに一口飲ませる。


「ありがと」

「外傷でないから気休めだ。辛くなったら宿をとって休憩しよう」

「でも、北に行くのが遅れちゃう」

「大丈夫。リナはなにも心配しなくていい。治らなければ次の町で病院にかかろう」

「病院に行くほどじゃないけど。ごめんね、やっぱり足引っ張っちゃってる」

「リナ。謝らなくていい。もっとわがままに振る舞え」

「ふふ」

 リナとレオが話していると、護衛の冒険者が近づいてくる。

 レミさんという女性の冒険者だ。


「あんた、アレじゃないの?」

「アレ?」

「重いんでしょ?」

 レミさんに言われてハタと考える。

 そろそろ生理の時期だ。自分でもすっかりそんなもののこと忘れてた。


「これ。丸薬分けてあげるよ。変なものじゃないって、そっちの男に見てもらってからでもいいけど、飲むとマシだよ。すっごく苦いけど」

「ありがとうございます」

 レミさんは薬の成分が何か、きちんとレオに説明してから「市販の痛み止めだから」と薬包紙をレオに渡した。


 人からもらう薬というものは怖い。

 自分に合うかどうかも気になるが、本物かどうかが怖い。

 それをレミさんもちゃんとわかっているのでレオに渡したのだろう。

 レオは代わりに薬代をレミさんに渡した。


「その手の薬を買い忘れてた…。すまない」

 健康第一、風邪一つ引いたことのないレオは、リナの薬を用意するのをすっかり忘れていたのだ。


「今飲むか?」

「うん。今飲んでおいた方がいいかもしれない」

 これから痛みが引いていくことはないだろう。痛み止めは早めに飲むのがいいのだ。


 レオは水を準備すると自分の口にポイと放り込む。続いて水も。

「え?!」

 なぜ自分が飲むんだと思った途端に、にっとわらったレオが、リナに口づけた。

 水とともに苦い薬が口に流れ込んでくる。


「んぐー!」


 苦いやらびっくりするやらで目を白黒させていたら、レオが笑った。


「ちゃんと飲んだか?」

「え?え?え?」

 何とか飲み込んだが、リナは理解できずにずっと「え?」を繰り返していた。


「毒見だ。あー苦げえ」

 リナの口の中にも苦い薬の味が残っている。


「ほら。飴食べな」

 ぽかんとするリナの口にべっこう飴のような甘みの強い飴を放り込むレオ。


「あ~苦い」

 自分は苦い苦いと言いながら、ぽかんとしてるリナを抱いて席に戻る。


「レオ」

「なんだ?」

「き、キスした?」

「したな」

「なにするのー!」

「暴れるな、リナ。悪い。悪かったから暴れるなって。そんなに嫌だったのなら謝るよ」

 ジタジタ暴れるリナを、笑いながらいなすレオ。


 キスに意味はない。

 毒見だった。

 子どもに苦い薬を飲ませた。

 それだけだ。


 ズキズキする頭を抱えて、リナはふんすと鼻息荒く、レオから離れた。


「リナ。謝るから。悪かったから俺から離れるな」

「…もうしない?」

「しないよ。リナがいいと言わないとしない」

「もー!デリカシー!!」

「何度でも謝るから、リナ。こっちで寝てくれ」

 懇願されればリナは弱い。


 横になって、レオの足を枕に目をつむる。


「レオ。別に嫌じゃないよ」

「ん?」

 聞こえなかったらそれでいいと思って口にしたので、やっぱりレオには聞こえなかったらしい。


「お休み」

「ああ。ゆっくり寝てくれ」

 さらりと頭を撫でる手を感じていたら、頭痛も収まってきたような気がする。

 リナは暖かいレオの手を感じながら夢の世界へ旅立った。

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