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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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3/28

 

 リナは寝返りとともに目が覚めた。

 知らない天井に、記憶をたどるがあまり頭が働かない。

 部屋はうす暗く、外から入ってくる太陽は沈みかけている。

 自分の左側が暖かいのに気が付いて、そちらにころんと転がった。


 そこで暖かさの原因が、すうすうと寝息を立てているのを何度か聞いて、少し意識が覚醒した。


「へ?」

 自分はしっかりと手を握られていて、布団をかけられていた。

 横にはがっしりとした体格の、背の高い男が窮屈そうに眠っている。


 熱を発しているのかと思うくらい暖かい。

 その暖かさにまた微睡みそうになったころ、頭頂部にぐりぐり頬ずりされた。


「起きたのか?」

「あ、あ。はい」

 男はくわっとあくびをしながら、起きようとするリナを抱きしめてベッドに戻す。


「腹減ったか?」

「えっと……」

 抱きしめられている緊張で、何を言っていいのかわからない。

 男性とこんなに密着したのは人生で初めてのことだ。


「遠慮するな。食事の用意もしてある」

「じゃあ、あの、お腹減りました」

「わかった」

 くわっとまたあくびをしながら男は立ち上がり、つないだ手を引っ張ってリナを起こして抱き上げた。


 部屋は小さくベッドに簡易的なテーブル。

 そこに食事のトレーがちょこんと乗っている。


「とりあえずスープと、食べられそうなら他にも用意する」

 男はリナを抱いたまま、自分が座った膝の上にすとんとリナを座らせた。


「え?あの…!これ!なんで?」

「自分で食べられるのか?そんなに力が抜けてて」

 確かに、寝起きのせいか、疲れのせいか、リナは男のするがまま、力が抜けきっている。

 全身が鉛のように重苦しいのだ。


「た、たしかに」

「じゃあ、問題ないな」

 男はニコッと笑ってリナを抱きしめたまま、スープの皿を引き寄せて器を指でトントンと叩いた。

 その瞬間、冷めていたはずのスープから湯気が立つ。


「?!」

「温めたんだ。魔法、知らないのか?」

 ふうふうと木の匙ですくったスープを冷まして、リナの口元まで運ぶ。


 おずおずと口をつけたが、それはしっかりと鶏の出汁がしみる澄んだスープだった。

「おいひぃ」

「よかった。まだあるから。具も食べれそうか?」

「はい」

 丸一日ツナマヨおにぎりしか食べてなかったようなものだ。スープが胃の中に落ちて行ったら空腹が加速した。


 小さくした人参、ジャガイモ、鶏肉と、ちまちま口に運ばれてくるのをパクパク食べる。

 そのたびに男は嬉しそうだ。


 リナはスープと、合間に食べさせてもらった小ぶりなパンひとつを食べて、やっとお腹が落ち着いた。

「遠慮しなくていいんだぞ?」

「いえ、普段からこれくらいなので。ありがとうございます」

 リナが遠慮していないとわかったのか、男は眉間のしわを深くした。


「お前。名前は?」

「リナです。遠野リナと言います」

「敬語はいい。リナか。俺はレオナルド。レオと」

「はい、レオさん」

「さんもいらない」

「はい」

「敬語」

「はい、じゃなくて、うん?」

 それでいい、というように満足そうにレオが頷く。少し眉間のしわが和らいでいる。


 短くした黒髪に、茶色の瞳。

 顔立ちははっきりしてるし強面だ。それが笑ったり気が抜けるとふっと和らぐ。30代くらいか。

 渋いしイケメンだ。


 そうだ。この人に連れられて、馬に乗ったんだった。

 リナの記憶がやっと戻ってきた。


 それで、気が遠くなって、おなか減ってて、えっと、えっと……。

(そもそも、ここはどこで、何があって、私なんでここにいるのかとか、きかないと……)

 お腹が満ちたからか、リナの目がとろんとまた閉じそうになる。


「リナ。我慢しなくていい。話はまた起きてからにしよう。一緒にいるから」

「う…ん」

 リナはレオの膝の上で心地よい暖かさを感じながら、夢の世界に沈み込むように眠ってしまった。


 レオはゆっくりリナを抱き上げると、静かに、慎重に、ベッドへと運んで自分も隣へ横になる。

 つないでいる手を離すのがもったいないと感じる。

 リナは確実にレオの魔力を満たしている。


(それで天使に狙われたのか)

 レオはリナの寝顔を見ながら、空から降ってきた天使の群れを思い出して、忌々し気に眉間にしわを寄せた。

(莫大な魔力の塊に、魅せられたんだろう)


 リナは純粋な魔力を作り出している。

 あまり食べないでいられるのも、魔力が食事での栄養補給を補填しているせいだろう。

 それも最低限のことだ。

 リナはやせっぽっちで顔色も悪く、柔らかな色素の薄い髪と瞳で、空気に溶けてしまいそうな雰囲気である。


 レオはもうこの純粋な魔力から離れられない運命を感じた。

 まるでかけたものがぴたりと補われたように、満たされているのだ。


 甘やかしたい。

 レオの心にその欲がむくむくと湧いてくる。


 雛の様に小さな口でスープを飲む姿は可愛かった。

 もっと見たい。


 もともと子供が好きではあったが、レオは人生で初めて、父性を目覚めさせてしまったのだった。


 ころりと転がってきたリナを、懐に閉じ込めた。

(誰かと一緒に寝るなんて、信じられないな)

 リナの眠気がレオにも移ったのか、目を閉じるとすぐに眠ることが出来た。


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