表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/33

21

 

「ナニコレ」

「エステでございます」

 リナは自分の置かれた状況が全然理解できなかった。


 リナは今、美しい女性たちに囲まれて、バスローブ姿でソファに座り、ぶくぶく泡の出る桶で足を洗ってもらっていた。

 フットバスという足の血行を良くするマッサージで、座りながらもみもみとお湯の中で揉まれている。


「それでは、レオナルド様。リナ様をお預かりいたします」

「頼んだ」

 レオの返事はとても簡潔である。


「ちょっと?これなに?」

「エステでございます」

「いや、あの、レオに聞いてるんです」

 くっくっくとレオの笑う声。


「レオ?」

 なんだかよくわからない高級なお店に放り込まれたかと思ったら、着替えさせられてイマココである。


「リナ。ここは安全な店だ。安心してエステを受けろ」

「なんで?」

「旅に出る前に準備をしてほしい。いまの体の疲れを取るのも準備のうちだ」

 リナが理解できないといった顔をすると、レオは追加で説明した。

「今のリナの体は割と、ボロボロだ」

「え?」

「魔力は滞っているし、体の構造も歪み固まっている。それはこういう店でないと治せない」

 確かに、整体には通っていたし、体が凝り固まっている感覚はある。

 魔力に関してはよくわからないが。


「リナ様は魔力が一か所に詰まっている状態です。流れが滞っております。体にも強い疲労があり、これは一日コースでやっとなんとかできるかどうかのレベルです」

 エステのおねえさんに悲しい顔で告げられる。


「リナ。エステを受ければお前も魔法が使えるようになるぞ」

「え!?ほんと?!」

「多分な。練習は必要だが、お前は魔力がある。その魔力をトイレ流すだけに使うのはもったいないだろ?」

「キィ!!」

 今のところ、純粋な魔力をぶつけて何とかなるのは、蛇口のコントロールと、まだやっていないがコンロの火をつけるくらいのものだ。それも、出来たりできなかったりするのは、魔力がどこかで詰まっているせいなのかもしれない。


「リナ様。こちらで魔力と体を整えて、レオナルド様を驚かせましょうね」

「はい」

 ナチュラルなのに目鼻立ちのはっきりくっきりした美女に言われて、素直に返事してしまった。


「じゃあ、俺はその間、外で待ってるから」

「わかったー」

 シャンデリアに高級な装飾品。一目で高級なお店とわかるところだが、(レオが受けろというならば楽しもうではないか。エステを!)リナはそんな気持ちで部屋に案内されていった。




 ヴィオレットは王城で開かれた、王妃とのお茶会を終えて屋敷へと馬車を走らせていた。

 敷地に入って、馬車のスピードが落ち、扉が開かれる。


「!!」

「よう。ヴァイオレット」

 ヴァイオレットをエスコートしようと手を伸ばしたのは、レオだった。


「レオナルド……どうしてここに?」

 ヴァイオレットの顔に喜びはなかった。

 困惑と恐怖。それが顔色を悪くしていた。


「どうして?いつも俺がいるところに現れるやつが聞くかね」

 くっくっくとレオは笑って見せる。

 エスコートしようとしたが、ヴァイオレットは降りる様子を見せない。

 しょうがなくレオは馬車に乗り込んで向かいの席に座った。


「兵は…」

「役に立つと思ってるのか?顔で選んだ私兵が」

 ヴァイオレットが外をちらりと見ると、倒れている兵士の手足がドアから見える。

(屋敷の中には他にも兵がいる。家令やメイドたちがこの状況を見れば、父に連絡が……)


「お前の親父には連絡済みだから、助けは来ないぞ」

 にやりと笑う。

「どういう……」

 心の声を言い当てられて、ヴァイオレットは一層顔を青くする。


「どうもこうもねえよ。お前が俺を理由に結婚を延期してるのは有名だからな。いい加減、親父も覚悟決めたんだろ」

「……」

「ヴァイオレット。俺がお前の護衛をしたのは2年?3年前か?」

「…ええ。そうね」

「その間、ずっと俺を自分の私兵にしたいと願っていたな?」

「そんな!私は貴方をお慕いして――」

「ハッ。どちらでも同じだ。ヴァイオレット。お前は、俺と、同じ場所にいられるか?」

 ヴァイオレットの全身に鳥肌が立った。


「レオナルド?」

「俺の隣にいられるのか?」

 ずずずっとレオの足元の、レオの影が光も動いてないのに形を変えた。


「や、めて……レオナルド…」

「これに堪え切れたら、俺はお前と一緒にいてやってもいいぞ」

 レオナルドの影が、ずずずと動き出して、ヴァイオレットの細い足首を掴んだ。


「や、め、て…」

 絞り出す声が今にも泣きだしそうだ。

「なぜ?お前の熱意に応えてやってるんだ」

 レオは楽しそうな表情を崩さない。


 がちがちと恐ろしさのあまり歯を鳴らすヴァイオレットへ、流すとも言えない微量の魔力を流した。

「きゃああああああ!!!」

 悲鳴とともに、暴れたヴァイオレットは馬車から転げ落ちた。

 そして、地面に向かってげえげえと吐いている。

 普通はこうなのだ。

 レオナルドは落ち着いて、馬車から降りた。


「失格だな。お前の影に犬を潜ませる。俺たちに何かしようとすれば、今よりも強い苦しみを味わう。『関わるな』。こちらからの要求はそれだけだ」

 ヴァイオレットはむせるせいで声が出ないが、涙でぐちゃぐちゃになった顔で必死にうなずいた。


 倒れた兵が気が付いて、ヴァイオレットを助け起こしたのは、レオの姿が影も形もなくなってからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ