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「おーい。レオナルド~~!」

 窓の外、庭から大声が聞こえる。

 この声はグリッドだ。


「レオ?」

「ほっとけ。窓に近づくなよ」

 レオは全く気にしていない。

 荷物をまとめて部屋を移動する準備をしている。


「レオナルド~~!おーーい」

「レオ。急ぎの用じゃない?」

 あまりにも呼んでいるので気になるリナ。


「あいつから持ち込まれた話でよかった思い出がない」

「あ(察し)」


 遠くから何かで何かを強くぶつけたような音がした。

 例えるならば、フライパンのようなもので、どこか、頭など、固いところを殴ったような。

 そして聞こえるマリーナさんの声。

「五月蝿いのよアンタ!」

(……静かになった)


「リナ。荷物は全部あったか?」

「うん。もともと持ってたものは知らない人に触られたと思うと気持ち悪いし、必要最低限だけで捨てちゃうよ」

「じゃあ、新しいバッグを買いに行こう」

 荷物をまとめたレオがさわやかな笑顔で言う。


「お世話になります」

「気にするな」

 レオは少し真面目な顔をして、リナに向き合う。


「リナ。俺はもう少し準備が整ったら、旅に出ようと思ってる」

「旅?」

「ああ。ここにずっといられればいいんだが、この街に天空都市がめぐってくる時期が近い。天使となるべく接触しないようにリナを連れて旅に出たい」


 天使は天空都市から大きく離れられないというのが、地上の天使研究機関の見解だ。

 天空都市がめぐってくる軌道はだいたい予測できる。

 それを避けながら旅をすれば、天使と接触する機会が少なるくなるということだった。


「レオは、本当にそれでいいの?いやいや、確かに旅に出るのもいいかもー、なんて言ってくれてたけど――」

 リナの様子が変だ。


「俺か?」

「うん。私をかばいながら旅に出るって、私、レオのお荷物じゃない?」

 リナの顔色が悪くなる。


「なんでそんな風に思うんだ?」

「だって、私が天使に狙われてるの、レオに関係ないし。私を拾ったせいで、レオの人生が狂っちゃう」

「リナ。自分のことをそんなふうに言わないでくれ」

 手をそっと握られる。


「俺は冒険者だ。元々、旅をして生活してた。どこかに定住することもなく、自分の腕だけで仕事をしてきた。元の生活に戻るだけだ。リナこそ俺と一緒にいるのが嫌か?」

「そんなことないよ」

「じゃあ、何も問題ない」

 リナの手を握って、にこにこと笑うレオ。


「でも、でも、私といることでレオが不自由になっちゃう」

「不自由?」

「こうやって、なにかに襲われたり。私の物、買ったりしてお金も減るし。私と一緒にいるからレオの心配ごとが増えたり――」

「落ち着け、リナ」

「私、レオのお荷物になりたくない」

 リナは自分の言葉に自分で傷ついた。しとしと涙が滴る。


 リナは早くに両親を亡くし、施設で育った。

 優等生であったと思う。中学生だったから、自分のことは自分でやった。小さい子の面倒も見た。

 自分で自分のことは何でも決めて実行した。そうやって、仮住まいを追い出されないよう頑張った。


 自分のせいで、誰かに迷惑をかけるのが怖かった。

 自分のせいで誰かの人生の選択肢を狭めるのが、本当に怖い。


「リナ。お前は俺と一緒にいることが嫌か?」

「嫌なわけない。嫌だったら毎日一緒に寝ないよ?」

「そ、そうか」

 今更ながらに一緒のベッドにくっついて眠っていることに改めて気づいたレオ。

 ちょっと目元が赤らむ。


「俺はリナに言ってないことがあるんだ」

「なに?」

「リナは国で保護することもできる」

「え?」

「異世界人を召喚した天使に攫われたら手が出ないが、こうやってリナみたいにこちら(地上)が保護することもある。えーっと、何代か前の王妃が異世界人だった」


 レオによると、何代か前の王妃は、異世界でも高い教養と地位を持った人だったらしく、王様と恋仲になってそのまま王妃の座にすんなりついたのらしい。


「国が保護すれば、リナもぜいたくな暮らしができる。騎士にも守ってもらえる。市井で暮らすのは安全面の問題から止められるかもしれないが、リナはそういう上等な暮らしができる人間なんだ」

「私、別に教養も高くないし、普通の人間だよ?」

 リナはその王妃様の様に役に立てるとは思わない。


「魔力だ。リナには魔力がある。しかも、少しの練習でコントロールしちまった。知られちまったら魔力研究機関が黙ってない」

 リナは頭が混乱してきた。


「結局、私、国に保護された方がいいの?」

「そんなこと言ってないよ、リナ。俺はそんな生活ができることをリナに黙っていた。俺と一緒にいてほしくて。ずるい男ですまない。でも、もう俺はリナと離れて暮らすことが考えられないんだ」

 片膝をついて、リナの手にキスをした。


「リナ。大事にする。俺と一緒に生きてくれ」

(プロポーズ並みのことを言われてしまった……)

 リナが呆然としていたら、階段から何やらもめている物音が聞こえてきた。


「レオナルドを呼び出してほしい」

「知らねえな」

「ここに泊まっていることは分かっているんだ!」

「あいつは冒険者だぜ?もう出て行っちまったよ」

「連れに少女がいたはずだ」

「客の情報を漏らすわけねえだろ?」

「部屋を改めさせてもらう!」

「おい!勝手なこと――」

 ゲオルドと話しているだれかが強行突破しそうな雰囲気を出した。

 リナがぞわっと鳥肌を立てた瞬間、レオがリナをお姫様抱っこして窓から飛び降りる。


「~~~~~~~!」

 リナは学んでいる。レオが何かするときは口を開くな。舌を噛む。

 厩へそのまま走って行く。レオは馬にリナを乗せると自分も跨って、素早く駆け出した。



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