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「これ、レオがやった、んだよね?」

「そうだな」


 食事を終えて、レオの部屋にやってきたのだが、ドアが外れている。

 外れたドアは、半分に折れて壁に立てかけてある。それを避けて、部屋に入った。


「どうやったら、こうなったの?」

「ああ。蹴ったな」

 木とはいえ、厚みのあるドアだ。

 そうか。蹴ったらこうなるのか。


 ドアの枠も痛んでいて、壁ごと修理するのらしいので、マリーナさんからは「別の部屋に移ってくれ」と言われている。


「リナ。荷物はどこだ?」

「これ。ベッドのそばに置いてたんだけど、ひっくり返されちゃってて」

 財布、ハンカチ、口紅とリップクリームの入ってるポーチ。あっちこっちにリナの物が転がっている。


「あちゃ。踏まれちゃったのかな」

 リナはスマホの画面の下側にひびが入っているのを見て、残念そうだった。


「ガラスの、鏡?」

「ふふふ。異世界って感じする」

 リナは自分の持ち物が壊れたというのににこにこしている。


「これね、電話なの」

「でんわ?」

「んー。これを持ってる同士だと、これに割り当てられた番号を押すと、離れている相手とも通話ができる」

「つうわ」

「そう。顔が見えないくらい離れている相手とでも、話ができる」

 リナは鏡の表面をがりがり爪で引っ掻けて、一枚薄い膜をはがす。


「ふふふ。私のスマホはゴリラパワーガラスを張ってるのよ!元の画面は無事!」

 確かに薄い膜はひび割れていたが、剥がしてみればリナが持っている本体はキズ一つない。


「ゴリラ…?」

「ゴリラいないの?ゴリラの獣人さんとか」

「聞いたことがないな」

(ゴリラの獣人はいないのか)


「無事でよかったな」

「ううん。これもう持っててもしょうがないの。ずっと圏外だし。充電器もないから電源が入らない」

「けんがい?でんげん?」

「うん。これね、電波が通じるところしか使えないんだけど、この世界に来たらその電波が届かなくて、つかえ、ないの……」

「リナ?」

 リナは背筋がぞくりとした。


「私、レオに言ってないことがある」

「どんなことだ?」

「これに、この世界に来た時に着信があって…、電話がかかってきた。本当は使えないはずなのに、知らない人と話が出来たの」

「知らない人?」

「名乗ってくれなかった。でも、私のこと、名前も知ってて迎えに来るって言ってた」

「……」

「ごめん、黙ってて」

「いい。気にするな」

 レオが沈黙したため、怒っているのかと思って謝ったが、レオはなにか考え事をしているだけだった。


「召喚魔法が使えるのは天使だけだ。多分、リナは上級天使に目をつけられてるんだろう」

「上級天使?」

「ああ。別の次元にも干渉する力があると言われている」

「絶対そいつじゃん」

 リナは背筋がぞくぞくした。


 痴漢にあったとき、ストーカーにあったとき、リナは気持ち悪さのため交通機関を変え、住まいを変えた経験がある。

 背が低いせいで舐められるのか、なぜかしつこく言い寄られる。話が通じない怖さ。

 それを思い出してぷつぷつと顔にまで鳥肌が立ってきた。


「レオ!見てよこれ!気持ち悪いったらないわよ」

「お、おお」

 鳥肌の立ったリナの腕を見て驚くレオ。


「リナが気持ち悪がってるのは分かった。何者からでも守るから、安心してくれ。昨日みたいなことがあっても、信じてくれ。俺は必ずリナを助ける」

「レオ」

 抱きしめられるとぞわぞわとしていた皮膚が落ち着いてくる。


「レオ。私、すごくレオと魔力が合うんじゃないかと思うんだけど」

 ぐふっとレオがむせた。


「レオも感じない?しっくりくるって言うか、なんか感覚が合うんだよね。魔力の練習した時にも思ったんだけど――」

 むせるレオになおも言い続けると、レオが抱き着くリナをべりっと剥がした。


「リナ、リナ、頼むからそれ以上言わないでくれ」

「どうして?」

「それは、あの、夜の誘いの言葉だ」

(夜の誘い)

 真っ赤になったレオを見て、リナも赤くなる。


「わあ!!ごめんなさい!そんなつもりなくって!!」

「わかってる。わかってる」

 二人で真っ赤になって違う違うと言い合う。


「リナがそれだけ自分の魔力や俺の魔力を感じているのは素晴らしいことだと思う。だから、それを、他の奴にはいうなよ」

「わかってる!」

 今のところ、リナにそこまで引っ付いてくるのはレオだけだ。

 レオの魔力しかわからない。だがもう言わない。


(さすが異世界。自分の常識のまま行動したら、とんでもないことになりそう)

 リナは改めてここが別の世界であることを自覚した。


 元の世界でもそうだ。

 こっち来いのポーズが、外国ではあっちいけの意味になったりする。


(知らず知らずのうちに相手にケンカ売ってることがないようにしないと)

「レオ。私、赤ちゃんになったみたい」

「赤ちゃんか」

 フッと笑われる。


「だって、なんにもわかんないんだもん」

「いい。じっくり勉強していけばいいんだ。わからないことがあれば俺が教える」

「ありがとう。嘘教えちゃだめだからね」

「信用しろ」

 フフッと笑いあって、二人はさっきの恥ずかしさを有耶無耶にした。


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