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朝になったら大騒ぎだった。


「レオ?」

「おはよう、リナ」

「おはよ。なんだか騒がしい?」

いつもの喧騒とは違う声が酒場の方から聞こえてくる。


「気にしなくていいよ。ゆっくり寝れたか?まだ眠いなら――」

「ううん。すっきりしたよ。顔洗ってくる」

「おい。水道」

水道が出せないのをすっかり忘れてた。


レオが一緒に洗面所に来てくれるが、ここで思い出す。

トイレ問題だ。


「レオ。私に魔力の流し方教えて」

「わかった」

リナの手に、レオは手を重ねる。


「感じるか?いま、魔力を流してる」

「うーん」

全く感じない。


「この流れてるものを、外に出す」

「うーむ」

全く分からない。


魔力の流れを感じるのは、自分の体に血が流れているのを感じろというのと同じなのだ。

生きていれば流れている。確実に。全身を駆け巡っている。しかし、それを普段から意識出来て感じている人間は少ないだろう。


レオはリナの手を伝って、魔力を外にじわりと流した。

水道の水が出る。


「血が全身を駆け巡るのと同じなんだ。魔力は全身を流れてる。それを外へ押し出す。ほんの少し」

レオが水を止める。


「うん。じゃあ……」

リナは手をさっと水道の魔石に置く。

何度かそれを繰り返すと、ちょろりと水が流れた。


「!?」

「できた!!」

リナが笑顔でレオを見る。


言葉で説明して、軽く見本を見せただけで出来た。

あり得ない。レオはびっくりして目を真ん丸にした。


子どもの場合は魔力を流す練習用の魔石で遊んでいるうちにできるようになるが、魔力感知もできないのに魔力放出ができるようになるとは。


「リナは天才かもしれない」

嬉しそうにレオがリナを後ろから抱きしめる。


「やだなぁ。大人はみんなできるんでしょ?」

「子供のうちから練習してできるようになるんだ」

ちょろりとでた水をお湯にしたり、たくさん出すのには時間がかかりそうだったのでレオにやってもらう。

今日もちょうどいいお湯で顔を洗うことが出来た。


「トイレ問題も解決ね!!」

嬉しそうにいうリナ。この世界に来て一番の問題が解決し、晴れやかにトイレに消えていった。



「リナちゃん。今日はお部屋でお食事したらどうかしら?」

しばらくしたらマリーナが朝食を持ってやってきた。


「なんだか今日はお客さんが多くて。リナちゃんはお部屋にいたほうがいいと思うの」

「そうなんですか?全然お部屋でいいですよ」

「ありがとう。ごめんなさいね」

マリーナはワゴンに乗せた朝食を運び入れてくれた。


リナは自分が子供に見えることも、珍しがられることも知ってるし、あんまりジロジロ見られるとレオが不機嫌になることも知っているので部屋で食べられるのなら問題ない。


「外、騒がしいもんね。お客さん多いんだね」

「そうだな」

レオは全然気にしていないようだ。

それよりも、小食のリナに美味しいサンドウィッチを食べさせる方に熱心だ。

切り目を入れたパンに、ハムと玉子、レタスをつめて渡す。


「さあ、食べな」

「ありがとう。昨日いろいろあったからおなか減ってたんだよね」

「そうか。すまなかったな」

リナを飢えさせていたとは。レオは分かりやすく落ち込んだ。


「いいのよ。レオだって途中だったんじゃないの?食事」

「俺はいいんだ」

「あの、昨日の、グリッドさんってクマさん?なの?」

「ああ。クマの獣人だ」

「やっぱり!大きかったもんね!」

あの丸いちょこんとした耳はやはり熊だったかと嬉しくなる。


昨日は怖い夢を見なかったか、よく眠れたかと、レオは子どもに聞くように優しく聞いてくれる。

「もう。子供じゃないったら」

ぷくっと膨れて怒るリナがかわいい。


途中からとてもいい夢を見たと聞いて、レオナルドのスリーピーが効いたのだと思った。

「レオも一緒に寝てくれたんでしょ?レオったらいい匂いだから安心するのよ」

少し赤くなっているリナはやはりかわいい。


「香水?つけてる?」

「いや、化粧品の類は全く。石鹸と、あとは装備品の手入れに使うオイルか?」

剣も、皮鎧も、マントも、手入れすれば長持ちする。自分の命綱でもあるから手入れはまめに、慎重に、だ。


「えー。髪も石鹸なの?」

「そうだ」

「いいなぁ。私そんなことしたら絡まっちゃって大変なことになる」

リナの髪は細くて絡まりやすい。手入れなんてしたくないが、翌日のことを考えて、しなくちゃならない義務感でやっている。


「リナの髪は柔らかくて好きだよ。ずっと触っていたいくらいだ」

朝からレオの甘い言葉は容赦なしだ。


「リナ。食事したら俺の部屋に戻って、リナの持ち物がなくなってないか確認しようと思う。大丈夫か?」

昨日あんなことがあった部屋に戻るのが怖いのじゃないかと、レオは心配しているのだ。


「大丈夫だよ。レオがいてくれるんでしょ?怖いことないよ」

ニコッと笑うリナは極上に可愛い。

頼りにされていると思うと、かわいさも倍増するというものだ。


「こら、リナ。スープも食べなさい」

「お腹いっぱいなんだもん」

食事を終えそうな雰囲気に注意する。


「じゃあ、具だけ食べなさい」

「もう。お父さんみたい」

流石に小さなサンドウィッチ2個でお腹いっぱいと言われたら心配である。

子どもでも、もう少し食べる。


確実にお父さんポイントを貯めているレオであった。

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