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「おーい。ゲオルド」

「なんだ?グリッドが来たのか?」

部屋に暢気な声掛けで入ってきたのはグリッドの巨体だ。


「なんでみんな俺を仲間はずれにするんだよ」

ぶーたれたグリッドが部屋の中を見ると、手足を縛られて口にもタオルを突っ込まれた男が床に転がっている。


「レオナルドの代わりに、俺がコイツのアジトを吐かせてぶっ潰すことにしたんだ」

にたりと笑うクマ獣人。凶悪な面構えだ。


「レオは了承しとるんだろうな」

「一応、断りは入れといたぜ?俺が手引きしたって思われたままじゃ悔しいじゃねえか」

グリッドはゲオルドを向く。


「まあ、タイミングが悪かったな」

「そうだろ?俺があのちびっ子を1人にしたのかとか言ってよ。俺のこと射殺しそうだったぜ。冒険者ギルドの規約に違反するような仕事は受けてねぇのによ」

「お前はギルドのランキングに囚われてるからな」

「そうさ。ランキングを落とすようなことはしねえ」

改めて床に転がってる男を見る。


「部屋、汚したら悪いからな」

グリッドは男を片手で掴み、吊り上げるとそのまま窓から落とした。


「~~~~~~~~~~~!!」

男の声にならない声が聞こえたが、グリッドは全く気にしない。

グリッドも後を追って窓から飛び降りる。


「せっかくレオが無傷で捕まえたってのに…」

ゲオルドは無茶苦茶な行動に頭が痛くなってきた。


「お父さん」

「マリーナ。余計な奴は追い出したから、レオの部屋片づけてやってくれ。ガラスが割れてた」

1階の店番をしていたマリーナに、ゲオルドが話しかける。


「ああ、リナちゃんが割ったって言ってたコップね」

「金の子ヤギ亭に不届き者が現れたんじゃー商売あがったりよ。地下室にいるからしばらくは店頼むぞ」

「はーい」

マリーナは夫のジョルダンに店を任せて割れたコップを片づけに行った。

冒険者同士が酔っぱらってケンカになるのとはまた違う。

金の子ヤギ亭の安全性に傷が付けば、冒険者は寄り付かなくなる。


そもそも、日がな一日冒険者がたむろしてるような場所で、こんなことが起こるなんて想定外だ。


「おい。グリッド。こっちじゃ」

酒を貯蔵している地下室の扉を開けて、ゲオルドはグリッドを呼んだ。

襲撃犯を連れて、二人は楽し気に地下へと消えていった。




「で?」

「予想と違ったんだよなぁ~」

襲撃犯と深夜まで()()()()したというグリッドは、眠そうにしている。

深夜になって、部屋の外に気配を感じ、レオが出てきたらグリッドが立っていた。


「そもそもヴァイオレット嬢の手下だと思ったんだよ。ちょっと嫌な思いさせて来いってくらいで」

「そんなこと、しないとは…。言い切れないな」

「そうだろ?だから、念入りに聞いたんだけど、教会関係者だというんだよ」

「教会……」


教会関係者は、純粋な魔力を持たない人だけを『人』と認めている。魔力は罪の証。魔族は人を堕落させるとして、地上にあっても地上の魔族とは交流がない。

自分達は多少の魔力があるために、天空都市から堕とされたというのに忠誠心の強いことだ。


「何か言ってたか?」

「えー。いつものアレだよ。『悪魔が人を堕落させる~』とか。あ、『聖女様が~』っていってたな」

「聖女?」

「ああ。聖女とかいうのが天空都市へ連れて行ってくれるんだとよ」

「聖女、か」

「どうだ?俺は役に立ったろ?」

顎に手をやって悩むレオに、得意気に近づくグリッド。

クマの獣人というよりは、ご主人様にご褒美をねだる犬のようだ。


「ああ。役に立った。早くそのごみを教会に捨ててこい」

「わかった!任せとけ!」

グリッドは嬉しそうに駆けていった。


レオは部屋の中にいるリナの身じろぎを感じて、部屋に戻る。

「う…」

「リナ。大丈夫だ」

そっと近寄って、リナにスリーピー(安眠)の魔法をかける。

子どもや安眠できない病人にかけるような優しい魔法で、夢見がよくなる。


リナの眉間によったしわが和らぐ。

レオはこんな魔法を使ったのは初めてだ。

やり方は知っていても、使ってやりたい相手なんていなかった。


「リナ」

いつものように、手を握って添い寝する。

リナはいつものようにころりとレオに向かって転がってくる。

くうくうと眠っているリナが少し口角をあげた。

楽しい夢を見ていたらいい。


(聖女、ねぇ)

リナには魔力がある。

少し変わった純粋な魔力ではあるが、練習すれば魔法も使えるかもしれない。

そんなリナを、魔力を毛嫌いしている教会が聖女などというだろうか。

異世界転移してきて湧いたのか、それとももともと持っていた魔力なのかはわからないが、ちょっと特殊な魔力ではある。


レオはリナを苦しくない程度に抱きしめた。

リナもレオの胸に引っ付いてくる。

リナが不安にならないように、温めるように抱いてやる。

まるで卵を温める親鳥の気持ちだ。

ほっとする。


リナを抱きしめていると、レオは息がしやすい。

あるべきところにあるべきものがある。

そんな安心感だ。


(ぜってぇ手放さねえからな……)

レオは初めてどんなものより、どんな人より、替えのきかないものを手に入れてしまった。


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