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「よう、レオナルド」

「……グリッドか」

ぬうっとレオの隣に現れたのは長身のレオよりも大きな男性。

いかつい見た目なのに、獣の耳が頭の上にちまっとついていて可愛い。

(もしかして、熊の獣人さん?)


「マリーナ!肉料理を2人前、いや3人前くれ!あとエールを!」

「はいはい」

マリーナに注文を通した後、グリッドと呼ばれた男は椅子を引いてレオの隣に座る。


「座っていいとは言ってないぞ」

「なーんだよ。いつもそんなこと言わねえじゃねえか」

がっはっはと笑ってリナをちらっと見る。


「これが噂の養い子か?」

「グリッド」

「なんだよ。かわいいじゃねえか。ハーフエルフの幼体か?」

「グリッド!」

「……お前がそんな風に怒るなんて、珍しいねぇ」

少々低くて怖い声を出したが、グリッドは全く気にしていない様子だ。

リナはびくついてしまった。


「リナ。すまない」

びっくりしたリナを気遣うレオは優しい声。


「うわっはっはっは!なんだよ。かわいがってるんだな」

先に届いたエールをぐいぐい飲んで、そんなレオの様子を楽しそうに見るグリッド。

緊張感は霧散した。


「グリッド!リナちゃんにちょっかいかけちゃだめよ」

「なんだよ?マリーナまで」

「そうよ。知ってると思うけど――」

「ケンカはご法度、だろ?」

「わかってるならいいわ」

マリーナは別の客の対応に戻っていった。


この宿は酒場も兼ねた元冒険者のゲオルドがやっている金の子ヤギ亭という。

元冒険者のゲオルドは高ランク冒険者をやめてこの店を始めた。


いまだに冒険者も情報も集まるこの店に、現役冒険者や商人が出入り禁止になるのは辛い。仕事がやりにくくなる。あと、ゲオルドがまだ現役並みに強い。殴られると痛い。


大きなジョッキをぐいっとあおり、グリッドはご機嫌だ。


「お前、ヴァイオレット嬢を袖にしたんだってな」

「……早いな」

「女はピーピー鳴くからな」

あの場に居合わせた客から漏れたんだろう。


「ヴァイオレット嬢はしつこいぜ」

「知ってる」

小さくカットした肉をリナに食べさせようとしたが、リナは首を振って拒否した。


「レオ。もう部屋に戻ってるよ」

「もう腹いっぱいか?」

「うん」

「部屋に戻ったら、鍵をかけておけ」

「わかった」

リナはグリッドにぺこりとお辞儀して、階段を上がって部屋に戻っていった。


「天使にも狙われてるんだろ?」

リナの姿が見えなくなったのを見計らって、グリッドが声を潜めて聞く。


「相変わらず鼻の利く」

「あのレオナルドが、子供を抱いて街を歩いてりゃー噂にもなるぞ」

くくくっと喉を鳴らして笑うグリッド。


「おまたせー」

「おお!今日もうまそうだ!」

三段重ねの肉の大皿を受け取り、ガツガツと食べ始めたグリッドを見て、レオは自分の肉を食べ始める。


「どうすんだ?」

「何がだ?」

「ヴァイオレット嬢のことだよ」

「どうもしない」

「あの女は別に俺に興味があるわけじゃない。ランク上位の男を侍らせたいだけだ」

「可愛そうだねぇ。惚れた男にそこまで言われちゃ」

グリッドの哀れみたっぷりの声に、レオは鼻で笑う。


カシャン


2階から微かに何かが壊れる音と、血の匂い。


「リナ!!!」

何もかもをかなぐり捨てて、レオは2階へ駆けあがる。


ドガ!!


レオは自分の部屋のドアを蹴破って、剣を構えた姿で飛び込む。


「レオ!!」

「リナ!目をつぶれ!」

リナは窓際で何者かに羽交い絞めにされ、もがいていたが、レオの言葉に歯を食いしばって目を閉じた。


「リナ。目は閉じたままで」

さっきまで知らない男に羽交い絞めにされていたのに、その押さえつける力がなくなったと思ったら、すぐ近くにレオの声がする。

レオが抱きしめてくれている。


「レオ……」

「リナ。部屋を出るから、このまま目を閉じていてくれ」

「うん」

リナはぎゅっと目を閉じたまま、レオの首に手を回す。

階段を下りる途中で、ゲオルドがやってきたようだ。声がする。


「襲撃か!?」

「もう片付いた」

()()たか?」

「いや、()()()だ」

短いやり取りで、ゲオルドはレオ達の部屋に駆け込んでいった。


「リナちゃん!」

「リナ。目を開けていいぞ」

ふかふかの上にそっと座らされて目を開けると、慌てた様子のマリーナとレオの顔。

マリーナさんの家に入れてもらったらしい。ベッドの上に腰かけていた。


「レ、オ」

「ああ。すまない。お前を一人にした俺のせいだ。怖かったな」

「あの人、なに?」

「もういない。それよりお前、怪我したろ?どこだ?」

「ど、どうして、わかった、の?」

じわりじわりと涙が出てくる。


「血の匂いがした。ものが壊れる音も」

リナは自分がやったことが無駄じゃなかったとほっとした。


部屋に潜んでいた輩に羽交い絞めにされた瞬間、近くにあったコップを思いっきりサイドテーブルにぶつけたのだ。

その破片が手のひらに刺さった。


「こんな、ちょぴっとの、怪我でも、わかるの?」

「わかるよ。鼻がいいんだ」

ちょっとと言いながらも、リナの手のひらは血が滴ったあとがある。


「リナ…かわいそうに」

レオはリナの手のひらを舐めた。


「きゃあ!」

最初は痛いと思ったが、何度か嘗められてるうちに痛みが消えた。


「え?」

ヒール(回復魔法)だ。傷跡も残らない」

「あ、ありがと」

びっくりして、震えも収まってきた。


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