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 リナは真っ赤な顔のままではあるが、何とか着替えて浴場を出ることが出来た。


「リナ」

「レオ。待っててくれたの?」

 入り口近くで立っていたレオに、たたっと早歩きで近づく。


「待ってるって約束しただろ?」

 レオはリナをさっと抱き上げる。


「自分で歩けるってば」

「顔が真っ赤だ。何か飲まないと」

「赤くなりやすいだけだってば。大丈夫」

 風呂でのぼせたことは黙っていようと心に決めた。


 2階のレオの部屋に入って、椅子に座らされると、コップに冷水を用意してくれた。

 礼を言って飲むと、まるですとんと胃に水が直接落ちていくように吸収されていく。


「あ~~。おいしい!」

「風呂は気に入ったか?」

「うん!すっごく大きくて気持ちよかった~。ギャリーさんに私のこと頼んでくれたんでしょ?ありがとうね」

 冷水と温泉の交互浴で、整った感じがする。

(緊張してたんだろうな。体の力が抜けて、ほんとに気持ちいい)


「ギャリーは面倒見のいいやつだ。何かあれば頼ってもいいと思うぞ」

「ふふふ。この世界の人、みんな面倒見がいいのね」

「そうだな。基本的に魔族は子どもが少ないんだよ。種族が違っても子供を保護したら育てるやつが多い。子供みたいなリナには庇護欲が湧くな」

「レオみたいに?」

「俺は……。まあ、そうだな」

 曖昧に笑ってごまかされた。


「ほら。髪乾かしてやるよ」

「自分でできるよ?」

「魔法で風を起こす」

 タオルを取られてふわっと弱い風を感じた。


「わ!」

 ほわんと暖かい風がレオの手から出ているように感じる。


「すごいね!」

「ふっ。ブラシあるか?」

「うん」

 ほわほわとブラシとともに頭を撫でる風に、しばらくするとリナはうとうとしてしまう。


「リナ。まだ寝るな」

「うん…寝てないよ」

 それでも頭はぐらぐらしている。


「しょうがないな」

 もうちょっと時間をかけて手入れしてやる気だったが、レオはさっと髪を乾かして、ブラシで整える。

 リナの膝の下に手を入れて、ベッドに運ぶ。


「リナ。おやすみ」

「うにゅ」

 何を言ってるのかわからないが、ほにゃりと返事してすうすう寝息を立て始めた。


「……かわいい」

 思わず口からこぼれ出た。


 リナが寝ていれば、自分も隣に居たくなる。

 いそいそと装備を外し、リナの手をいつものように握って隣に寝る。


 あたたかい。


 リナの魔力は本当にしっくりくる。

 こんなにも魔力の合う人間はどれだけ旅をしても見つけられないんじゃないかと思う。


 いつものように、レオはリナにベッドのほとんどを渡して、リナの顔を見ながら髪を撫でた。



「リナちゃん。いらっしゃい」

「マリーナさん」

 くーくーお腹がなった頃、レオとともに1階へと降りてきた。

 カウンター席に案内されて、酒場になった食堂の端っこに座る。

 もちろん隣にはレオが座る。


「元気になったみたいだな」

 白髪頭のおじさんが出てくる。

「父のゲオルドよ」

「ゲオルドさん。リナです」

「リナ。レオはお前さんの世話、ちゃんとしとるか?」

「ええ。もう過保護なくらい」

 がっはっはとゲオルドが笑う。


「嫌になったらすぐ言えよ。お前みたいな可愛い子供なら育てたいって養い親はいくらでもいる」

「おい、ゲオルド」

 眉間にしわを寄せたレオが怖い声を出す。


「大丈夫です。いまのところ、レオがきちんとお世話してくれてるので」

 リナはきっぱりと答える。


 きょうも手をつないで 横で添い寝していたが、リナは嫌ではなかった。

 窮屈そうに眠るレオの睡眠事情だけが心配ある。


「リナちゃん。今日はお肉とお魚、どっちがいい?お魚はフライよ」

「好きな方を頼め。俺のも分けてやるから」

「じゃあ、お魚で」

「わかったわ。レオはお肉の方ね」

「頼む」


 料理はすぐに運ばれてきた。

 夜には酒場にもなっているこの1階部分は、深夜になっても人が途絶えない。

 ゲオルドは酒場を切り盛りし、この辺りの顔役だという。

「困ったことがあれば頼りにしていい」

 頼もしい言葉を残してゲオルドは仕事に戻っていった。



「わー。おっきいね!」

 運ばれてきたのはリナのお顔くらいある魚のフライで、出来立てのためちりちりとまだ音がする。

「味があっさりだから、このソースかけると美味しいわよ」

「ありがとう、マリーナさん」


 まずは一口食べてみて、淡白な身を味わう。

 十分美味しいが、おすすめソースもちゅわっとかけてみる。


「ん~。おいしい!」

 ソースもおいしい。

 リナが食べていたものよりフルーツの味が濃いのかもしれない。甘みが強い。


「ほら、リナ」

 ちまっと切られた肉がささったフォークを差し出されたので、ぱくっと一口。


「やわらかーい」

 レア気味に焼かれた肉は噛めば肉汁がじゅわっと口に広がる。


「お肉も美味しいのね」

「ここは食事が美味くて有名な宿だからな。深夜まで人が途絶えない」

「わかる気がする」

 出してもらった料理は以前のリナが食べていたものよりよっぽど美味しい気がする。


 1人の食事が多かったせいか。

 ただお腹がいっぱいになればいいと思っていたからか。

 冷たい食事が多かった。


 今は違う。レオが一緒に食べてくれる。

 リナが美味しそうにすれば、レオは眉間のしわがなくなって、嬉しそうに微笑む。

 こっちに来てからの食事はなんでも美味しい。

 人の笑顔がスパイスだって、ほんとなのかもしれないなぁなんて、リナはにこにこしていた。


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