転生したら異世界乙女ゲームの王子の母親でした
私は王妃。ある日、悪役令嬢 エルヴィーナ・ドレッセル とお茶をしていた。
「最近、王子殿下の傍らに、平民の娘がいるそうで……。名前は確か――」
「なんとおっしゃる?」
「セリア・ブランシェ です」
その瞬間。
脳内に津波のように情報が押し寄せた。
ヒロインのイベント一覧、発生条件、バッドエンドの光景――。
……私は乙女ゲームの世界に転生していた。
しかも役どころは――攻略対象筆頭の 王子の母。別にヒロインでも何でもなく、「産んだ人」である。
一瞬落ち込んだが、私はすぐに思い出した。
このゲーム。実は、殆どが国家崩壊まで一直線の危険仕様。
もし王子がヒロインと結ばれた場合、周囲の攻略対象との関係がこじれて内乱、国外干渉、王国は瓦解……。
王子ルートは地雷。ハーレムルートはさらに地雷。
「……これ、母親が全力で止めないと国が滅ぶじゃない」
私は紅茶を置き、深く息を吐いた。
夜、執務室で王子に宣告する。
「毎日エルヴィーナ嬢を必ずエスコートしなさい。そして私の前に報告に来ること。一緒に王妃教育も受けなさい」
「なっ!?母上、なぜそんな強制を!」
「愛しき国家のためよ」
「恋愛は自由なはずだ!」
「自由の前に国が潰れるの!」
王子の反発は大きかったが、私は母として――いや、一国の王妃として、ねじ伏せた。
エルヴィーナは最初戸惑っていたものの、毎日の教育と真剣な王妃学に必死で取り組み、次第に輝きを増していった。
その姿に王子の心は揺れ動く。
次に私は、ハーレムルートの攻略対象たちの母親を招いた。
集まったのは、攻略ルートの母親である公爵夫人、侯爵夫人、伯爵夫人。
私は微笑みながら切り出す。
「皆さま、最近学院で治安が乱れているとのこと。今後は各息子に『婚約者を徹底的に大切にすること』を厳命してください。母としての責務ですわ」
「まあ、殿方の浮気など言語道断!」
「我が家の名誉に泥を塗る気かしら」
「監督不行き届きなどと言われては困りますわ」
結果――各家の母上方による鉄の監視網が形成された。
攻略対象たちは母親に叱られるのが怖くて、ヒロインどころではなくなった。
その頃のセリア。
「あれ……?王子様に近づくはずが、毎回悪役令嬢が一緒にいる……」
「他の攻略対象も……冷たい!?え、どうして?私、ヒロインよ!?」
王子はエルヴィーナに見とれ、
他の攻略対象たちは婚約者に夢中。
――セリアの出番はなかった。
結果、王子は、健気に努力するエルヴィーナに心を打たれ、彼女を心から愛するようになった。
各攻略対象も、母親の恐怖に背中を押され、婚約者を大切にする紳士へと成長。
国家は安定。
未来は明るい。
エピローグ
セリア「……なんでよぉぉぉ!私が主人公なのに、全然モテないなんて!!」
(大変ご不満)
私は優雅にワインを傾け、ひとこと。
「ふふ、母は強し。国家も守れたし、なにより――」
「我が息子が、悪役令嬢に恋する姿。最高の萌えシナリオじゃないの」
――こうして私は、乙女ゲーム世界で国家を救った。