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性の喜びは伝道師から


「さて。今日はどうっかな」


 迷宮都市は迷宮を中心に据え置き、そこから同心円状に広がっていく計画都市である。

 その様子は、さながらルイ・ナポレオンがエッフェル塔を中心に整備した19世紀パリ市街地だが、優雅さとは別の意味でひときわ賑わう地域がいくつか存在する。

 その一つが公営娯楽場―――、通称堕落した大衆(サーカス)である。

 

 サーカスを訪れるたび、イブ・サンローランは群衆の熱気と喧騒でその大きな狐耳が痛くなるが、それでも足繫く通い詰めるのには理由がある。

 

「さあーさあッ!今日は期待の新人が入ってるよーッ!楽しみだねぇ」

「いやあ!おらはこれまで通りあの子のファンさね。なんたって、デビュー以来欠かさず通い詰めて、この日を楽しみにしてたんだで」

「あほだねぇ、それじゃあ面白みに欠けるで。ここは初々しい新人を楽しむのが通ってもんや」

「ヘッ。そうやって、いつも真っ先に心移りするくせによく言うじゃん」


 見知った顔ぶれが何人か並び、いつもと変わり映えしない汚い言葉で口論を交わしている。

 ただ特に会話に割って入るようなことは一度もないし、おそらく今後もないだろう。

 彼女たちとは、あくまで趣味の空間にたまたま居合わせることが多いだけの薄い関係。顔は知っていても、お互いに面識があるわけでない。そんな微妙な関係なのだ。

 この場では目線が合えば、軽く会釈するぐらいに限る。

 

 だがサーカスを訪れる層が、迷宮都市でも限られるかと言われれば、意外とそうでもない。

 もちろん常連客や女冒険者が大勢というのは大前提だが、周囲をパッと大別するだけで、興味本位の年端もいかぬ少女、小綺麗な乙女から優雅な貴婦人、さらに数は少ないが男性まで見当たる。

 もっとも男性は基本中年以降に限るし、若い男性が訪れることは滅多にない。イブもその瞬間に遭遇したことは片手で数える程度である。しかも、そういう時はだいたい会場一体にピリつく緊張感が走るのですぐ分かる。まるで異物が入り込んだがの如く、観衆の視線がステージではなく、其方のほうに向くのだ。

 それだけ物珍しいことであり、サーカスを訪れる若い男性は普通とは何か違う。こういう場所に興味をもって入ってきて、物怖じしないということは、私たちのような喪女でもお近づきになれるのでは。そんな淡い泡のような期待を抱かせてしまう罪な男なのである。

 まったく悪い奴だ。そんな男は、無理やり犯されても文句を言えないだろう。


「あらあら。今日の子は意外と繊細なのね」

「そうねぇ。でも、あらやだ。ちょっと早すぎないかしら」


 イブは騒がしい立見エリアを抜け、自分のいつもの定位置へ向かう。

 しかし、持ち前の大きな耳で優れた聴力がある彼女は、半個室として仕切られたVIP席から、そんなマダムたちの興奮と落胆が入り混じった会話も拾ってしまう。

 熟れた猥談飛び交う言葉やステージを凝視する視線に、同性でも若干の寒気を感じるが、気持ちはわからなくもない。きっと自分も、何十年後に冒険者として大成した暁には、同じような淫靡な目で彼らを見つめているだろうから。


「はぁはぁ。うん...いい......ッ。聞いてたのより、ずっと興奮する......ッ!」


 しかし、お気に入りの座席に着いたとき、そこには先客がいた。

 彼女もまた10代前半ほどの女性であり、砂漠商人が頭にかぶるクーフィーヤを身に着けているものの質素な身なりをしていた。

 そして、きっとこれが初回なのだろう。ステージを凝視して目を見開き、顔を紅潮させ、息を荒くしながら身体を悶えさせる姿は、幼き日の自分を思い出させる。

 おまけに上着をブランケット代わりに膝上に敷き、股下をごそごそと手で動かす動作はバレバレだ。けれど同性として、見て見ぬふりをするのがサーカスでの暗黙の了解である。だって自分も同類なのだし。

 イブは懐かしみの念に駆られ、ひとつ先輩風を吹かせることにした。


「なあ、お嬢ちゃんよォ。こいつ、使ってみるか?」

「...エッ!? ン,,,,,ハァッ,,,!! ァ、ありがとうございますッ?」


 藪から棒に話しかけたこともあり、彼女は息荒いまま、訳も分からず差し出されたものを受け取る。

 しかし、それは彼女にとって見慣れないもので、使うもなにも使用方法が分からない。そんな疑問と若干の警戒感を抱いた彼女は、ニヤニヤと不敵に笑う狐の少女に聞き返す。


「あのッ、これって何なんですか?」

「まァ、使えば分かるさ。おれたちはローションって呼んでるけどな」


 イブは自分の尻尾を器用に動かし、円を描く動作で股下に塗るんだぞと示してあげる。

 それを見た少女は眉をひそめ、何のことかイマイチ把握しきれていない様子。しかし、訝しつつも試しに容器から垂れる液体を指先につけ、自分の秘部に塗るとあら不思議。ぬるぬるの潤滑油がお豆を刺激し、ほんのりスースーヒリヒリしてくるではないか。

 最初は変な感覚がもどかしい気持ちだったが、指先を駆使して優しくカリカリと弄ってあげると、いつもよりも痛くないし、身体に電流が流れるような気持ち良さがある。


「ハァンッ...!! ンッ.....すごッ....これ、ヤバイかもッッ.....!!」

「うぬ。そうじゃろ、そうじゃろ」


 イブは腕組みをし、満面の笑みで後輩淑女が慰めに耽るのを満足そうに眺める。

 こうして彼女は今日も善行を積んでしまった。幼き迷える子羊に救いの手を導くのは、年長者の務めなのだ。世の中に性の喜びを知るものが、また一人誕生した瞬間である。

 なによりイブ自身、姉貴分のフランツよりも早くこの道を歩み始めたし、彼女に性の喜びを教えたのは己だという自負もある。何をしても勝てない優秀な姉だったが、この分野では自分のほうが上なのだと実感できるのだ。

 

「それじゃあ、お隣失礼するぜ」


 その日は、いつもよりも気持ちが昂って捗った気がした。

 いまはステージ上の好色を嗜むしかない日々だが、今日は思いがけない出来事もあった。シャルロットは本当に良い仕事をしてくれた。だから一番手は譲る。だが、二番手をもらうのは自分なのだと。

 ああ、あの漆黒の黒髪と黄金の瞳を思い出すだけで、手が止まらなくなる。一刻も早く食べてしまいたいがフランツに釘を刺されそうなので、まだ我慢だ。


「んッ.../// ハァ....ァ,,,!! あッッ....だめッッ.....!!!」


 性の喜びお姉さんは、今日も日課に耽る。

 いつか手にする、本物の男の人肌恋しさを慕い、そのまま今日は果ててしまった。



お察しの通り、サーカスは風営法に該当する場所です。きっとストリップ劇場のような場所なんじゃないでしょうか。ちなみに、イブ・サンローランはフランスの高級ファッションブランド(デパコス)から文字ってますが、貞操観念逆転の作中ではイメージ逆転しております。。

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