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うちの子になっちゃえ


「さあ、紹介します! 魔法使いのファムくんです!」


 シャルロット・デュポンは胸を張り、自信満々にどや顔を披露する。

 むふふと喜びを隠しきれていない様子は、感情豊かな小動物のようだ。

 彼女は後ろに隠れていたファムの肩をポンっと掴み、フランツの御前に差し出す。


 なんだ、何が起きているんだ。

 フランツは酔った頭を整理するため、深く息を吐いて思考を整理する。

 ファムは突然触られたことで一瞬身体をビクッと震わせるが、幸い特に嫌がっている様子はない。

 良かった。パーティメンバーが衛兵に痴漢容疑で連行されることはないらしい。


「シャル。念のため聞いておくが、その少年が新しい魔法使いなのか?」

「そうですよ!ほら、この子を見て下さいっ!」


 シャルロットはキラキラした目で訴えかけてくるが、まだ思考は追いつかない。

 なんだ、いまわたしは何を求められているんだ。

 ええっと、まず順番に考えよう。

 一つ、わたしたちは、魔法使いの新メンバーを募集中。

 二つ、シャルが候補者を連れてきた。

 三つ、たまたまそれが超絶美少年だった件。


 いや分からなすぎだろ。新手の詐欺か??

 たしかに美少年と1秒でも会話ができるのなら、大枚はたくことも厭わない層もいるが....。

 詐欺にしては美少年資源の無駄遣い過ぎる。この線は却下だ。


 となると本当に魔法使い候補なのか。

 推測できるのは、修道服を着ている点だ。

 シャルが礼拝に行ったことからも、この少年は修道児であり、そこで邂逅したのだろう。

 ただ不自然な点として、出生ルーツが気になる。

 修道児であれば、孤児が大半だが、少年からは妙な清廉さを感じる。

 それに彼女が気付いているか分からない。

 だけど、当人は恍惚とした女の顔をしているので、もはや些細な問題と捨象しているのだろう。

 直近の迷宮探索であれだけ男に辟易させられたのに、まったく懲りていないやつだ。


「どうも、よろしくお願いします」

「ああ」


 フランツは、酒杯を煽りながら美少年ファムを見つめた。

 改めてまじまじと見ると、彼の美少年たる所以が脳に直接語りかけてくる。

 髪は珍しく漆黒の黒髪で、サラサラな髪質だ。

 少女のように華奢で白い肌、小顔ながらまだ幼げが残るほっぺとくちびる。

 目は黄金色の輝きで、まるで美術品のようであった。

 整い過ぎていて見るものは威圧感を抱いてしまいそうだが、それを優しい目じりが中和している。


「あのう。もしかして、僕じゃダメですか」


 わたしが無言で見つめ続けるものだから、ファムは上目遣いで眉をひそめる。かわいい困り顔だ。

 おまけに何とか気に入られようとしているのか、出来ることは何でもしますと懇願してくる。

 ―――だめだ。直視できん。それ、世の中の女に向けちゃいけない表情と言葉だよ。


 彼女は内心激しく動揺しつつも、思わず笑みがこぼれてしまう口元を冷静に酒杯で隠す。

 溢れ出れるニヤつき顔を白日の下に晒すわけにはいかなかった。

 そしてふと、椅子に腰かけた自分と同じ目線であることに意識が向いた。


「まだ子供じゃないか」

「子供じゃダメでしょうか」

「ああ、迷宮探索が危険なことを本当に分かっているのか」


 先程までの騒乱とは程遠い時間が流れる。

 フランツもこんなに可愛い美少年が加入してくれるのは大賛成だ。

 しかし、彼氏彼女ではなく、命預けるパーティメンバーとしてである。

 前例もあるし、何より男女の痴話はパーティ解散にも繋がりかねない。

 個人的に、全員女性のほうが気が楽な側面は否めなかった。

 反対というわけではないが、年齢の問題もあるし、もう少し慎重になるべきだと。


「まァ、いいんじゃねェの。シャルが連れてきたんだしさ」

「本当ですか!」

 

 他方で、イブはそんな懸念お構いなしに賛成を表明した。


「おいおい、本当に良いのか」

「逆に反対する理由がないだろ。ほら、魔法使いって紹介だし、魔法は使えるんだよな」

「はい、初級魔法は一通り覚えてます」

「な。十分だろ? 」


 イブはそう言って、ニヤつき顔を遠慮なく晒し、ファムに握手を求める。

 ばか、年頃の女が大胆にボディタッチを求めるなんて、いくら何でも下心が明け透けすぎるだろ。

 フランツは再び衛兵連行の危機に背筋が凍るが、無用の心配であった。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 しかし、ファムは一切警戒することなく握手に応じる。しかも丁寧に両手で包み込む握手だ。


「ぐふ」

 

 想定以上の破壊力にイブが悶絶した。

 彼女は狐の獣人であり、白くて大きなもふもふの尻尾を持つのだが、尻尾には精神状況が反映される節がある。

 つまり、盛大に左右へ動かしているいま、彼女ははち切れんばかりの喜びを噛みしめていると言える。


「おい、あからさますぎるだろ」


 小声で彼女に耳打ちするが、本人は余韻でそれどころではない。

 狐耳をピクピク動かしている様は、たしかに愛玩動物のような可愛らしさがあるが、放つ言葉は貧民街ゆずりの野蛮そのものだ。

 いまは良くても、そのうちファムが怖がるかもしれない。

 おまけに、彼女が非常にラフな格好をしていおり、上着はノースリーブの厚手タンクトップ一枚のみだし、ズボンはオーバーサイズでぶかぶかだ。

 典型的なヤンキースタイルで、タンクトップの隙間から大きな横乳が見え隠れする卑しさがある。

 もう少し身だしなみに気を付けるべきだと忠告は重ねてきたが、同性に言われても響かないようで。


「まだ疑わしさがあるなら、試しに魔法使ってみましょうか?」

「えー!私も見てみたいなあ」


 フランツがイブに軽蔑の目を向けていると、とんとん拍子に話が進んでいた。

 結論から言うと、確かに彼の魔法の才は本物のようだった。

 そのうえ、教育を受けている話し方であり、年齢を考慮しても聡明であるので文句の付け所がない。

 ただ逆に言えば、それだけに出生とバックボーンが気掛かりなのだが、自発的に語らない限りは迷宮都市では背景の詮索を御法度としている。


「ああもう、何かあっても知らないからな!」

 

 最終的にフランツも認め、正式にファムのパーティ加入が決まった。


「じゃあ、さっそく冒険者登録しに行きましょう~」


 シャルロットの一言がきっかけに、善は急げと、満場一致で冒険者組合へと足を運ぶ一同。

 もはや美少年修道児誘拐について、彼女を批難する者はいなくなっていた。



設定ではフランツとイブは同じ育ての親です。

そのため、周囲には姉妹で通ってます。

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