赤い砂漠
古き神々が信仰の対象として崇められていた時代より、砂漠には不思議な魅力があった。
昼夜の寒暖差は激しく、強烈な季節風と下降気流に見舞われ、生物が必要とする水が絶対的に不足する土地。
草木一つ育たぬ不毛の大地でありながら、古来より交易の要所として重宝され、荘厳な自然による死が隣り合わせの朧げな空間。
到底、人間が生きていくにはあまりにも過酷な環境だ。
定住し、繁栄の一途を目指す拠点とするには環境が悪すぎる。
点在するオアシスはあれど、発展、すなわち人口増大は都市の持つ生存キャパシティを超え、自己破壊的な楔となってしまう。
結局のところ、砂漠都市とは小規模コミューンが限度であった。
しかし、それは不運にも発見されてしまう。
発掘したのは、名も無き商人の一団だった。
キャラバン隊の少年が、乱反射する灼熱の日光の中に、一筋の黒き光沢を見つけた。
黒き光沢の正体は、古き神々の時代を想起させる遺跡の光であった。
この世のものかと訝しいほどに異彩を放つ遺跡の一部が、どこまでも続く砂の地平線に埋もれていた。
キャラバン隊は警戒しながらも、己らが信仰、商人としての金目の匂いを嗅ぎ取り、探索を試みる。
しかし、第一発見者の少年が遺跡に足を踏み入れた時であった。
遺跡は地鳴りを轟かせ、生物のごとく息を帯び始めた。
それはあまりにも急激に、大規模な変動を伴い、遺跡の岩や大理石を宙に舞いあがらせたという。
そして、後に残ったのは、砂の大地に堅牢に根を張る巨大塔であった。
こうして大勢の商人を呑み込み、この世に迷宮が誕生したのである。
この与太話が事実かは不明だ。
ただ、明らかな事実が一つだけある。
このバレンシアガ大砂漠に魅了される者は、みな口を揃えてかく語る。
――赤い砂漠には魔王が棲まうと。