ぱんどらのはこ
「聖菜、あんた、少しは部屋片付けなさいよ~。」そう愚痴りながら溜まりに溜まった私の洗濯物を素早い手さばきで畳んでいるのは、母だ。実家が車で1時間の場所にあるため、休日はよくアパートに顔を出す。
「めんどくさい。どうせそれもすぐ着るし。」
「使ったものは、元ある場所に戻す、これ基本でしょ?」そう言いながらキッチン周りの掃除をしている姉。姉もよく顔を出す。私と同じくひきこもり体質なのに最近はよく家にくる。
「希子姉がきっちりしすぎなだけじゃん。お母さんだって実家のリビング散らかしたまま放っとくじゃん。それと今の状況同じだよ。」ほっぺをぷくぷくさせながら私は携帯をいじるだけ。末っ子の特権だ。
「まあまあ、実家とこっちは別物ですよーだ。」と母も譲らない。
日が落ち、ひきこもりが外に出ても体力の消耗が激しくなくなった頃、事件は起きた。
「あ、そうだ。伝えるの忘れてたわ~。」と言いながら少しためらいながらも姉が一枚の手紙を私の目の前に出した。
「何これ」
「これね、お父さんからの伝言らしいよ~。私もあんまり知らないんだけどさ、まあ、とにかく読んでみれば~?」
“きみのむかしのゆうじんにあった。まるでひーろーのようなとうじょうだったよ。はたしてだれだったかな。おもいだせなくて、ちちはあたまがいたいのだよ。きみにみっしょんをあたえよう。ひきこもりのきみのことだ。あまりこうごうせいをあびていないだろう。そのゆうじんとやらにあってきてくれたまえ。あわないときみはきっとこうかいするだろう。きみがぱんどらのはこをあけてくれ。“
「は?」なんだこれ。唐突すぎて頭が回らない。
「なんか謎かけみたいなやつ~?ひきこもりにはぴったりね~」と母。
「いやいや、光合成をあびてないだろう、友人に会ってきてってことは、外に出ないといけないってことじゃない?」とツッコミ気味の姉。ほんとに姉の言う通りだ。ひきこもりにはきつい。
「まあ、気が向いた時にね、やってみるのもいいんじゃない~?」
「そうだね~。優しいお姉様が一緒に行ってあげようか~(笑)」
「そのうちね~、気が向いたら姉を誘うわ~」と棒読み気味に言いながら手紙を整理しない棚の上に置いた。
「あ、それ、ぜったいやる気無いじゃん、一生姉を誘う気ないでしょ~(笑)」
「ばれた?(笑)」姉と私はお互いに笑い合った。
―実家―
「そういえば、希子、聖菜に手紙渡してくれたか?」
「うん、渡したよ~。でも今のところ取りかかる気ないみたいだけどね。まあどうしてもあの頃の聖菜に戻ってほしいなら、協力するよ~」
「もしもの時に頼むよ。もう少し待ってみるよ。」
そう、聖菜は人に興味がなかった訳でもない。小さい頃はもっと活発で、人との関わりを楽しんで毎日が新しいことであふれていたのに。人の死を初めて目の当たりにした4年生の時から変わってしまった。父親を始めとし家族が、いや親戚や知り合い全員が昔の聖菜に戻ってほしいと願ってる。
皆様にとって良い1日となりますように。