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短編まとめ

呪術師は見た!奇怪な呪いに全身苛まれ男!

作者: よもぎ

リンファは呪術師である。

正確に言うならば、闇魔法の中の、呪い関係に特化した魔術師である。

呪うだけでなく、解呪のスペシャリストでもあるため、彼女は王都に住み店を開いていても特に何も言われない。

どころか、一代限りの準男爵家を与えられている。


その理由として、王侯貴族の間で流通してしまう呪具の解呪を優先して行ってくれるからと、「魅了魔術」の対抗策として軽い呪いをかけてくれるからである。


野良の、呪うだけしか出来ない魔術師によって作られた呪具は、解呪の出来る魔術師でなければ処理が出来ない。

そもそも呪われているかどうかの判断さえ出来ない。

ある時から調子が悪い、不運が続く、といった時に、リンファを招けば、どこの何が呪具なのか探し当てた上で呪いを解いてくれるのだ。

時にはものではなく人そのものが呪われていることもあるが、それだってリンファは仕事として解呪してくれる。


「魅了魔術の対抗策」とてそうだ。

あれは精神に作用する禁術だが、使おうと思えばいくらでも使える。

随分昔に世界的に禁止となった魔術であっても口伝で残っているものだから完全に消滅はしないのだ。

しかし、リンファによって前以て軽く呪われておけば、魅了魔術を防ぐことは可能である。

彼女は加減が分かっているし、あくまで対抗策として適切かつ日常生活に障りのないよう計らってくれるので、王族から高位貴族は、生まれてすぐといった年齢から、もう前以て呪ってもらっている。


しかしこの呪いというもの。

魅了魔術を防げはするが、他の呪いを防ぐ手立てにはならない。

魅了を防げるのは、呪いが精神を含めた対象に張り巡らされて魔力が循環しているからだ。

呪いはそんなん知ったこっちゃないので。

なので、リンファはいつでも忙しくしている。






そんなリンファは今年で二十四歳になる。

十一歳で呪いと解呪を極めて独り立ちし、十二歳で準男爵に就いて以来、あれこれ忙しく暮らしてきた。

十五歳くらいからは闇魔法の適性が高い人間を弟子にして、自分と同じように呪いと解呪を極めさせるべく頑張ってきた。


お陰で、リンファほどではないが、王宮に直に雇われる見込みのある程度に弟子は育ってきている。

リンファは百年単位での天才で、比肩する程の才覚を持つ者がいないから準男爵となった。そこに追いつく人材がホイホイいるわけはないが、彼女の教えを受けて育つ人材なら、まあ、よかろうということらしい。


普通、解呪というのは呪うよりも何倍も難易度が高く、また理解が深くなければ出来ない。

絡まった糸を解くのが面倒臭いのと同じようなものだ。

その糸が細くて、しかも複数本絡まっているような状態であっても、リンファはすいすい解いてしまうのである。

弟子たちはまだ一本の糸を必死になって解ける程度である。

この手の技術は修練を積んだ歳月によって磨かれていくものなので、リンファが年老いた頃には弟子たちも二つか三つほどが絡まった呪いも解けるようになっている可能性が高い。






で、今回リンファに依頼が来た案件だが、これがまたリンファから見ても面倒臭い。

少なくとも三十人には呪われている。

絡まり具合から見て、系統違いの呪いもある。

殺意の高い呪いから軽度な呪いまでよりどりみどり。

死んでいないのはひとえに複雑化した呪いが変質しているからで、ここまで呪われているのに生きているのは呪われているからという訳が分からない状態なのだ。



「いっそ死んで、なかったことにしたほうがいいと思いますけど」

「そう言わずに!?一応嫡子なんだ、なんとか……なんとかならないか!?」

「いやぁ、ここまで呪われる人が跡継ぎって問題しか起きないと思いますよ。

 そもそも一つ呪いが成就されてる状態でして」

「「えっ」」



某侯爵家の応接間にて。

リンファは、ぽかんとした顔をした当主夫妻に、残酷な現実を伝える。



「子種をなくす呪いが既に発動し終わってます」

「そんなっ!?」

「とある女性とのみ関係を持っていれば発動しなかった呪いですが、その女性以外と行為に及んだためもう手遅れの状態ですね。

 今からこの呪いを解いたとて、既に肉体に影響が出ている以上、子種は戻ってきません」



わっと夫人が顔を覆って泣き伏す。

ご当主もさすがに言葉もない。



「他の呪いは……どれどれ。

 水虫になる呪い。これは発動寸前ですね。

 毛髪が異常に増える呪いと、薄くなる呪いは今拮抗してます。

 ワキガになる呪いはこのままいけば来月くらいには発動かな?

 水飲むだけでも太る体質になる呪いは……まだ猶予がありそうです」

「待ってくれ、まだあるのか!?」



呪われている当人――顔だけ見れば美青年――が耐えきれなくなったとばかりに叫ぶが、リンファはあっさり頷くのみ。



「まだまだ山ほどありますよ。

 重複してる呪いもあります。

 あ、あと多分ですけど、起点となってしまいそうな呪いがあるので、それが発動しちゃうと全部発動するはずです。

 けど、その呪いを解呪するとなると、必要な触媒が……ちょっと、やばいですね」



触媒?とご当主は疑問げに言う。

普通、解呪で必要な触媒などは普通に安い。

高くても宝石ひとつとかで、その宝石も装飾品にするにはちょっと輝きが鈍いかな、というものでいい。

その解呪のための触媒に何かあると言われると、少し嫌な予感がする。


だって、触媒は使うと粉々に砕けるのだ。



「ご当主殿と夫人の生首が必要になるんですけど、ほんとに解呪します?」

「なぜ!?」

「さあ?私も条件しか分からないので……。

 だから言ったんですよ。死なせたほうがいいですよって。

 普通の触媒なら別に準備してもらえばいいですけど、人間の生首はちょっと。

 しかもそれ見ながら解呪の作業しなきゃいけないとかつらいです」



今度こそ三人は絶句している。

子種ロストして子孫断絶の嫡子だった男を取るか、今現在当主をしている男とその妻を取るか。


普通に考えたら嫡子には死んでもらって次男とかそのへんに家を継がせるのが無難である。

だって、これだけ呪われるほど人間性が屑なのを次期当主になどしたら、子種があったとして子孫断絶する。

リンファをこまめに呼ぶとて、侯爵家の資産があっても依頼料で破産しかねないし、そもそも親の次は誰が犠牲になるというのか。

結婚したとしたら間違いなく妻となる女性が触媒になるだろうし、子供が出来たとして――もうその可能性はないが――子供もそうなるだろう。


だからリンファは「そいつもう死んだほうがいい」と言っているのだ。


一応親切心がないわけでもない。

だって有無を言わさず触媒なので、と当主夫妻の首をちょん切ってもよかった。

もしくは、その致命的な呪いだけ残して他を解いてとんずらかましてもよかった。

それを丁寧に説明して選択肢を残しているのだ。



「本当にもう、それしかないのだな?」

「はい。手を尽くそうにも尽くしようがないですね!」

「そう、か。では、今回は見ていただいただけで結構」

「あなた……」

「いや、次男と長女も念のため確認してもらおう」




そうして呼ばれた次男と長女はまっさらキレイであった。

いや、魅了避けの呪いはリンファが掛けてあるのでその一つはあるのだが、他の呪いは一切かかっていない。

どちらも恨みを買っていないということである。

ついでなのでサービスで当主夫妻も見たが、こちらも問題なし。

問題がありすぎるのは嫡子の青年のみである。


解呪はしていないので鑑定料だけもらってリンファは侯爵家を後にした。





その後、なんとなくで気になってその家のその後を調べたが、嫡子であったという長男は急病により亡くなったとあった。

故に次男が後を継ぎ、分家に長女が嫁いで家を継ぐことにしたとか。


ついでだからと亡くなった元嫡子について調べたら出るわ出るわ、女遊びの激しい放蕩人の情報が。

皆やってるから、と、純真無垢なデビュタント前のご令嬢たちに手を出すのも大概だが、気に入れば強引にでも体の関係を持とうとするのでこの数年ほどはどこの夜会でも彼対策として警備を大増員し、休憩室に専属の侍女と騎士を置くなどしていたという。

倫理観と貞操観念を母の腹に忘れてきたという評判も頷ける。

だって、下の子である次男と長女は非常に評判がいいので。


そして彼の婚約者が王女であったことも分かった。

恐らく子種をなくす呪いを掛けたのは王家だろうなあとリンファも察する。

普通ならそんな呪いをかけたとして、全く無意味なので。

念のためにちょっとね、と呪ったところ発動してしまったというのが真相だろう。

王家もよもや、まさかと言ったところだろう。

まあ評判が評判なので、二年か三年ほど前に婚約は白紙撤回されていたらしいが。

リンファは、元嫡子との婚約は知らなかったが、王女がつい最近に隣国である帝国に嫁いだのは知っている。

なので、ちょっと驚いた。あんなキレイなお姫様が奥さんになるはずだったのに、他のひとに目がいくんだ、と。



「でも、あの起爆剤みたいな呪い、面白かったなあ」



どういう呪いか、敢えて説明しなかったが、求められる触媒の割に致命傷を負う呪いではなかった。

何せ、長寿を保障する代わりに人の十倍ほど代謝がよくなる呪いだった。

トイレに行く回数はとんでもなく増えるし、常に汗をかくことにもなるだろう。

なので排泄物と汗の匂いでとんでもなく臭うことになったろう。

まあ代謝がいいので健康ではあったろうが、肌もツヤツヤで顔も美形なのに異臭が常にするというところで大抵の人は嫌いになるんじゃなかろうか。

リンファとて嫌だ。そんな人間。


どんな闇魔法の使い手がどういう発想からそんな呪いをかけたか知らないが、今後もえげつない触媒を解呪に要求するヘンテコな呪いをかけ続けるのだろう。

リンファは解呪の使い手としてその使い手の痕跡をたどることになるのだろう。

完全に他人ごととしてかかわるのみなので、なんとはなしにワクワクするのみだ。

呪われるみな皆様には申し訳ないが、天才なんてそんなものである。


出張解呪のために出かける時間だと告げるメイドに返事をし、リンファは立ち上がる。

面白くもなんともない呪いの数々と今日もご対面である。

願わくば、面白い発想の呪いと出会えますように。


なんて、考えているのは、他の誰にも秘密だ。





解呪そのものはめんどくさいし出来る人は限られてるけど呪うこと自体の難易度はメチャクチャ低い世界です。

闇魔法の使い手で師匠が呪い方知ってれば教えてもらえるし、アレンジの仕方も思いついたらすぐ組み込めるから、探せばすぐ呪ってくれる闇魔法の使い手が見つかる。

でも皆死ぬような呪いは掛けないし掛けられないって思ってもらえれば。尊厳の死?体は死んでないからセーフだよ。

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