ファフニールの唄
「坊主。儂は何に見える」
「知らない」
「育て親に何てこと言うんじゃ。かかか」
―
「~♪」
「鳥の囀りみたい。変なの」
「かかか」
―
「前のラビリンス・ラッシュとやらで随分と人が増えた」
「ぼくの父さんもそれでやってきたの?」
「ああ。じゃがファフニールに殺された」
「ファフニール」
「憎いか? ファフニールが」
「いいや、あんまり」
「そうか」
「でも」
「なんじゃ」
「ファフニールが隠し持ってるって噂の財宝には興味がある」
「ははは。坊主は面白いのう」
―
「坊主。剣を習わんか」
「誰に」
「儂にじゃよ」
「爺さんは上手なの?」
「雷くらいなら斬れた。若い頃ならな」
―
「坊主。お主に剣をやろう。一つ打ってやる」
―
「ねえ、師匠」
「なんじゃ」
「ファフニールを殺したよ」
「そうか」
「ねえ、師匠。......いいや、爺さん」
「なんじゃ」
「ファフニール、唄を歌ってた。聞こえたんだ。心臓を剣で刺したときに。あれは、爺さんが歌ってた唄だった」
「......」
『人間を殺せ、人間を殺せ、憎き人間を殺せ、我らが同胞の仇、我らが兄弟の仇。ドワーフの故郷を海の底に沈めた我らが怨敵を討ち滅ぼすのだ』
「ドワーフの言葉だよね。俺、ファフニールの血を浴びたら分かるようになったんだ」
「なあ、シグルド」
「うん」
「ファフニールは財宝を持ってたか」
「ううん、何も」
「それは、悲しいな。......なあ、シグルド。人の仔よ」
「うん」
「お前の父さんを殺したのは儂じゃ」
「うん。......ここに来るまでに鳥に教えてもらった」
「ファフニールは儂の兄じゃ」
「うん」
「シグルド。儂はお主を殺す気でおった」
「俺も爺さんを殺す気でここに来た」
「じゃが気が変わった」
「俺もだ」
「お揃いじゃな」
「ああ」
「......ファフニールは最期に何と言っておった」
『ドワーフに栄光あれ。人間の帝国に災いあれ』
「かかか。......人の帝国の最後の灯火、東帝国は三年前にドワーフに攻め滅ぼされたわい。がはは、がはは、がはは。間抜けなやつじゃなあ、ファフニールは。北西は八十五年前に獣人に乗っ取られ王国となり、南西のは魔王呼ばわりされて人の手で四十いくら前に解体された。人の帝国などこの世にもう存在せんと言うのに。強いて言うならここらの都市連合か。一応東帝国の系譜ではあるからの」
「爺さん。レギン爺さん」
「なんじゃ」
「俺、悪魔と契約するよ。これから仲間たちが迷宮都市を発つ。仲間がいなくなっても俺は迷宮都市を、迷宮都市のみんなを守りたいんだ」
「そうか」
「悪魔と契約すると育て親のことを忘れるって本で読んだのを思い出して、爺さんのことは殺さないでいいかなって思ったんだ」
「そうか。達者でな」
「うん、爺さんも、元気で」
―
「今日からお前は俺の部下だ」
「部下ですか。分かりました、主様」
「『あなた』でいい」
「あなた......あなたはなぜ泣いているんですか?」
「忘れたいと願っていたことをどうにも忘れられなかった、ただそれだけだ」
読んでくださりありがとうございます。感謝を。