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FILE No.006 真実と真相

 ーー皇都コウト大学ーー


「へぇ〜ココが皇大コウダイどすか〜?」


 焰間ホムラマ警部補は、興味津々といった様子で周囲を見回しながら呟く。


 その様子に氷御角ヒミカド警部補は、思わず顔をしかめる。


「ちょっと、恥ずいからキョロキョロすんなって!!」


 東都の空にそびえ立つ知の殿堂。誰もが畏敬の念を込めてその名を口にする、日本で最も有名で、間違いなく最難関の国立大学、その略称を【皇大】と云う。


 氷御角ヒミカド警部補が、昨年度まで青春を過ごしたこの学び舎は、文京区元郷ゲンゴウの広大なキャンパスに静かに佇んでいた。


 理学部の研究施設群の一角、天文学研究室を目指し歩を進める氷御角警部補だが、物理学科出身の彼女にとって、天文学科の領域は母校でありながら未知の迷宮の様であった。


「え〜っと確か…。」


 曖昧な記憶を頼りに歩く氷御角警部補だが、その背後で業を煮やす焰間ホムラマ警部補は、すれ違う学生に声を掛けた。


「お〜い清良セラ。コッチやって~。」

「って、オイ!ボクが案内してんのに、何、先行っとんじゃ〜いッ(怒)!!」  


 氷御角警部補が叫ぶ間もなく、焰間警部補が目的地を突き止めてしまい、氷御角警部補の面目は丸つぶれとなっていた…。


 ー天文学研究室ー


「あ〜清良、したした。ココにしたわ。」


「だから、勝手に先行くなっつ〜の(怒)!」


 天文学研究室の重厚な扉には、達筆な毛筆で【天文学研究室】と書かれた紙が、無骨なテープで貼り付けられていた。


 焰間警部補がノックしようと手を上げると、ふと動きを止めた。


 研ぎ澄まされた感覚が、室内の異質な気配を捉えたのである。


「何?どうしたん?」

「中に人の気配…。4人いてるなぁ。………けどまぁ〜ええか。」


 問題無しと判断した焰間警部補は、遠慮会釈もなく扉を叩く。


 その音はノックというよりも、獲物を求める猛獣が暴れている様であった。


 ドン!ドン!ドン!!

「たのも〜ッ!!」


 静寂を切り裂く叫び声に、戸惑いを隠せない返事が返ってくる。


「………あ、は、は〜い!何?」


 返事を待つ間もなく、焰間警部補は勢いよく扉を開け放った。


 すると中にいたのは、見慣れた顔の猪岡巡査部長と、頼りなさげな男性刑事、若々しい女性刑事の2人で、彼等は中年の研究者に聞き込みをしている最中であった。


「あぁ〜あぁ〜あぁ〜。何で、こんな所までやってきてるんですか?焰間警部補殿!氷御角警部補殿!」


 猪岡巡査部長は、驚愕と苛立ちの入り混じった表情で2人を睨み付ける。


「えっ?先輩、この子達…いや、この人達が、その例の?」

「あぁ、そうだよ!」

「ヘぇ〜ホントだったんだ。わ…私よりも若い。」


 焰間警部補は、猪岡巡査部長の背後に立つ、若い刑事達を興味深そうに観察し…。


 氷御角警部補は、猪岡巡査部長に歩み寄り、文句を言い始める。


「ちょっと、捜査一課がココに何の用っすか(怒)!?」


 猪岡巡査部長は眉間にシワを寄せ、氷御角警部補を鋭い視線で突き刺さした。


「そりゃ〜こっちの台詞ですよ。氷御角警部補殿。フカシ係風情が、俺達の邪魔しちゃダメでしょ。おい、蝶埜チョウノ!お前、この2人、しばらく外に摘み出しとけ。」


「あ、はい。お2人とも、申し訳ございませんが、もうしばらくだけ外へ。はい、外へ。もう、直ぐですから………。」


 女性刑事の蝶埜巡査部長は、先輩刑事の指示に従い、戸惑いと不満を隠せない2人の警部補を、まるで子供を扱う様に、研究室の外へと連れ出したのだった。

 ・

 ・

 ・

 猪岡巡査部長と鹿住カズミ巡査部長の2人が、聞き込みを終え天文学研究室から出てくると、校舎の外からは楽しげな笑い声が聞こえてきた。


 校舎脇のベンチには、女子3人組が肩を寄せ合って、仲良くキャッキャツと安らぎの一時を分かち合っていた。


 その光景を見つけた猪岡巡査部長は、眉間に深いシワを刻みながら、女子3人組に歩み寄る。


 彼の存在感は、まるで嵐の前触れの様に周囲の空気を一変させ、ベンチの後に仁王立ちすると、腕を組んで蝶埜巡査部長を睨み付けた。


「おい、蝶埜!テメェ〜何、こんな所で女子会開いてやがんだ!?」


 その声は威圧的で、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。


 しかし、蝶埜巡査部長は慣れた様子で肩を竦め、あっけらかんとした笑顔を浮かべて立ち上がった。


「あ〜すいません。後輩とはいえ上司に当たるお二人に、女性警察官としての苦労話を聞いていただいてました。」


 この軽やかな返答に、猪岡の険しい表情がさらに険しくなる。


「はぁ?何が苦労話だ。ったく、これだから女は…。」


 その瞬間、氷御角警部補は静かに立ち上がると、猪岡巡査部長の前に歩み出る。


「はい、ソレOUT〜!!猪岡巡査部長、貴方は一体、いつの時代の人間なんっすか?」


 彼女のその声は、柔らかくもどこか冷ややかな響きを含んでいた。


 猪岡巡査部長は面喰らった様に言葉を失い、氷御角はチャンスとばかりに淡々と続けた。


「ハラスメントというのは、やってる当人の自覚が無いから問題となるんっすよね〜。知ってました?だから、タチが悪いんっすよねぇ〜。」


「えっ?お…俺が?蝶埜に対して、ハラスメントを…?」


「自覚、無いみたいですね。困りましたねぇ。でも、警察庁としては看過できない問題なんですけど…。幸いにも蝶埜巡査部長は、とても心の広い女性警察官ですから、猪岡巡査部長のパワハラ行為も、全く気にしてないそうですよ。」


「そ…そうなんですか?なら何の問題も…。」


「で〜す〜が〜。ハラスメントを行ったという()()が、消えて無くなる訳ではありませんし、女性警察官は蝶埜巡査部長()()ではありませんからね。ですから後輩は、ちゃ〜んと大切にしてあげましょうね。猪岡巡査部長殿♡」


 氷御角警部補は、威嚇と挑発を巧みに織り交ぜ、猪岡巡査部長の良心をこれでもかと刺激した。


 その言葉に、猪岡巡査部長は明らかに動揺し、逃げる様にその場を後にしたのだった。


 その背中を見送りながら、焰間警部補は思わず吹き出していた。


「あはははっ。何や、エライあたふたして帰りはったなぁ〜(爆)。」


 氷御角警部補も、肩を竦めて微笑む。


「まぁ〜これで、()()()さんの蝶埜ちゃんへの当たりも、多少は緩和されるっしょ。」


「せやね。ほな、後でココに来はった理由や捜査情報やらもオセえて貰えるなぁ。」


 実はこのベンチでの女子会は、ただの雑談ではなかった。


 焰間•氷御角両警部補が、捜査一課の情報を得るため、蝶埜巡査部長と密かに取引をしていたのだった。


 その条件は【言葉遣いの荒い猪岡巡査部長の喋り方をマイルドにする事】であった。


 その後、蝶埜巡査部長からは、教えられる範囲での捜査情報が送られてくるのだが───



 猪岡巡査部長の姿が見えなくなったのを見計らい、2人は入れ替わる様に、天文学研究室の扉を再びノックする。

 ・

 ・

 ・

 コン、コン、コン。


「先ほどは、どうもっす…。」


 研究室のドアを開けると、職員はどこか諦めたような笑みを浮かべて立っていた。


「あぁ〜また、ですよね?さっきも申し上げましたけど、うちの研究室のPCから犯罪予告が書き込まれたとか、なんとか…。正直、信じられませんよ。PCを触れる人は名前も住所も、もう全てお伝えしたはずですけど…まだ何か?」


 この研究室の職員は、警察手帳をチラリと見せるだけで、自分の知る限りの情報を惜しげもなく提供してきた。


 こうしたタイプは、フカシ係にとって格好の情報源であり、他部署の捜査内容についても、思いがけない形で耳に入る事も珍しくなかった。


「あ〜はい。部署がちゃうもんで、捜査内容も細こう異なるんどす。何遍もすんまへんなぁ。」


 だからこそフカシ係では、知らない事も知っているふりをしつつ会話を巧みに操り、相手が油断した隙に本当に知りたい情報を引き出すのだった


「実は、うちの部署では金須清美さんについて、お聞きしたいんっすよ。」


 その名前を口にした瞬間、職員の表情が僅かに曇った。


「えっ?金須君ですか?彼女が、その…何か事件に?そもそも、何の事件なんですか?」


「すいませんっす。それについては現在捜査中のため、詳しくお答えできないんっすよ。」


 警察は情報を引き出すだけ引き出し、こちら側の情報は『捜査中』の一言で煙に巻く。そんなやりとりも、最早日常の一部であった。


「そうですか…。まぁ〜彼女に限らず、ココのPCは私を含め、誰でも使用可能ですからね。でも学生達は、ココのPC使うより、自分のPCを使う事の方が多いはずなんですけどね…。」


「そうどすか〜。ほんでも、あらゆる可能性を1つ1つ潰して行くんが、ウチ等の仕事なもんで…。」


「大変ですね?警察って…。」


「まぁ〜それが仕事どすから。あ、そない言うたら、金須清美はんって今、休学中やそうどすなぁ。どないしたんどすか?」


 金須清美がPCを使ったかどうかは、フカシ係にとって本質的な問題ではないが、一旦話を合わせつつ、焰間警部補はさりげなく核心へと近づいていく…。


 これらの聞き込みテクニックは、磊田コイシダ嘱託職員から彼女達がマナんだテクニックの1つである。


「さぁ〜私にもさっぱり分からなくてね…。でも彼女、昔は天文学一筋だったんですけど、いつ頃からか占星術の方に興味を持ち始めちゃって…。」


「占星術…?星の動きがとか、位置がとかいう、占いっすか?」


「そうです。本来は天文学と占星術は深い関係があったんですが、今は全くの別物です。金須君は春先から急に休学して、噂では本格的に占いをしているとか…。」


「なるほど、それで現在休学中なんっすね?」


「ええ。多分…。」


「因みに、彼女の連絡先やら、分かりはりますか?」


「分かりますけど、休学以来、電話もメールも反応がなくて、音信不通なんですよね。」


「それじゃ〜どこで占いしてるとか、分かんないっすかね?」


「さあ、そこまでは…。」


「そうっす〜か。それじゃ〜最後に、金須清美さんの住所、ご存知ないっすかね?」


「えぇ〜と確か………。」


 職員が教えてくれた住所を頼りに、金須清美のアパートを訪ねるが、そこに彼女の姿はなかった。


 大家の話によれば、彼女は半年前、まるで何かから逃げる様に突然アパートを引き払ったため、転居先も分からないという。


 そのため金須清美の消息は、謎に包まれたままとなった。


 -----


 帰路の途中で立ち寄った公園、そこでベンチに腰掛ける2人の警部補は、自販機で買った飲み物を手に、束の間の安堵を味わっていた。


 鳥達のさえずり、遠くで遊ぶ子供達の声が、事件の重苦しさを一瞬だけ忘れさせてくれる。


 その最中、不意にスマートフォンが震える。蝶埜巡査部長からのメールであった。


 軽やかな文体とは裏腹に、そこには新たな事件の重い情報が並んでいる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 お疲れ様です

 ゴリ岡氏の態度が怖いくらい急変です

 ありがとうございます( ᴗ̤ .̮ ᴗ̤人)

 お約束の件です


 ◎捜査本部は音和代議士の失踪を、事故や災害ではなく事件と断定しました

 ◎事件当夜の10時頃、2〜3秒の長さの雷のような音を1回、屋敷の家族や使用人など全員が聞いています

 ◎現場に残された右手の持ち主は、現在も鑑定中です

 ◎SNSに擬似弾劾裁判というサイトがあり、そこに殺人予告とも取れる書き込みが有り。その書き込みは事件現場と状況が酷似しています

 ◎そのサイトにアクセスしているPCの1つが、皇大天文学研究室のモノと判明しました

 今年春先までは、そこのPCが使用されていました

 春先以降は、全てネットカフェのPCで、個人に繋がるモノは出ませんでした

 ◎現在、音和邸の破壊には、何らかのカルト教団が関わっている可能性が急浮上です


 以上、報告でした(*≧∀≦)ゞ 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ほぉ〜捜査一課も一応、弾劾裁判サイトには辿りついてんじゃん。優秀優秀〜。それにしてもカルト教団って、発想が飛び過ぎだっつ〜の!」


 氷御角警部補は、肩を竦め微笑んだ。


「そない言うたら清良、今朝使ツコうてたPCて、自分のとちゃうん?あれイケるん?」


 焰間警部補は心配そうに尋ねる。


「うん。大丈夫、No problemノープロブレム無問題モウマンタイ。ドラマとかでよくある、海外のサーバ幾つも経由してる設定だから平気だよ。」


「えっ!ホンマに?そないな事になってはるん?そらもうスパイかハッカーやん。」


「いやいやいや…。哪由香ナユカ、普段のアンタの方が、よっぽど()()()だよ。飛んだり、跳ねたり、よじ登ったりしてるし…。」


 氷御角警部補は冗談めかして笑ったが、直ぐに真剣な表情に戻った。


「そんな事より、この天文学研究室のPCが使われてた期間と、金須清美が休学した期間、如何にもって感じで一致すぎじゃね?」


「ホンマやなぁ。せやけど、偶然にしては、ちょい匂いすぎる気せぇへん?休学の理由やった占星術も、こん新情報のカルト教団の話と、なんや知らんけど繋げて考えてまうわぁ。」


「占星術とカルト教団…?そんなのホントにあんの?」

 氷御角警部補はPCを操作しながら呟いた。  


 ふと、検索結果の中に1つだけ、奇妙な団体名が浮かび上がる。


永代エイダイ真台シンダイ一系清宗イッケイセイシュウ•虹のワダチ会】


「何やコレ?聞いた事ないわ。ほんで一体、何なん…?」


 ホームページには、こう書かれている。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 仏教の真理と大宇宙の法則を融合させた真台宗シンダイシュウ系の新宗教。

 密教的な占星術を活用し、人々の運勢を好転させて幸福を呼び込み、最終的には世界平和と楽園の建設を目指しています。


 総本山 愛媛県松山市高輪山コウリンザン 四無量心寺シムリョウシンジ 王密堂


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「コレ、金須清美が音沙汰ないんは、東京やのうて松山にいてはるからやろか?せやったら、今ある話、皆〜んな上手い事、金須清美が“黒” やゆうて辻褄が合うてまうんよなぁ…。」


「う〜ん…。ソコが、何か引っ掛かっんだよなぁ…。ソレに@QB574は、処刑人の自称木村丸を"彼"と書き込んでたし…。これだけ金須清美に妖疑者ヨウギシャとしてのベクトル向けといて、何でソコだけ嘘つくんだろ…?」


「まぁ〜捜査一課やったら、迷わんと金須清美一択で、松山まで逮捕状オフダ持って行くんやろうけどなぁ…。」


 氷御角警部補は、ぼんやりとPCの画面に映る『QB574』というIDを見つめていた。


 すると脳裏にふと『金須清美』の名前の文字が、自然と頭の中で分解されていった───



 ■カナスキヨミ

 ■カナス

 ■カ=5、ナ=7、ス=4

 ■574=カナス

 ■QB574=QBカナス

 ■Q =清?

 ■B =美≠bi?

 ■B=Beauty =美

 ■清≠Pure≠Clear≠Noble

 ■清=中国最後の王朝=Qing=Q

 ■QB=清美

 ■QB574=キヨミカナス=カナスキヨミ=金須清美


─── 思考の糸が1本に繋がった瞬間だった。


「ねぇ!この@QB574ってID、金須清美という名前を基につくられてる。もしかしたら@QB574は、本当に金須清美本人なのかも。」


 焰間警部補も、思わず目を丸くした。


「ほ〜ほ〜。ホンマやなぁ。そないにも変換だけるなぁ。ほな、もしあのチャットが、金須清美本人やったとしてやで、金須清美は代議士失踪事件の妖疑者ヨウギシャは処刑人やて言うてるから…。処刑人の可能性があんのは、金須清美が知ってる人物?」


「う〜ん。ちょっと漠然とし過ぎだねぇ…。金須清美と共通する何かで…ん?」


「どないしたん?」


「この皇大占星術研究会のサイトなんだけど、ちょっと見てみ。コレって…。」


「あ!」

 2人の間に緊張が走る。

 ・

 ・

 ・

「えっ?そりゃ〜いくら何でも…。いや、あり得るか…。とりま、哪由香の筋読み通りなら、※※※※※が処刑人で妖疑者ヨウギシャって事で、筋は通ってっから、その辺を1回、じっくりとほじくってみますかね。」


「せやね。そないしよ。」

 

 この時、2人の中で音和金継代議士失踪事件の謎と、妖疑者ヨウギシャの目星がついた。


 あとは、その事実を証明するための証拠が必要なだけであった。


 ○☆○☆○☆


 ーー音和金継事務所ーー


 夜の帳が静かに降り、事務所の周囲はまるで時が止まったかの様に、澄み切った重い空気に包まれていた。


 その静寂の中、蛍光灯の残り火が僅かに漂う室内では、普堂フドウ秘書の手元のスマートフォンが青白い光を放ち、彼の顔を仄かに照らしていた。


 その光だけが、外の世界と彼とを細い糸の様に結びつけていたのだった。


「はい、誠に残念ながら、先生の御物であったと…。ええ、それ以外には、未だ一片の手掛かりすら見当たらぬ状況でして…。ですが、私共も先生のご家族も、最後までお帰りをお待ち申し上げております…。いえ、その様なお言葉、私には過ぎたお褒めでございます…。恐縮至極に存じます。与党幹事長の虎銀牙コガネハ先生にそう仰っていただけるとは…。ありがとうございます。それでは、コレにて失礼致します。」


 通話を終えた普堂秘書は、静かにスマートフォンを机の上に置くと、彼の目元には微かな陰りが差していた。


 そこには、いつもの控えめな態度が消え失せ、唇にはどこか冷淡な笑みが浮かんでいた。


 音和代議士の執務椅子に深く身を預けるその姿は、この部屋の主が誰なのかを誇示するかの様だった。


 その時、突如として響く叫び声に、この静けさが切り裂かれた。


「たのも〜うッ!!!」


 事務所の入口から響く高い大声に、普堂秘書の目が鋭く光る。


 即座に机の端末に手を伸ばし、防犯カメラの映像を呼び出すと、モニターに映し出されたのは、見慣れた2つの人影は、焰間•氷御角両警部補であった。


 夜の闇に包まれた事務所に、また新たな波紋が広がろうとしている…。

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