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FILE No.021 暗黒街の錬金術師

 ウゥ〜!!ウゥ〜!!ウゥ〜!!


 けたたましいサイレン音がコダマし、10数台のパトカーが四方八方から赤色灯を点灯させて集まっている。


 ココは日本最大の歓楽街である、東京都新宿区華舞楼カブロ町。


 多くの店舗が立ち並び、深夜になってもネオンが昼間のように明るく灯っているため、行き交う人々と喧騒の波が途切れる事はない。


 そのためこの街は、俗に“眠らない街”とも呼ばれている…。


 そんな華舞楼町の一角に、ごく普通の小さなバーが1軒あるのだが、今夜この店に規制線が張られる事態が発生していた。


 規制線が張られたこの店は、一見どこにでもあるような小洒落たバーなのだが、それはあくまでも表向きの話…。


 実はこの店、裏では違法カジノを営んでいたのである。


 しかし、パトカーが大挙して駆けつけた理由は、この店の摘発のためではなく、その発端は、とある1本の110番通報によるものであった。


--//あ〜もしもし。今、華舞楼町2丁目にある、"ベガス"ってバーで飲んでたんでげすがね。店の奥が急に騒がしくなったと思ったら、銃声の様な乾いた音がしたんでげすよ。そしたらね〜!大勢の人間が、店の奥から出てきたんでげすよ!ありゃ〜絶対、何かあったに違いねぇでげすよ!!//--


  この110番通報を受け、警視庁は華舞楼町交番から2名の警察官を現場へ急行させるが、この時バー•ベガス前は、既に大勢の人々でごった返しており、辺りは騒然となっていた。


 さらに、発砲音がしたという証言も複数寄せられたため、現場の警察官はすぐに応援を要請していた。


 その結果…。


 警視庁捜査一課にも出動要請がかかり、現場に最初に臨場したのは、第五強行犯捜査殺人犯捜査第8係の3人組の刑事であった。


 ーーーーー


「で!何だって!もう一遍言ってみろ!」


「だがら〜!気付いたら、今日の賭場カジノ売上金アガリを全部イカれてたんすよ!刑事さ〜んッ!被害届出しますから、取り戻して下さいよ〜ッ!でねぇ〜と俺等、ヤバいんすよ〜!今日、上納金カスリ収める日なんで、マジでヤバいんす!お願いしますよ〜ッ!!」


 顔に痣や擦り傷を負ったガラの悪い男が、涙ぐみながら懇願している。


「ったく、テメェ〜は馬鹿か!?」


 猪岡イオカ巡査部長は自分の頭を指差すジェスチャーをしつつ、猛烈に呆れた顔をしていた。


「いいか!違法に得た金はなぁ、被害届出したって戻ってきやしねぇ〜よ!!」


「えぇ〜ッ!そんな〜!勘弁して下さいよ〜!」


「勘弁してほしいのはコッチだ!おい、蝶埜チョウノ!この馬鹿、とっとと引っ張ってけ!」


「あ!はい!」


 今日もやっぱり、鬼刑事ぶりを発揮して被疑者を怒鳴り散らす猪岡巡査部長。


 だが、特別に機嫌が悪いわけではない…。


 寧ろコレこそが彼の通常運転であり、決して怒っているわけではないのだ。


「で、鹿住カズミ!一体、何がどうなったって!?」


「あ、はい。え〜っとですねぇ………。」


 ーーーーー


 猪岡•鹿住•蝶埜の3人の巡査部長は偶然、他の事件の聞き込みの最中に現場近くにいたため、最初に臨場することができた。


 3 人はまず、応援が到着するまで混乱する現場の保存を優先し、店の出入り口の封鎖やバーの客からの聴取にあたっていた。


 しかし猪岡巡査部長は、ふとバーの広さを確認した際、ある違和感を覚えた。


 このバーはあまり広くないにも拘らず、中から出てきた人数はどう見ても100人を超えていた。


 店先から客席を目視で確認してみたが、やはり人の数が多すぎると確信した猪岡巡査部長は、直感的に店内に何かあると感じる。


 刑事の勘が働いたのだ。


 そこで単独で店の中に入ろうとしたその時…。


「ちょっと、何やってんすか?ダメですよ先輩!」 


「そうですよ!発砲音がしたっていう証言もあるんです。今はまだ、中に入るのは危険過ぎますよ!猪岡さん!!」


 二人の後輩巡査部長に静止されて憮然とする猪岡巡査部長であったが、二人の言い分はもっともだった。


 それでも猪岡巡査部長は、二人の言葉に全く耳を貸さず、単身店内へ入っていくと、奥で隠し階段を発見したのだ。


「おい!鹿住!蝶埜!ちょっと来てみろ!!」


 猪岡巡査部長は大慌てで中から二人を呼び、店内の隠し階段を見せた。


「コ…コレ…?普段は階段があるって分からない、つくりになってるんすね。」


「下で、何やってたんでしょか?」


 二人は当たり障りのない答えを返すだけだったが、猪岡巡査部長は居ても立ってもいられず、声を荒げた。


「バカヤローッ!そんなモン、隠れてやんなきゃいけねぇ〜事に決まってんだろ〜がッ!!」


 この一喝に二人は目を丸くし、一気に緊張感が押し寄せたが、ある意味ソレを煽った猪岡巡査部長だけが平静さを保っていた。


「俺は今から、下の様子を伺ってくる!お前等二人は、店内にいたヤツ等を全員、連行する手筈を整えとけ!いいな!」


「はい、分かりました。分かりましたけど…。先輩、やっぱ一人じゃ危険過ぎますって!応援待ちましょう。」


「そうですよ猪岡さん。私も鹿住さんの判断が、正しいと思います。」


 二人の言うことが正しいことくらい、猪岡巡査部長にも分かっていた。それでも…。


「お前等、馬鹿か!!俺達が自分達の身の安全を優先させんのは間違いじゃねぇ!だがもし、たった今!この下に、まだ助かるかもしれねぇ〜命があったとしたらどうすんだ!!?」


「そ…それは、まぁ…。」


「でも、身の危険を省みずというのは…。」


 口ごもる二人に、猪岡巡査部長は言った。


「いいか!危険だと分かっていても、行かなきゃならねぇ〜時に行くのが刑事デカってもんだ!!でもソレを覚悟ができねぇ〜からって、俺は軽蔑なんてモンはしねぇ!だから、覚悟を決めたヤツが…!今は俺が、一人で行くしかねぇ〜んだ!!だから、お前等はお前等で、今ココでやれる事だけをやりゃ〜いいんだ!分かったなッ!!」


 格好いいことを言う猪岡巡査部長だったが、隠し階段を降りていくその後ろ姿は、やや腰が引けていた…。


 それでも慎重にゆっくりと、意を決して階段を降りていくと…。

 ・

 ・

 ・

 階段下はやはり人の気配が全くなく、静まり返っていた。


 用心しながら、そっとフロアを覗き込む猪岡巡査部長の目に飛び込んできたのは…。


「!?」


 上のバーを遥かに凌ぐ広い空間に広がる、大規模なカジノ施設だった。


「こ…こりゃ〜!!」 


 猪岡巡査部長は驚きのあまり、思わず言葉を呑んだ。


 最近の違法カジノは、ネット型や小規模なバカラ賭博が主流だ。ココまで広いフロアを使った巨大カジノは、他に類を見ないほど珍しい…。


〈この都会のど真ん中に、こんな大規模なカジノがあるとはなぁ…。しかもご丁寧に、ゲームの種類も豊富なこって!そりゃ〜100人ぐらい、ワケなく集まるわな!だが…。〉


 大規模なカジノを目の当たりにした猪岡巡査部長だったが、ある疑問が浮かんだ。…。


〈コイツは、壁まで全面しっかりと防音が整えられてやがるなぁ…。ならココで銃声が鳴ったとしても…?〉


 この地下フロアで何らかの事件が発生したのは、最早間違いなかった。


 フロアを見回すと、トランプやダイス、壊れたテーブルや椅子などがあちこちに散乱している。


 猪岡巡査部長は慎重に警戒しながらカジノ場の様子をうかがうと…。


 床に倒れている男を3人ほど発見した。


 倒れている男達は全員カジノ関係者らしく、その服装からも容易に想像できた。


 どうやら気を失っているだけのようだが、そのうちの一人の手には拳銃が握られており、この男が発砲した事は明らかだった。


 猪岡巡査部長はそっと男から拳銃を取り上げ、残弾を確認する。


 中に弾は残っておらず、全て撃ち尽くしたあと気絶させられたと推察できた。


 そこで猪岡巡査部長は、躊躇う事なく男の頬を2、3発平手打ちし、文字通り叩き起こした。


「おい!起きろ!おい!おい!おいッ!!」


 猪岡巡査部長の厳つい声と、何度も頬を叩かれた事で、男は意識を取り戻した。


「おい!目が覚めたか?ココで何かあったか言ってみろ?」


「あ…アンタは…?」


「俺か?俺は、こう言うモンだ。」


 猪岡巡査部長が警察手帳を提示すると、男はその途端、一気に現実に引き戻され、狼狽しながらも安堵と疑念が入り混じった複雑な表情で、思わず本音を漏らした。


「ど…どうせ…信じてもらえねぇ〜よ。」


 ーーーーー


「………なんでも、ひとりの客が突然暴れ出しちゃったらしいんすけど…。」


 鹿住巡査部長は、気絶していた3人の話をまとめ、猪岡巡査部長に報告していた。


「まあ、こんな所だからな。負けが込めば、そんなヤツもいるだろう。ソレで?」


「はい。ソレでその男なんですけど、気づいたら猛烈にデカくなってたらしくって…。」


「はぁ?デカくなった?」


「しかも、デカくなっただけじゃなくて、なんか赤い一つ目だったとかで…。」


「一つ目?」


「そうなんですよ。で、そんなモン見たら、そりゃ〜ビビりますよね?」


「………ソレで恐怖の余り、奥の事務所の金庫にしまってあった拳銃取りに行って、発砲したってワケか?」


「まあ、そういうことみたいっすね。でもまぁ〜全弾撃ち尽くして、一つ目の化け物の返り討ちにあって、目が覚めたら()()()()だったみたいなんすけど…。それで慌てて拳銃取りに行った後、奥の事務所の扉は開けっぱなしだったみたいで…。でも金庫の方は、ちゃんと閉めたらしいんすけど…。」


「今は、開けられてんだろ?」


「はい。見事に開けられて、中身はすっからかんですよ。」


「それにしても、そんな一つ目だ何だって話をしてやがると、また()()()()が嗅ぎ付けて来ちまうぞ。だから堂々とそんな話、するんじゃねぇ!!」


 猪岡巡査部長は警戒しつつ、あからさまに嫌悪感を露わにしたが、時既に遅く…。


「あの〜猪岡さん。焰間ホムラマ警部補と氷御角ヒミカド警部補なら、もうココに来ちゃってますけど…。」


「はぁ!!」


 蝶埜巡査部長の指差す方向には、何食わぬ顔で現場検証に混ざっている焰間•氷御角両警部補の姿があった。


「ちょっと!何でココにお二方がいるんですか!?焰間警部補殿に!!氷御角警部補殿っ!!」


 警察官としては二人の大先輩にあたる猪岡巡査部長だが、階級的には一年目の二人組の方が上司にあたるため、静かなる怒りを滲ませつつも、一応敬語で接している。


「そら、決まってるやん。」


「何が決まってんです?」


「邪悪な"魂氣コンキ"の事跡ジセキ辿って来たら、導かれる様にココに来たんどすえ。」


「はぁ?コ…コンキ?それってイイ歳こいて、俺が未だに1人モンだって言いたいんですか?そりゃ〜お2人は、まだお若いですからね!」


「それ婚期。哪由香ナユカが言ってんのは───


--◇魂氣◇ -----------------------------------------------------


 人間や妖幻アヤカシを問わず、その者の気配や内在するエネルギーを指す言葉であり、三界(現実世界•霊的世界•境界世界)を循環する根源的な力。

 普通の人間の目には見えないが、万物を形作る基盤となっている。

 妖幻アヤカシはこの魂氣を察知する事で、相手の強さや居場所を把握したり、魂氣を通じて念話(テレパシー)での会話も行える。

 いわゆる『祓壇フツダン(破妖導師業界)』における専門用語。


-------------------------------------------------------------------


「あ〜ん、なるほど…って、そんなモン分かるかい!!」


「分からんでもええおす。せやけど、これだけは分かっといておくれやす。」


「ん?何がです?焰間警部補殿。」


「このカジノ強盗事件、A事案どすから(嘲)!」


 普通にタメ口を利かれ、苛立ちを募らせる猪岡巡査部長は…。


「ちょ…ちょっと〜ッ(怒)!!」


「何するんどす!セクハラどすえ(怒)!!」


 焰間•氷御角両警部補の襟首を子猫のように掴み、そのまま現場の外へと投げ出した。


「イイですか?お二方。こちとら賭博場開帳図利、銃刀法違反、並びに強盗傷害が絡んだ事件の捜査中なんですよ。ですから“フカシ係”如きが首を突っ込まないでもらえますかね。分かったら、とっとと帰った帰った!しっしっ!」


 猪岡巡査部長は両警部補に嫌味を込め、野良犬でも見るかのような目で追い払った。


「あ、そ〜いう事言うんだ。」


「言いますよ。ソレが何か?」


「それじゃ〜断言すっけど。このA事案ヤマ、アンタ等じゃ〜ゼッテェ〜解決できねぇ〜からな(怒)!」


「あ〜そうですか。そりゃ〜ご忠告どうもでした!」


 氷御角警部補の挑発的な発言にも、この時の猪岡巡査部長には全く通用せず、逆に意地悪そうなしたり顔をする猪岡巡査部長が無性にムカついた。


 そのため、氷御角警部補は眉間にシワを寄せ、思わず舌打ちをしていた。


「あ〜そうだ。おい、蝶埜!()()()、お二方に引き継いでもらえ。とても、お暇そうだからな!」


 そう言って含み笑いを浮かべながら、捜査へと戻っていく猪岡巡査部長。


 二人はその背中に向かって、黙って親指を下に向け、不満と怒りを露わにしていた。


「ゴリ岡のヤローめッ(怒)!!」


「まぁ〜ええけど。どうせ、物証も何も出ぇへんし、ココでする事も、もうあれへんし。」


「だね…。」


 不満を抱きつつも、最早捜査一課では捜査が進展しない事を悟っている両警部補は、怒りの感情も既に解消されていた。


「あの〜………。」


 でも、怒り心頭のはずの2人にそっと声を掛け、顔色を伺う蝶埜巡査部長は…。


「あ、蝶埜ちゃん。」

「何?」


 既にあっけらかんとした二人を見て、あまりの切り替えの早さに、蝶埜巡査部長は感覚的に追いつけずにいた。


 それでも…。


「お二方は、何かご存知なんですか?もし宜しければ私にだけ、ちょこっとでも教えていただけませんか?」


 彼女は彼女なりに、懸命に事件の真相に辿り着こうと、必死で捜査していたのである。


 それを二人も分かっていたため…。


「まぁ〜蝶埜ちゃんにならいっか。今回の強盗傷害を起こしてる犯人グループって、HAIFWITハーフウィット FAMILYファミリー だよ。」


「えっ? 昨今、窃盗や強盗事件を起こしていると噂されているけど、その実在さえも疑われている…あのHAIFWIT FAMILYですか?」


 HAIFWIT FAMILY… この名は正体不明の義賊としてSNS上に流布しており、民衆の支持を得ながらも、あらゆる憶測を生んでいる盗賊団だった。


「せやよ。せやから物証なんて何も残ってへんし、防犯カメラ映像にも、アイツ等だけが写ってへんのとちゃうかな。そないなると、やっぱ今回も手がかりは全くなし…って事になるわなぁ。」


「そ…それじゃ〜お二方は何故、今回の犯行がHAIFWIT FAMILYだと断定できるんですか?」


「あ〜ソレな。ソレやったら、ウチが最初に言うた事、そのまんまやけど。」


「えっ?そのまんま?」


「そうそう。邪悪な魂氣、辿って来たって哪由香言ってたっしょ?」


「あ…。じゃ〜その魂氣っていうのが…?」


「ご明察通り。HAIFWIT FAMILYの盗賊頭リーダー朧沙門オボロシャモンのモンやったってだけの話や。なんせウチ等、ヤツの魂氣だけは絶対間違えへんし…。」


「あ〜…。そ、そうなんですね…。それじゃ…。」


「だから、ボクが察するに強盗傷害事件は未解決。でも、違法カジノの摘発は大成功で、バックにいる組織にも捜査のメスが入って、そっちに資金が流れなかったって事で良しとされて、事件は一件落着になるんじゃねぇ〜の。」


「そ…そうですか…。」


 少し残念そうに、悔しさを滲ませる蝶埜巡査部長であった。


「そないな事より、蝶埜ちゃん。ゴリ岡はんの言うてた()()()って何なん?」


「ていうか、ボク等、今、ある意味、そっちの方が気になってんだよね〜。」


 二人が話題を変えた事で、表情に少し明るさを取り戻した蝶埜巡査部長は、藁にもすがる思いで話し始めた。


「あの〜実はですね───


 -----


 ココは京都府京都市にある国内有数の繁華街四枝瓦シシガワラ町。


 この街に、日本最大規模の指定暴力団•六代目輪王リンノウ組の二次団体•二代目金童キンドウ組の本部があった。


「おう!ナンやて?もう一遍言うてみぃ!!」


 オフィスビルの最上階、眺望のいいガラス張りの一室。そこでは今、立派なオフィスチェアに踏ん反り返った厳つい顔の男が、大きな声を上げていた。


「せやから、オヤッさん。ウチで後楯ケツモチしてる新宿•華舞楼町のカジノが、どっかの半グレどもから、強盗タタキに遭うたみたいで!その所為セイ警察サツ捜査ガサまで入ったらしゅうて…。何や、エライ事になっとるんすわ。」


 その前では、恰幅のいい男が肩をすぼめ、恐縮した様子で立っており、厳つい男の怒鳴り声が容赦なく部屋に響き渡った。


「このアホダラッ!そのカジノ、お前が上手い事やる言うとったヤツやろが!何やっとんじゃい!!」


「す…すんまへん。オヤッさん。俺、今から指詰めまっすさかい、それで勘弁しとぉ〜くれやす!」


 恰幅のいい男は土下座し、意を決したように懐から刃物を取り出した。


「オイオイふ!お前、何やっとんのや!ホンマのアホなんか!?今時、そないな事、ココでやってみい!ワイの身柄ガラ、一発で警察サツに持ってからてまうわ!」


 厳つい男は、やや呆れ気味に土下座する男の指詰めを止めた。


「でも、こんだけのヘタ打ったら…。」


「お前なぁ…。そないな事する暇あんのやったら、警察サツがワイんトコに来んよう、オノレで何とかせんかい!一応お前、ウチん組の()若頭カシラやろが!!しっかりせぇ!!」


「ヘイ。分かりやした。オヤッさんには、一切火の粉が掛らんよう、俺がきっちりケジメつけてきますんで…。」


 恰幅のいい男はそう言うと、刃物を懐にしまい、深々と頭を下げると、厳つい男の視線を背中に感じつつ、重々しい足取りで部屋を出ていった。


 広いオフィスに一人残った厳つい男は、小さく溜息をつくと、上着のポケットからスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始める。


「おう。もしもし影斗エイト、ワイや。」


 彼の名は愛染アイゼン吾朗ゴロウ


 指定暴力団•六代目輪王組若頭にして、二代目金童組組長を務めており、輪王組では第2の実力者と目される金筋の極道であった。


 警察庁の報告書でも、短期間のうちに、金童組を推定4,000名規模にまで拡大した張本人と名指しされていた。しかし…。


「例のカジノやけどな。アカンくなってもうたんや。せや、せや。影斗、お前、どない思う。」


 -----


 その頃、東京都港区タツノ門に所在する超高層ビル•辰ノ門ヒルズモリタワーの最上階オフィスフロアの一室…。


「はい。そうですか。まぁ〜仕方ありませんね。しかし、あれだけの規模のカジノは他に類を見ませんから、摘発されたとあれば、それなりに地位のある人間が責任者でないと、警視庁の方も納得しないでしょうね。」


 輪王組若頭•愛染の電話相手は、この超高層ビルの最上階を全て貸し切っており、愛染よりも高く雄大な眺望を楽しみ、実業家然とした超高額所得者でもあった。


「はい。ええ…。ほ〜う。若頭が自ら…?いやいや、人が悪いですよ組長。若頭が自分で行くよう、仕向けたんでしょ?」


 本来、二代目金童組がココまで急成長した要因は、愛染の手腕ではなく、この人物の存在があったからである。


 この人物は表側の顔で、文化•芸術•スポーツ等の振興並びに慈善事業に勤しんでおり、世間では“若き経済界の名士”と呼ばれている。


 その一方で裏側の顔は、金融•不動産等の経済犯罪で資金を荒稼ぎし、経済インテリジェンス・極道ギャングスター として暗躍している"暗黒街の錬金術師"とも呼ばれている"影にして真の二代目金童組若頭"であった。


「まぁ〜あれだけの規模のカジノですから、もう少し続けたかったですが、仕方ありませんね。ですが私の目論見は、既に達していますから、次の段階へと進みましょう。宜しいですね組長…いえオヤジさん…。」

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