コ・コ・ロ・も……
僕はいつも、彼女を待つ身だ。
僕から行動することは、許されない。
数日会えないだけなら、いい。
数週間会えない時だって、ある。
その間、連絡はない。
その間、僕は孤独と不安と焦燥感に駆られ、悶えている。
日を空けずに彼女の体に触れられることなんて、絶対にない。
それが彼女だと、僕は知っている。
「待たせたかしら。」
訪れるとき、君は決まって笑顔だ。
何も分かっていないわけがない。
馬鹿な男心を掌握した上で、何も知らないそぶりをつくって、僕の元に現れる。
見え透かされている恋慕。
それでも顔に出したくないと思うのは、やはり僕が幼いからなのか。
精一杯のポーカーフェイスで、僕は言う。
「何日ぶりですかね。」
直後に待ち構える甘美な時間に、期待していないよう強がって。
数日ぶりに見る姿は、悶えるほどに美しい。
夏の日差しで焼けたアスファルトのにおいが、充満する。
むせかえる光の中で、成熟した流線型が輝いている。
彼女の持つ艶が、太陽を反射して煌めく。
彼女の肌は、夜空の月だ。
こんなに心が震えるのに、紡ぐ言葉が、二人の間の空気を振動させるに至らない。
官能的なすべてに目を奪われながら、結局何も言えないまま、言葉を待つ。
「今日も、いっぱいにして。」
ああ。
その一言が、僕の心をどれほど満たすか。
同時に、僕の心に、どれほどの渇きを生むか。
そして、君は意地悪く微笑んで、言う。
「他のコにも、しているように。」
そんなことはと言いかけて、飲み込んだ。
飲み込みながら、頷いて、僕は、僕自身を、彼女にあてがった。
ごりん。
ンッ。
嬌声には至らない、かすかな声のような別のもの。
それが僕をいきり立たせる。
僕は僕自身から、彼女の中へと、注ぎ込む。
これは愛情か。
それとも劣情か。
僕には、分からない。
時間が過ぎる。
事が済む。
優しくぬぐって、僕はもたれかかる。
男が支払いを済ませる。
彼女がギャオォォンとエンジンを吹かし、走り去る。
レギュラーガソリンで満タンになって。
若いアルバイトが帽子を脱ぎながら、それを見送った。
「ありがとうございました~!!」
作者の成井です。
今回の短編をお読み頂き、ありがとうございました。
おっさんが主人公の旅物語を書いていて、
ふと違うテイストのものを書きたくなったので、寄り道してしまいました。
「面白い話だった」「他のも読んでみたい」と思って頂けたなら、
下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。
では、また。