第9話
日の落ちた夜道を全力で駆けながら、俺はスマホを耳に当てている。
耳元で何度もコール音が繰り返される。相手は出ない。ただし通話を拒否することもしない。聞こえていて、無視している。
優以、頼む――心の中で懇願し、俺は一旦スマホを切った。
前方を注視し、何度目かに到着した目当ての場所に意識を移す。
近隣で、女子高生が寄り付きそうな場所は既に当たった。コンビニやファミレスといった時間を潰せる施設は空振りだ。
だから少し先まで足を延ばす。ゲーマーが好みそうな場所。ゲームショップやゲームセンターになら、優以の姿だってあるかもしれない。
どうかここにいてくれ――そんな願いも虚しく、俺はまた外れを引いた。
店員を捕まえて直接話を聞いても、特定できないと言われる。
この界隈はウチの高校の生徒たちの溜まり場だ。学校を終えた解放感で制服を着崩されたら、着こなしで見分けることもできない。
――優以、どこにいる?
ゲームショップの店員を、危うく睨みつけるところだった。
焦りが冷静さを失わせ、動きの逐一を荒々しくしている。ダメだ。
平常心とかけ離れた状態を、頭を振ってニュートラルに戻す。
落ち着け。同一視するな。今はあのときと同じ状況じゃない。
俺も、優以だって、あのときとまったく同じなんかじゃない。
薄く眼を閉じ、瞼の裏の暗闇を見つめてから開く。
客観的視点から今の状況を見つめ直す――そうだ。
今の俺はあのときとは違う。高校生で、身体を鍛えて、背丈だって伸びた。だから必ず優以のことを見つけだせる。どんな危険からだって守り通してみせる。
優以も、あのときとは違う。心を閉ざして、周囲にバリアを張って、狭い箱の中に閉じこもっていた少女じゃない。優以は俺の妹で、俺の眼を見て話せる。ちゃんと自分の意思を持って、他者とそれを疎通させることができる。
「……だから、大丈夫。絶対に俺が見つける」
眼を開いて前方を見たとき、脳裏にアイディアが浮かんだ。
優以の居場所は、俺たちにゆかりのある場所なのではないか?
バチバチと眠っていた脳細胞がスパークして、連鎖的に考えが纏まり始める。
二人の共通項。思い出の場所――優以はきっとそこにいる。
その場所できっと俺に……兄に、見つけてもらいたがっている。
「待ってろ、優以っ!!」
ゲームショップを出た俺は、来た道を全力で走り戻った。