オープニング
「私はあなたを知っています。だから、私と取引をしましょう。」
知っている、たったそれだけのこと。
それは何の取引材料にもならないだろう。普通の人には。
目の前にいる、地味で真面目そうに見える青年に、それはまるで当てはまらないように見える。
でも私は、私だけは知っている。これが彼の本当の姿ではないことを。
そして私はこの取引を成立させなければならない。
私の、何にも誰にも決められない、自由な人生のために。
ー5年前
それは、突然のことだった。
隣の男爵領の子女であり、幼なじみでもあるリリアン・ストロベリーフィールドと、王都の祭にお忍びで出かけた時のこと。
「見て!アイ!第一王子様がお通りになられるわ!」
祭の一環で、王族のパレードが行われている中、1番目立つ所に立っているのは、先日大規模な魔物の巣窟を掃討したというこの国の第一王子だ。
その武勲もさることながら、人格者で、この国の未来も安泰だと言われている。
2人で人混みを掻き分けて、ワクワクとドキドキを抱えて第一王子を一目見ようと身を乗り出す。
「アイ、アイ!ほら、あそこ!」
「待ってよリリアン、今行くか...ら...」
凛とした佇まいで臣民に手を振る第一王子。
親友とお忍びで出掛けた祭で、初めて彼女は彼を見てこう言うのだ。
「...素敵ね、アイ。いつか私たちも、あの方のような素敵な方々に会える日が来るかしら。」
そう、"攻略対象"との初めての出会いは、誰もが見る"オープニング"だ。
乙女ゲーム、"黄昏のエフフォーリア"の。
私は、前世でこのゲームを誰よりも攻略し尽くしていた。
裏技を使わなければ攻略不可能と呼ばれたキャラも正攻法で何度も何度もトライアンドエラーを繰り返して、自力でクリアした。
そして待望のファンディスクが出たその日に、未プレイのまま、事故で死んでしまったのだ。
そして、生まれ変わってしまった。
大好きな乙女ゲームの世界の、よりによって、ヒロインの最"凶"の親友、アイ・ランルーシアに。
恋愛ものに挑戦です。