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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第1章― 神の子
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No.08  血液採取の果て

 車に乗せられた後、タオルで口を塞がれ、そのまま俺は睡魔に襲われた。

 強制的の眠りから目覚める時はあまり気持ちが良いものではなかった。

 重い瞼をゆっくりと開けた俺の目に入ったもの。それは――

「……仮面……?」

 ――不気味な笑顔を浮かべる仮面の姿だった。

 暫くして、俺はそれを人が被っていることに気が付く。

「誰だ……? お前……」

 そして、俺の手足が拘束されていることにも同時に気が付いた。

『気付いたか』

 ガスで変えられたような声で仮面を被った奴は告げた。

 俺は手足の拘束を外そうと手足に力を入れるが無駄な努力だった。

『抗っても無駄だ。お前の力では外す事はできない。さて、本題に入ろうか? 大貴(だいき)

 本題? くそ、変な仮面付けやがって!

「この拘束を解け! そして、お前は誰だ! ここはどこだ!」

 狭い個室に机が一つと椅子が二つあるこの部屋。

『最後の質問だけ答えてやろう。ここは警視庁の中の事情聴取室のような部屋だ』

 警視庁……!? ……やはり、俺は警察に捕まったのか……K事件の犯人として?

「俺は無実だ! 嵌められたんだ!」

『誰に?』

 質問で返してきた仮面の奴。

 誰に? そんなこと分かるはずがないじゃないか、とは言えるはずも無く、俺は言葉に詰まる。

『お前を嵌めたのは俺だよ。大貴』

 そいつが驚きの事実を述べたものだから、俺は目を大きく見開かせた。

 こいつが俺を……!?

「なんで……なんで嵌めた!」

『それは――これを手に入れるためだ』

 仮面の奴は自らのポケットから黒く赤い液体の入った試験管を取り出した。

 俺はそれを訝しげな表情で凝視する。

『何だと思う?』

 黒く紅い液体……

 頭に過ぎったのはこの単語だった。

「血……?」

『そう血液だ。これが世界の命運を握る大切な鍵なんだよ』

 大切な鍵だと……?

 俺は仮面の奴の言う事を理解できないでいた。しかし、仮面の奴は俺の立場など気にせずにその血液の入った試験管をゆっくりと右左に振る。

『この血液……お前の血液なんだよ、大貴』

 えっ……? 俺の? なん……で?

 クエスチョンマークが頭の中でいくつも浮かび上がる。

『このお前の血液が世界を滅ぼす鍵となる』

 不気味なガスで変えられた声でそう告げた。

 俺はまだ、仮面の奴の言う事を理解できない。

「俺の血が……世界を滅ぼす……?」


 ◇


「警視庁に正面から行くなんて莫迦(ばか)な作戦は無しだな」

 デスクの椅子に座っている(ゆい)が呟いた。

 それに反応して頷く(しょう)は頭を悩ませている。

 浦議(うらぎ)は唯の方を挙動不審にちらちらと見ていた。

「あ、あのー……あなたの名前はなんて言うのですか?」

 唯に対し、そう質問する浦議。しかし、浦議は目を合わせようとはしない。

「ああ、俺の名前? 唯って言うんだ。よろしくな」

「どうも……お願いします」

 浦議はそれを聞くと、お辞儀をして翔の方へと視線を落とす。

 その瞬間、翔はソファから立ち上がって唯のいるデスクの方へと向かった。引き出しから煙草とライターを取り出して窓を開けると、煙草にライターで火を点けて口に(くわ)えた。

 翔は煙草を吸って一息吐くと、口を開いた。

「唯の言うとおり、警視庁に真正面から行くなんてのは危険だな」

 煙草の煙を事務所内へ入れないようにしている翔。彼の周りの人への気遣いの心が表れていた。

 翔はもう一度、煙草を口に持っていき吸った後にまた、言葉を紡ぐ。

天谷(あまや)の裁判が絶対に行われるはずだ。その時、天谷は警視庁から裁判所に移送されるはず。なら、そのときを狙えばいい」

 翔を感心する二人であったが、唯が咄嗟に疑問を口にした。

「でも、どうやって?」

 方法を問われた翔であったが、翔もそこまでは考えを及ばせていなかったようで言葉を詰まらせた。

 すると、浦議がポツリと呟いた。

「移送する際の警察官に成りすませばいいんじゃないですか?」

 二人は一斉に浦議の顔を見て同時に呟いた。

 その瞬間、浦議は心臓をドキドキさせた。

「それだ」

 否定されるのかと思っていた浦議。しかし、それとは逆に肯定され、浦議はなんだか変な気分に襲われた。

「お前、伊達に眼鏡はかけてないな」

 唯のその呟きに対して苦笑いをみせる浦議だった。


 ◇


 2011年7月22日


 大貴が警視庁から最高裁判所へと移送される日。

 勿論、ニュースや新聞、等では話題になっており、警視庁前、最高裁判所前にはマスコミが殺到していた。

 そして、警視庁内では大貴が最高裁判所へと移送する為の車へと向かう途中だった。車に乗る直前、大貴は自らの足を止めた。

 これに乗ったらもう――お終いだ。

 大貴の頭に過ぎったその言葉。

「ほらっ! さっさと乗れ!」

 後ろの警察官に押され、大貴は無理やり車の中へと押し込まれる。

 顔を隠す為のタオルを掛けられ、その刹那――――車が動き出した。

「危ないですよー! 避けてください!」

 窓越しで警察官のその声を聞いた大貴。その瞬間、大量のフラッシュが大貴を襲った。

 大貴はそれに怯えるようにタオルで顔を覆い隠す。

 車の行く手を阻害するマスコミ陣。車はゆっくりとしか前へは進めない状態だった。

 数分後、マスコミの波からやっと抜けて車はスムーズに進むようになる。

 それを嬉しく思っていないのは大貴だけだった。

 裁判所へと向かう車。いや、誰もが裁判所へと向かっていると思っていた車。

 その瞬間、運転席にあるトランシーバーに通信が入った。

『おい! 裁判所へ向かう道から逸れてるぞ! ナビを確認して元の道に戻れ!』

「了解」

 返答をする運転手。しかし、運転手は一向にその目でカーナビを確認しようとはしなかった。そして、大貴の左横の人物に向けて言葉を告げる。

(ゆい)! どっかにGPSチップが埋め込まれてる。車内を調べろ」

「偉そうに命令すんなよな。それにGPSチップなんてのはもっと奥の細部の方に埋め込まれてるだろ、普通!」

 そう。運転手の男と大貴の隣にいる女は正しく(しょう)と唯であった。

『おい! ちゃんと聞いてるのか! さっきよりも更に道から逸れてる!』

 また、トランシーバーから通信が入ったが翔は無視を決め込む。

「GPS……この車は乗り換えた方がいいな。まあ、最初からそのつもりだったけど」

「ああ」

 翔の発言に頷く唯。

 この状況を把握できていないのは大貴だけだった。

 大貴はまだ一言も口にしていない唯ではない方の隣の男――右横の人物へと目を向けた。

 この顔……どこかで……?

 そう思った大貴だったが、その予想はちゃんと当たっていた。

「すぐに気付いてくれると思っていたんですが……予想は外れましたね。少し残念です」

 敬語で話すその声は正しく――

「――浦……議……?」

 疑問形でその名を呼んだ大貴。

「疑問形……ですか……」

 大貴の右隣の男は自らの顔にかけたサングラスを外した。そう、右隣の男は――浦議だった。

「浦議!? でも……なんで?」

「説明はあとでゆっくりします」

 と浦議が口にしたその瞬間だった。

 パトカーのサイレンが遠くの方から段々と此方へと近づいてくる。

「流石に手が早いな……カーチェイスなんてご免だ」

 舌打ちをしながらも翔はハンドルを左へと切ってパトカーを撒こうとする。

 だが、相手は警察。そう簡単にはいかない。

 浦議に釘を打たれた大貴は何も追求することなく、車の座席に腰を下ろしていた。

 段々と車の揺れが激しくなっていく。

「おい! もっと穏便に運転しろよ。このままじゃ……――酔う」

 唯がそんな文句を翔に垂れた所で穏便になるはずも無かった。

莫迦(ばか)! 警察に捕まるよりは吐かれる方がマシだ!」

 苦しい表情を浮かべながら運転する翔の目には焦りの色が出てき始めていた。

「くそ! いくらやっても撒けやしない!」

 また、急にハンドルを切る翔。

 後ろの席の三人はもう限界がきていた。

「「「気持ち悪い」」」

 三人の声が同時にその言葉を告げる。

「荒い運転で悪かったな!」

 額に汗を掻きながら、必死に運転する翔。

 パトカーのサイレンが翔の集中力を削っていく。

 どうすれば……どうすればいいんだ!

 一向に車を撒くことができない状況下で翔は自らの頭をフル回転させていた。

 そのとき、後ろの座席にいた唯は後ろのパトカーを窺った。

「あ……」

 そんな声を上げた唯。

 その目が捉えたものは紛れも無く、銃だった。その銃は大貴らが乗っている車へと向けられている。

「……発砲許可まで出したのか!」

 翔はさっきよりも一層苦しい表情をその顔に浮かべて荒い運転を繰り返す。

 タイヤを撃たれたら終いだぞ……

 焦る翔だったが、その焦りは無用であった。

「ちょっと……待てよ?」

 これは連続殺人犯を運ぶ車だ。あんな銃でタイヤはパンクするか?

 翔は運転しながらも暫しの間、考え、結論を出した。

 いや、しない。その可能性が高い。

 そう考えた翔はさっきよりも焦りはなくなっていた。しかし、焦らなくていい理由はもう一つあった。

「……? パトカーが退いてくぞ?」

 後ろを窺っていた唯が呟く。

 翔もサイドミラーでそれを確認した。

 車内の四人が疑問に思う。

 何故?

 さっきよりも少しスピードを落として車の通りの少ない道へと翔は車を動かした。

 天谷(あまや)を逃がして、何かメリットでもあるのか? いや、必要だから逃がしたのか?

 翔の脳裏に思い浮かんだのは仮面の男――Persona(ペルソナ)の姿であった。

 一体、奴は何を企んでいるんだ? 人形を創って、天谷を嵌めて、捕まえて。

 車の通りの少ない道で車を止める翔。

 そのまま車を乗り捨てて四人は路地裏へと入っていった。

 そこで初めて大貴は翔のことを思い出した。

 銃を渡してくれた人……でも――

「……なんで、俺を助けたんですか……」

 大貴は足を止めて翔に質問をした。

 その瞬間、大貴と同様に三人も足を止める。

浦議(うらぎ)に頼まれたからだ」

 大貴は自らの隣にいた浦議の方へと目を向けた。

 先の質問が俺に向けられたと、浦議は察して答えた。

「当たり前でしょう? 友達ですから。それに、大貴は犯人じゃない」

 それを聞いて大貴は顔を俯かせた。

 その様子を三人とも訝しげな表情で見つめる。

「……駄目……なんだ……」

 かすれた声でそう告げた。

「俺は……俺は救われて良い人間じゃない……」

 その言葉を耳にした三人は目を見開かせた。

 三人は大貴の様子が明らかにおかしいのを感じ取っていた。

「何言ってるんですか? もしかして……K事件――」

「違う! それは俺じゃない!」

 大貴を疑った自分を恥じる浦議はそれ以降、話しずらくなった。

「違うんだ……」

「何があったかは知らないが、今は喜べ。お前は裁かれずに済んだんだ」

 大貴はその言葉を聞いた瞬間に苦笑した。

「何がおかしい?」

 翔の問いを聞いてますます苦笑する大貴は急に白けた。

「……俺の血液は――“世界の人々を死に追いやる”んですよ……俺がいなければ、あの仮面の奴に渡らずに済んだんだ」

 翔と唯は仮面の奴と言う単語に反応を見せた。

 翔は大きく目を見開かせて呟いた。

「仮面の奴……Persona(ペルソナ)だと!?」

 暫しの間、思案した翔は唐突に口を開く。

「……話の続きは事務所に戻ってからだ」

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