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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―最終章― 楽園
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No.01  DOLL

 日本 記者会見現場


 お前をその地位から落としてやったぞ……! 総理大臣!!

 記者会見を大口開けて唖然とした表情している人々。その殆どの人の行動と思考が停止している中、Persona(ペルソナ)だけが総理大臣の存在を嘲笑い、陥れた事に喜びを抱いていた。

 次の瞬間、マスコミの質問がPersona(ペルソナ)に押し寄せた。

「あの映像は本物なのでしょうか? CGでは無いのですか?」

「それは本当に天谷大貴の血液なんでしょうか?」

「何故、そのことを今まで黙っていたのですか?」

 眼下で喚く虫どもを見るような眼差しをマスコミたちに向けるPersona(ペルソナ)は、

『真相は総理に聞いてください。私から口にできる内容はここまでです』

 と言って、記者会見の現場から去っていく。しかし、そこから去った理由はマスコミが五月蝿いと思っただけでなく、これ以上、笑いを堪える事ができないと判断したのだった。

 ……これで残るは楽園(エデン)の鍵のみ。待ってろよ、イヴ……今度、堕ちるのはお前の方だ!


 ◇


 八草病院


 その五階に中森(なかもり)(ゆい)の病室は存在し、そのベッドの横に椅子を置いて翔は細長い袋を手にし、もう一方の手に携帯電話を持ってそこにいた。

 奪わせやしない……たとえ、この命を全部削る事になっても……

 Persona(ペルソナ)の記者会見を見ながら翔は自ら横で寝ている唯の方へと目を移した。

 すると、その瞬間に病室の扉は唐突に開かれて、一人の人物が姿を現した。

 だが、翔はその人物の訪問を驚きもせず、目を向けることさえしない。

「生きて帰って来れてよかったねぇ。どうだい? 彼女が消されるかもしれない今の状況はぁ?」

「良くない状況って言えばいいのか?」

 質問に質問で返した翔は尚も、相手を見ることは無い。だがしかし、その眼では“視えている”。

 相手を不快にするような笑みを浮かべる相手は棒付きの飴玉を銜えながら、言葉を紡ぐ。

「機嫌悪いねぇ。まぁ、僕はその原因を知ってるんだけどぉ」

 翔の視界に無理やり入ってきた男はにやりと口を歪める。

「『彼女が消える事、知ってたのか』って事でしょう? そうだよぉ。僕は彼女が消える事を知ってたぁ。そして、僕は――――彼女に消えて貰いたいと思ってるんだぁ」

 瞬間、男の視界は反転し、天井を見る事となった。

 その後、男の首に刀の刃が突きつけられる。

「……冗談だよぉ」

「冗談には聞こえなかったけどな」

 男は「ジャリジャリ」と棒付きの飴玉を砕いていく。

「そうでなくても、本心ではないんだよぉ――――?」

 そして、残った飴玉の棒を天井を隠す翔の顔に向けて口から飛ばす。

 その後、斬れる事に臆することなく翔の刀を握り、人間ではあり得ないような力で翔の体ごと上に持ち上げた。

 翔の体は地面に叩きつけられ、さっきとは逆の、男が翔の上に乗って翔の首に刀を突きつけている形になった。

「そう言えば、君には言ってなかったかなぁ? 僕の体は――」


 ◇


 2011年12月6日


 痛い……この痛みは何度目の事なのだろう……? 俺は何度、銃に撃たれたんだろうか……?

 刑務所のような牢獄の中で、大貴は一人、そう疑問を浮上させた。

 ゆっくりと眼を開けて、一つの蛍光灯のみで薄暗い部屋の光景を見る。

 ――死が襲ってきたような気がした。

 それは気のせいで、ちゃんと生きている。だがしかし、大貴は一瞬、思ったことを口にした。

「どうせなら、死んでしまえばよかったんだ」

 自嘲的な笑みを浮かべながら、

「俺は生きてても、ただのウイルスを製造する道具なだけなんだから……」

 目に涙を浮かべてみせた。

 本心で言っている筈の事なのに、何故、涙が出るのかと考えた時、答えはすぐに出たが同時にすぐに消し去った。

 自己中心的な考え方の自分を消し去りたかった。

 だが、それは消えない。

『やあ、大貴。元気そうだな』

 頑丈な柵を境にして、仮面の男がいつの間にか自分の目の前に存在していたが、驚く事は無い。そして、怒りを覚える事も無い。

 ところが、大貴は次のPersona(ペルソナ)の発言を聞いて自らの目を大きく見開かせる事となった。


『心臓を撃たれた気分はどうだ?』


 大貴の中で何かが壊れるような音がした。

 歪な音を立て、ぐちゃぐちゃに跡形もなく――

 不完全なパズルをひっくり返して、パズルのピースをバラバラに――

 一つの亀裂が全てを壊す結果に――

「……嘘だろ?」

『嘘を言ってどうする?』

 淡々と答える目の前の存在。

「じゃあなんで――」

『「――生きているのか」だと? そんなの決まってるじゃないか』

 言葉を遮って、紡ぐつもりだった言葉を知っていたかのように告げる。

 自分の中で、感情が鬩ぎ合う。

 聞きたくない。真実を知って楽になりたい。

 死にたくない。死にたい。

「言うな……」

『どうせ、知る事になる事実だろ? それにもう答えは分かってるんじゃないか?』

「……言うな」

 耳を塞いでも、心の中では叫ぶ。

 叫ばれるのは矛盾点。

 “お前は死なない。たとえ、お前の周りでどんな犠牲が出たとしても、お前だけは生き残るんだよ”

 拘束しなかった理由。

 “知りたいのか? 現実を……残酷な真実を”

 残酷なのは世界で、壊れてるのも世界と思っていたかった。


『お前は――』


 告げられる単語に顔を覆い、叫び声を上げる。

 否。世界が壊れているんじゃない。


 そうだ。いつだって壊れていたのは世界じゃなく、俺だったじゃないか――。


 叫び声は続く。そして、それは急に停止し、笑い声に変わった。

 嘲笑、自嘲的な笑いと呼ぶべき単語が繰り返される中、さっきまで目の前にいた仮面の男がいなくなっている事に気が付く。

 すると、笑うのを止めて一気に眼に熱いものが溢れ出た。

「なんだよ……俺の存在自体が――――



                                        ――――DOLL(人形)なのかよ……」




 絶望は疾うの昔に味わったと思っていた。だが、まだ絶望は存在していた。

 知らなかった真実。知りたくなかった真実。

 これを知って良かったと思う日など、来るはずがない。

 だが、この真実は利用できると思った。


 ◇


 2011年12月12日


 その夜。

 冬の寒さが一層厳しくなってきた十二月の中旬。

 もう雪が降ってもおかしくないような外気温は病院の外にいる人物の息を白くするには十分であった。

 黒いコートをその身に纏った男は右手に細長い袋を持ち、自らの眼を光らせている。

 それは千里眼を発動させて命を削っている証であるが、男はそんな事を気にしているようには見えない。

 命を削ることさえ厭わない。

 それは強がりでもあって――――。

 彼の目の前に一人の歪な存在はまともに現れる。それはまともに現れるとは思っていなかったのだが。

 白い息を吐きながら、細長い袋から一本の鞘に収まった刀を取り出す。

 そして、鞘からそのしなやかな曲線を描く刀身を露にし、目の前の存在を()める。

 三日月を連想させる大きな刃物を持ったそれ。

 決して人間ではなく、日本一の殺し屋を殺した殺戮機械。

「来いよ……――――バラしてやる」

 その挑発の言葉を聞いた瞬間に歪なそれは動き出す。

 目では捉える事など不可能にみえたその動きは、男の目にははっきりと視えていた。

 そして、男が刀を振るった次の瞬間に光景は血で染まる。

 倒れこんだ歪なそれを見下ろしながら、すぐに目線を隠れているもう一人の存在に向ける。

 すると、観念したのかその存在は姿を現し、どんな表情をしているのか分からない存在は機械で作られたような声で告げる。

『千里眼は面白味が無いな。隠れていてもすぐに見つかる』

 仮面を顔に付けたその男は悠然と近寄ってくる。

 それに対して刀を向けようとした時、後ろから前にかけて何かが突きつけられる。

 その何かは大きな刀身の鎌だった。

『今吐けばいい台詞は「動けば殺す」と言ったところかな』

 仮面の男は歩みを進めるのを止めた。何故なら、その先にいる鎌を突きつけられている男が嗤っていたから。

「……こんなので足りると思ってるのか?」

 その挑発に応じる事無く、仮面の男には何かしらの余裕がある様子だった。

『ああ。足りるさ。十分すぎると言ってもいいくらいじゃないか』

 自らの両手を大きく広げると、不気味な笑みを浮かべるその仮面が、より一層その口を歪めたような気がする。

『中森唯を此方に渡して貰うぞ。……いや、渡さざるを得ないと言ったほうが妥当か?』


 ◇


 2011年11月27日


 馬乗りになったその男の力は人間の度を越している。

 そして、男は千里眼を使用し続けているのにも拘らず、苦しい素振りを見せたことは無い。

 腑に落ちない事は存在していたのだ。

 自分の首に刃を突きつける男の表情は笑みを浮かべており、その口からは飴の仄かな甘い香りが吐き出される。

「そう言えば、君には言ってなかったかなぁ? 僕の体は――――人形とおんなじなんだよぉ」

 男は情報屋。つまりは――。

「情報と引き換えに……Persona(ペルソナ)に体を……?」

「そうだねぇ……まあそんな話をしにきたわけじゃないんだよぉ」

 男は翔の上から立ち上がって、刀は自らの肩の上に乗せた。

 自分の上に乗っていた邪魔者がいなくなった事で、立ち上がる翔は男の話の続きに耳を傾ける。

「さっきのは本当に本心じゃないからねぇ? だって、Persona(ペルソナ)は彼女を手に入れるためなら、人類を殺しても良いって思ってる男だぁ。そんな男の野望をさぁ、止める事ができたら、その顔は絶望に満ちて、とっても愉快になってると思うんだよぉ。だから、君に手伝って欲しい」

 刀の切っ先を翔に向けてにやりとその口を歪める男。

「やる事は簡単だぁ。ただ、病院に来るPersona(ペルソナ)に彼女を奪わせなければ良いだけ。けど、絶対に奪われちゃあ駄目だよぉ? たとえ、飛行機を使って世界中にウイルスをばら撒くって言われてもねぇ……」


 ◇


 2011年12月12日


『今、空港にDeicida(ディーシダ)感染した人形を紛れ込ませている。つまり、これが万が一、飛行機に乗ったりでもしたら、世界中にウイルスをばら撒く事が可能なわけだ』

 仮面の内でにやりと口を歪める。

『お前ら人間はお前ら人間の創り出した科学力によって、滅びる』

 翔は仮面の男のその言葉を聞いて、先日、情報屋の言っていた言葉を思い出す。

 “これまでのは全て布石だよぉ。人形作りも、Deicida(ディーシダ)感染した人形を人間の中に紛れ込ませる為も含んでいたってわけだねぇ。けど、僕の眼と君の眼ならその人形を見極める事が可能だぁ。

  だから、僕が――――”

『どちらを選ぶ? 一人の少女と全世界の命』

 総理大臣にも同じような質問を投げかけたような事があったが、その時は世界ではなく、日本のみに限られていた。

 決断は一人の殺し屋を辞めた男に託される。


「俺が選ぶのは――――唯だ」


 その瞬間、翔の首に突きつけられていた巨大な鎌の刀身の半分が宙を舞う。

 そして、それが地面に落ちるのと同時に首斬りと呼ばれる殺人鬼の首がPersona(ペルソナ)の方へと飛んだ。

『それがお前の答えか――』

 足元に転がる生首を見て、残念そうに呟くPersona(ペルソナ)だったが、翔の耳には勿論、機械で作られた感情の篭っていない声にしか聞こえなかった。

 そして、自らのポケットから携帯電話を取り出して、あるボタンを押した。

『これで、ジ・エンドだ』

 そう言い放った彼の言葉に、翔はにやりと笑みを浮かべた。


 ◇


 羽田空港


 そこでは沢山の人々が飛行機に乗って、海外へと行こうと集まっている。

 だが、その中には何人かは定かでは無いが殺人ウイルスに感染した人形たちが紛れ込んでいた。

 そんな人間か人形だか判別のつかない人々を見ながら、男は棒付きの飴を舐めながら、眼を光らせる。

 ひぃふぅみぃ……これは百匹ぐらいいるんじゃないかい? ホント、僕を過労死させるつもりなのかねぇ……リミットはあと二時間と言ったところだろうねぇ。

 人形の中のDeicida(ディーシダ)が内臓を蝕み始めるまでの時間を彼はリミットと表現した。

 彼の言うとおり、内臓を破壊されて、吐き出された血は空気中にDeicida(ディーシダ)を散布させる。

 そして、にやりと笑みを浮かべる。

「さて、愉しいショーの始まりですよ?」

 彼は何も手に持つ事無く、千里眼によって視認した人形の傍へと近づいていく。

 だが、その瞬間、人形は近づいてくる男の方へと振り返り、それと同時に百もの人形が一斉に一人情報屋の方へと目を向けた。

「……やる気満々のようですねぇ」

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