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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第1章― 神の子
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No.06  K事件の容疑者――天谷大貴

「お前らが生きてるのは光の当たる場所。光のある場所には必ず陰が存在する。その陰が俺たち――“殺し屋”だ」

 ころし……や……?

「人を殺して……お金を貰ってるのか……?」

「ああ」

 人を殺して……金を稼ぐ……?

「そんな……そんな理不尽な世の中があるかよっ!! その人にだって家族がいるんだ! つながりがあるんだ! 悲しむ人がたくさんいるんだ!」

 蔵貴さんも……こいつらに殺されたかもしれないのか……?

「警察に……警察に言ってやる……」

「言ったところで意味は無い。こいつらの死因は全て、“証拠隠滅屋”に任せるからな。それに、殺し屋なんて存在を誰も信じるわけが無いだろ?」

 その男の言うとおりだった。

 くそ……

 そう思った瞬間、俺の目に“それ”は現れた。

「なん……で……?」

 殺し屋と名乗った男のナイフによってダッフルコートの生物は殺された。しかし、ダッフルコートを纏った生物はぞろぞろと十体ほど現れた。

 何人も……いたのか?

 そう思った俺に男は説明してくれた。

「そうか。お前はこいつらに襲われて、入院したんだったな。こいつの正体、知りたいか?」

 その十体の生物が一歩、一歩、此方へと近づいてきているのにも拘らず、男はそれらに背を向け、俺と向き合っている。しかし、俺にはもはや、その正体を知りたいという気持ちの方が大いに勝っていた。

 ゆっくりと首を縦に振る。

 そして、男は俺にその正体を言った。

「あれは人間じゃない――人形(ドール)だ」

 瞬間、十体のフードを被った生物が一斉に男へと飛びかかった。しかし、その人形と呼ばれた生物たちは刀の持った女の一太刀によって一様に後方へと退けられた。

 男は尚も、俺の方を見ながら、言う。

「そして、この人形こそが――K事件の犯人だ」

「――!?」

 俺と浦議は同様に目を丸くした。

 連続殺人事件――K事件の犯人が得体の知れない人形? それに、目の前にいるのは殺し屋……

 頭の容量がもはや、限界に達しようとしていた。そして、俺は現実というものが分からなくなってくる。

 俺が生活している日常。それと相対して存在する非日常。光と影。陰と陽。

 俺は今、そんな陰に足を踏み入れてしまったのかもしれないと、そう思った。

「おい。話すのはそれくらいにしとけよ。そいつらをこっち側に連れ込んじゃかわいそうだ」

 女のその発言によって、男は俺と浦議を縛っていた縄を手に持ったナイフで切ってくれた。そして、そのまま俺と浦議に背を向けて、立ち上がろうとしている人形達に向かって地面を蹴り上げた。

「…………」

 沈黙するしかなかった。

 周りには血と死体。何度も汚物を口から吐き出し、自分の情けなさに、無知さに涙が出てきた。

 十七年生きてきた……なのに俺は何も知らなかった……

「早く、出ましょう……」


 ◇


「おい! どこ行ってたんだよ! 小便行って戻ってきたら、いないしさぁ!」

 倉庫街へと続く森の道に出た俺と浦議に走って近づいてきたのは甚だった。しかし、俺と浦議はそんな甚のテンションにはついていけるはずがない。

「どうした? 何かあったのか? 倉庫のとこ行ってたのか?」

 と俺と浦議が背中を向けている倉庫街のほうを見る甚。

 俺はその肩をポンと叩いて呟いた。

「やめとけ……帰るぞ……」

「えっ? 何? 何があったんだよ! おーい! 先に行くなって! 待ってくれよぉ~!」


 ◇


 疑問はいくつもあった。

 俺と浦議に殺し屋という事を言っておいて、何故、殺さなかったのか。

 人を殺した現場を目撃されたのにも拘らず、態々、自分から殺し屋と名乗ってきた。

 それに俺を襲ってきたダッフルコートの……――人形……それがK事件の犯人……?

 家に帰ってベッドに横になっていた俺は考えれば考えるほど分からなくなっていた。

 陰……そんなものが本当に存在するのか? 目の前で人が殺された光景は夢だったんじゃ……

 瞬間、脳裏に俺の周りに広がる血と屍が過ぎり、吐き気を湧き上がらせた。

 あんな鮮明(リアル)なものが……夢だったって言うのか?

「クソ野郎……」

 俺はベッドから起き上がって、思い切りベッドを殴りつけた。

 もう……考えるのは止めよう……俺は――日の当たる世界の人間だ。


 ◇


 (しょう)(ゆい)の二人は人形を全て破壊した。そして、翔は持っていたハンカチで血の付いたナイフと手を拭いて、ポケットから携帯電話を取り出す。

「もしもし。依頼を請けた殺し屋です。その暴力団の男を捕まえましたので、引き取り来てくださいませんか? ……はい……はい。場所はですね――」

 と電話をし始めた翔。その隣で唯は自らの刀の血を払い、刀身を鞘に収めた。そして、ピッという音と共に携帯電話を閉じた。

 その様子を隣で見ていた唯はムスッとした表情を見せてみせる。

「……? 何か気に食わないのか?」

「……いや……お前は口が軽すぎるって思っただけだ」

 翔が唯の方を見た瞬間に唯は翔に背を向けた。

「俺はただ、事実を言っただけだ。高校生がどうこうできるほど、世の中は甘いもんじゃない」

「フッ……高校生の歳で殺しやってた奴が言う台詞かよ」

 皮肉だ、と笑みを浮かべる唯。

 その様子を見て、少し、翔はさっきの自分の行動を思い返してみた。

 殺し屋と名乗り、人形と教え、それがK事件の犯人だ、と言い放つ……唯の言うとおり、ちと話しすぎたか……

 自分の失敗に溜息を吐く翔は倉庫の外に出た。

 彼は殺し屋。血のにおいは嫌というほど嗅いできた。

 その中の空気が嫌だったわけではない。ただ、翔は自分が裏の世界にいる事が少し、哀しく感じた。

 ホントに……こんな世界に足を踏み入れなければ良かったよ……犬塚(いぬづか)さん……

 翔は恩人の顔を思い浮かべながら空を仰いだ。その空は少し、夕日がかっていた。

「血の赤……みたいだな」


 ◇


 2011年7月17日


 日曜日だ。学校は休み。明日も祝日で休みだ。

 だが、やる事が見当たらない。

 そんな俺はふと、携帯電話を手にとって浦議に電話をかけた。

『もしもし』

「ああ。俺だ、浦議。あの倉庫街の場所……覚えてる?」

『……はい。覚えてますけど?』

 少し、返事を躊躇った浦議。やはり、もう行きたくはないかな。

「……一緒に行かないか?」

 浦議は暫くの間、思案しているような沈黙を続けた。

『……いい……ですよ。じゃあ――』

 と待ち合わせ場所を説明する浦議の話を聞きながら、俺は財布やらポケットに入れた。

「十二時な。OK。じゃあ後でなー」

 と、ボタンを押して通話を切った。そして俺は、息をゆっくりと吐いて、ゆっくりと吸う。

 あの光景がまた、広がっているかもしれないと思うと、手が震えた。

 いや、そんなはず無い……警察なんかが来てるはずだ……


 ◆


「よぉ! 早かったな」

「ほんの五分ほど前に着いただけですよ」

 そう言って、待ち合わせ場所で待っていた浦議。その顔は少し青かった。

「大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です。行きましょう」

 歩き出した浦議についていきながら、俺の心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そして、その倉庫街へと繋がる森へと着いた。

「本当なのかな。あいつの言ってたK事件の犯人って……」

「……分かりません。その証拠も無いですしね」

 そんな会話をしながら、森の道を辿っていき、倉庫街へと着いた。しかし、一つ疑問に思う。

 警察が……閉鎖していない!?

 俺はそれに気付いた瞬間、無意識に足を動かしていた。そして、倉庫の中へと足を踏み入れた時、愕然とした。

 ……死体と血が――ない!?

 昨日はいやと言うほどしていた鉄の血のにおいも全くしない。綺麗さっぱりと消え失せ、そこは普通の倉庫と化していた。

「こ……これは、どういうことなんでしょう……?」

 俺の横で浦議も唖然としていた。

 確かにここには多くの死体と血痕があった。あれは本当に夢だったって言うのか? だが、浦議も見てるんだ! 夢落ちなんかじゃない。

 瞬間、俺はあの殺し屋の男が言っていた言葉を思い出した。

『こいつらの死因は全て、“証拠隠滅屋”に任せるからな』

 ……全ての死体を……処理したのか……?

 俺の目の前がぐらりと歪んだ。その拍子に俺は地面に膝を着いた。

「大貴! 大丈夫ですか!?」

「ああ……」

 俺は頭を抱えながら、そう応えた。

 ふざけてる……こんな世の中、あっていいはずがないじゃないか! 人を殺したのに捕まらないなんて……世の中は――――腐ってる。

 絶望が襲う。

 これを知ってしまった以上は何もしないわけには…………だが、俺には何もできない……

「帰ろう……」

 顔を上げて、浦議に言った。


 ◇


 2011年7月19日


 昨日はいつもどおり、家で色々な事をして過ごした。

 そして、今日もいつもどおり登校し、いつもどおり甚や浦議と朝のホームルームが始まるまで話していた。しかし、いつもとは違う事があった。

「えー。担任の石丸先生は先の暴力団の抗争に巻き込まれて、お亡くなりになられました。葬儀は出席していただきます。それでは――……」

 副担任の中村は淡々と話題を繋げていった。

 俺はその最中、顔を俯かせる事しかできなかった。


 ◆


 人はこんなにも簡単に死ぬものなんだと知った。

 蔵貴さんと石丸。

 悲しくは無い。そこまで親しい関係でもなかったからだ。だが、なんだかおかしい。

 俺の世界の歯車が狂った感覚がする。

 そんな事を思いながら、俺は一人で、帰路についていた。

 空は夕日に染まりつつある。

 (ひぐらし)なんかが鳴いていたら、「ああ。もう夏も終わりかぁ……」と感じるだろうが、生憎、今は夏の初めだ。鳴いているはずがない。

 そんな中、俺にはトラウマな光景が目の前に映った。

 男が人形と呼んだ生物に殴り飛ばされた横断歩道。

 その信号は赤。しかし、すぐに青へと変わった。

 俺は少し、躊躇いながらも、横断歩道を渡った。これを何回繰り返せば、恐怖心を消せるのだろう。答えは分からない。だが、いつかは必ず。

 希望を抱いて、空を仰ぎながら、家の前に着いた瞬間、俺は目の前のそれに気付いた。

「な、なんで……?」

 そこには誰が見ても一目で分かる車と、スーツ姿の男性が数人立っていた。その車はパトカー。そして、数人の男性は――

「警察です」

 ――そう言って、警察手帳を見せつけた。

「ど、どうか……されたんですか?」

 俺がそう尋ねた瞬間に警察の人達は一様に俺を睨みつけた。

 警察……俺に何のようだ? 銃のことか? 銃のことがバレたのか? それとも、あの倉庫街の出来事か?

 俺は心臓をバクバクさせながら、尋ねた事を応えてくれるのを待つ。

 瞬間、数人の男性の警察官の中の一人が叫んだ。

「何を(とぼ)けてるんだ! お前だって言う証拠は確実にあるんだぞ!」

 圧倒された俺は足を一歩、後方へと退ける。

 すかさず、周りの数人の男性が興奮している男を(なだ)めた。そして、その警察手帳を突き出したままの真ん中の男が衝撃な事を俺に向かって口にした。



天谷(あまや)大貴(だいき)……お前を――――K事件の容疑者として逮捕する」

















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