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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
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No.34  人間の基準

 うるさくバイブ音を鳴らす携帯電話を手に取った俺はその内容を見て、怒りが湧いてきた。

「三日後……」

 その内容はこんなものだった。



 今から三日後の十一月二十四日。午後二十三時。

 東京都の三頭山の頂に集合しろ。



 三頭山……これは俺たちに対する挑発ととってもいいのか……?

 Persona(ペルソナ)からの短いメールの文章に目を通した俺は携帯電話をベッドへと投げ捨てた。

 三日……時間は十分にある。けど……この傷は治るのか?

 俺は自分の腹を見た後に自らの腕と足を見た。

 そして……俺の筋肉は耐えられるのか……?

 腕と足に少々の痛みを感じていた。やはり、相当な負担が筋肉にかかっているのだ。だが、そんな事を考えている余裕などない。

 血戦は三日後。それまでの限りない時間で休息して、万全の状態で血戦に臨む。そして、その血戦で俺は――


 ――全ての人形を壊す。


 それにしても……久しぶりだな……ここの空気は……

 俺は軽く深呼吸をしながら、久しぶりの居所を堪能している。

 そう。今、俺がいるのは、いつもの俺の事務所であった。しかし、ここも寂しくなってしまった。

 帰ってきても、誰も迎えるものはなく……いや、これが俺の当たり前だったんだ……

 “おい! 今日はどこ行ってたんだ?”

 ソファで(ゆい)が尋ねてくる光景が思い出される。

 俺はその幻想を懐かしい目で見つめながら、その目を天井へと移した。

 三日……休息もしないといけない。だけど……他にもやらないといけない事はあるな……

 俺はデスクの椅子から立ち上がって、事務所を後にした。


 ◇


 某ファーストフード店


 俺はそこへと出向いて、店員に向けて「憂鬱」の漢字に文字の書かれた紙を渡して、代わりに紙をもらって、カウンター横の階段の横にあるエレベーターのボタンを押す。

 エレベーターへと乗り込んだ俺はすぐに五階のボタンを押して、ドアが開いたところでエレベーターから降りた。

 薄暗く、狭い廊下を歩いて、右横の警備員の立っているドアの前で店員にもらった紙を見せると、その警備員はドアを開けてくれた。

 その先の短い廊下を歩くと、目の前に扉が現れた。

 俺は深呼吸をして、そのドアノブに手を掛けて、扉の奥の部屋へと入っていった。

「やあ。そろそろ来る頃だと思っていたよぉ?」

 机の上に足を乗せて、口に棒付きの飴を銜えこんだ情報屋――Doubt(ダウト)は笑みを浮かべてみせた。だが、俺の目にはその笑みが前よりも不気味ではなくなったような感じがした。

「俺の行動に……意義はあったのか? お前のせいで、血戦にも行かなきゃいけなくなった」

「うん。それでいいんだよぉ。君は何にも心配しなくていい。そんな事より、君が心配すべき事は――」

 Doubt(ダウト)はその後の言葉を強調する為に一息置いて、告げた。

「――千里眼の使い方だぁ」

 その単語を聞いた時、俺には思い当たる(ふし)があり、Doubt(ダウト)から目を逸らした。

「分かりやすい態度だねぇ……だけどぉ、ちゃんと、反省はしているんだろう? “Persona(ペルソナ)の心を、千里眼で読まなかった事を”」

 Doubt(ダウト)の言っている事は的を射ていた。

 Persona(ペルソナ)の心を読まなかったのを反省してるし、次は読もうと思っている。けど――

「――怖いんだ……真実を知るのが……そして……」

 何よりも、怖いのは――

「――俺が殺してきた人々の……その周りにいた人々の“今”を視るのが……一番、怖いんだ……」

 そう。殺された人の周りの人々の気持ちを理解できるようになったからこそ、俺は千里眼でそれを視るのが怖い。

「一度、忠告してあげたのにぃ……そうやって、君はまた、逃げるのかい?」

 そうだ……こいつの言うとおり、俺は逃げてるだけだ……自分が(おこな)ってきた所業から……

 俺は俯けていた顔を上げて、Doubt(ダウト)に尋ねた。

「俺にも……背負っていけると、思うか……?」

 不安でしょうがない。犬塚さんが死んだ時の痛みを、俺は何百人分も背負わなければならないのだ。

「それは僕に聞くような事じゃない。君、次第でどうにでもなる事だよぉ……?」

 その回答を得て、気付いた。

 俺は弱い。Doubt(ダウト)に答えを求めて、(すが)りつこうとしていたのだ。

「君はもう既に、自分が弱い事を確信してる。だったら、君はもう、弱い人間なんかじゃないと、僕は思うけどねぇ……」

 Doubt(ダウト)の言うとおりなのかもしれないが、やっぱり、俺は弱い存在だ。人一人救う事もできない、弱い人間。そして、この手を真っ赤に染めた汚い人間だ。

「やっぱり、俺は千里眼を……戦い以外では使わない事にする……だけど、俺の(カルマ)を忘れない為にも……背負う為にも……使う事にするよ……」

 Doubt(ダウト)はその口元を歪めて、棒を右手に持ち、飴玉を口から出した。

「良い覚悟だぁ。けど、もうちょっと、心の声を整理した方がいいねぇ……ごちゃごちゃで分かりにくいよぉ。で、僕はそんな君の心をもっとごちゃごちゃにしてみたいんだよねぇ……」

 俺は訝しげな表情でその笑みを濃くしていくDoubt(ダウト)を見た。



「人間と人形の違いってぇ……一体、何なんだろうねぇ……?」



 俺は訝しげな表情より一層、濃くした。

「そんな事……分かりきってる。何十回、殺さないと死なない。それが人形だろ……?」

「僕はそう言う事を言ってるんじゃない。人間の基準って奴だよぉ? 何十回、殺さないと死なない人間は果たして、人間じゃないのかい? 感情も、理性だってある。何十回死なない事以外は人間と変わりないよぉ?」

 その通りだった。だけど、認めてはいけない。

「だからって、奴らの行為を見逃すのか?」

「いいや。そう言う意味じゃあない。ただ、彼らも感情を持ち合わせてるって事さぁ。よぉーく考えなよぉ?」

 口元を大きく歪めて、手に持った棒付きの飴玉を銜えこんだDoubt(ダウト)

 そいつの言葉はやはり、俺には意味がよく理解できなかった。

 人形は、人形……俺たちの敵だ……


 ◇


 Doubt(ダウト)の仕事場のようなところを後にした俺は、Doubt(ダウト)から白井が今、いる場所と龍雅の入院している病院を聞いた。

 しかし、龍雅の病院は九州にあるため、白井が今、滞在している場所へと、俺は(おもむ)く事にした。

 だが、Doubt(ダウト)から龍雅の病院と白井の場所を聞いた時、俺はふと、疑問に思った事があった。

 それは普通の病院だから、だ。

 龍雅の場合はDoubt(ダウト)のコネが働いた。だが、唯の時には、刀によって刺された傷を医者が何も問い詰めないわけがない。

 そう、ふと疑問に思って、Doubt(ダウト)に尋ねてみると、Doubt(ダウト)は淡々と、こう答えた。

『この話もまた、政府が関わってくるんだよぉ。有能な殺し屋を死なせない為に政府が口止めしてるのさぁ。あと、僕が建てたも同然な病院もあるしねぇ。そこでは僕の顔がきいてるんだよぉ? 白井だって、普通の病院に入院したけどぉ、白井なんてのは――言わば、政府の犬も同然だからねぇ……? まあ、政府の犬の話は白井に聞いてみるといいよぉ?』

 飴玉を舐め終え、棒だけをその手に持ったDoubt(ダウト)は終始、笑みを浮かべていた。

 俺はDoubt(ダウト)に言われたアパートを訪ねると、そこの一室に白井の姿があった。

「なんだ……お前か……」

 ドアを開けた瞬間に銃を突きつけられた俺は、ビビりながらも、その一室に入っていく。

「マンションの次はアパートか……此処も、あんたのアパートなのか?」

 狭い廊下を歩きながら、尋ねると、白井は首を縦に振った。

「ああ。だが、設備は万全だ」

 と言って、俺を和室に案内した白井はその畳を上げて、アパートの地下へと入れてくれた。

 三頭山の基地を思わせるその設備に俺は驚きながら、白井についていき、応接室のような部屋へと通された。

 ソファが二つ、対峙するように配置されたところに、二つのソファが机を挟み込んでいる。

 一つのソファと腰を掛けた白井に(なら)って、俺はそれと対峙しているソファに腰を降ろした。

「銃で撃たれた怪我は……もう大丈夫なのか?」

「まだ、時々痛むが、日常を送るのには支障は無い……お前も、怪我は大丈夫なのか?」

 俺は頷いた。

「ああ……」

「……血戦には行くんだろう?」

 その質問でDoubt(ダウト)に質問された事を思い出した俺は、頷いた後に、尋ねかける。

Doubt(ダウト)に尋ねられた……人間と人形の違い、人間の基準はなんだ、って……あんたは、どう思う?」

 白井はそれについて思案して、二分ぐらい経過したところで、答えを述べてみせる。

Persona(ペルソナ)の命令を絶対にきくのか、きかないのか。その違いで十分だ。奴らはPersona(ペルソナ)の命令だけで動く、いや、それでしか動けない。だから、操り人形(ドール)

 白井の意見は尤もで、俺にも納得ができるものだった。だが、俺の中で何かが引っかかる。白井の言葉だけでは、片付けてはいけないような気がしていた。

「なんだ……? 納得いかなかったか?」

 白井の尋ね掛けに対して、俺は首を横に振ったが、心中ではまだ、何かが引っかかっていた。

「俺はこれから、血戦に行く……あんたたちはどうするんだ?」

「……俺たちは仲間を失い過ぎた……だから、もう、後押しする事しかできないだろうな……」

 俺は今の白井の気持ちを察しながら、何も口に出さなかった。そして、三分ぐらい経ってから、俺は立ち上がって、告げる。

「じゃあ、俺は様子見と、血戦に行く事を伝えに来ただけなんで、帰ります」

「ああ。アパートの外まで、先導しよう」

 そう言って、立ち上がった白井についていきながら、俺はその応接室のような場所を出た。すると、そこには一人の女性がおり、白井と話をすると同時に、俺の方へと詰め寄ってきた。

「久しぶりね。(しょう)くん」

 俺はその女性が誰なのか、全然、見当がつかなかった。

「ああ。私は熊沢(くまざわ)仔春(こはる)天谷(あまや)くんとは仲良くさせてもらったわ。それに――血液も採取させてもらった」

 俺はそれを聞いた瞬間に目を大きく見開いて、白井の方へと説明を求めた。

「大丈夫だ。天谷をそのウイルスから助ける方法と、ワクチンを製造するための研究にしか、使っていない」

 その言葉を聞いて、俺は安心した。一瞬だけ、白井に疑いを持ってしまった自分を恥じながら。

「ちょっと、話いいかしら?」

 そう、熊沢に言われた俺は頷いてみせる。

 すると、俺の顔に自らの顔を近づけた熊沢は告げていく。

「血戦が終わったら、あなたに渡したいものがあるの」

 白井には聞こえるか、聞こえないか、くらいの小声で話す熊沢に俺は言葉を繰り返す。

「渡したいもの?」

「ええ。Persona(ペルソナ)を倒すために絶対、必要なもの――――Deicida(ディーシダ)をあなたに託したいの」

「――ッ!?」

 俺はその目を大きく見開かせた。

 Deicida(ディーシダ)を……俺に……!?

「それってつまり……人類の命運を……俺に託すって、事ですか……?」

「そう言う事になるわ。多分、Persona(ペルソナ)と相対できるだけの強さを持ってるのは――翔くん、あなただけよ」

 俺だけ……?

「ちゃんと、生きて帰ってきなさいよ!」

 笑いながら、背中を叩いて、俺に背を向けた熊沢はどんどん、その背中を小さくしていった。

 俺に……人類の命運を……

 その重さを痛感しながらも、俺はまだ、その重さがどれくらいのものなのか、本当の意味で、理解はしていなかった。

「行くぞ」

 白井のその言葉と共に我に返った俺は白井についていって、アパートの外へと出た。

 次は……唯のところに行くか……

 そう思って、歩き出した時、白井によって、その足を止められる。

「翔!」

 俺が訝しげな表情をしながら、振り向くと、白井は何かを言いたそうだったが、何故か(とど)まった。

「いや、やっぱりいい……生きて返って来いよ」

「……分かってるよ」

 俺は再度、その足を進め始め、唯の入院している八草病院へと向かった。


 ◇


 八草病院


 そこの五階の病室のベッドで七月の下旬から目を覚まさない少女の顔を眺めている。このまま、永眠するんじゃないかと言うくらいの綺麗な顔だった。

 お前のおかげで……色々と、気付けたし、お前の気持ちも、やっと分かった……

 俺は自らの拳を握り締める。

 お前は本当に……俺の事を殺したかったんだな……そんな相手には、お前はもう、会いたくないのかもな……だから、お前は目を覚まさない……

 憶測。

 ただの憶測だが、それが真実に思えてならない。

 血戦まで、あと三日……絶対にPersona(ペルソナ)の思い通りにはさせない!

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