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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
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No.31  Negotiation

 細長い袋を上着の内ポケットに入れ、鞘から刀身を引き抜いた翔。

 そんな彼の行動を見ていた警備員はすかさず、その腰の銃を手にとって、翔へと向けて警告する。

「その刀を速やかに地面に置きな――――」

 と警備員がその続きを述べる前に、翔はいつの間にか、その警備員の目の前まで迫っていた。警備員が翔に向けている銃は、もはや銃としての機能を果たせない、引き金から先が無い状態だった。

 そして、翔の刀は警備員の首へと回されている。

「生きたいのか、死にたいのか。あんたはどっちだ?」

 その質問はある意味の成長なのかもしれない。

 殺し屋を辞めると決意していなかった翔ならば、質問することなく、警備員の首は宙を舞っていただろう。

 冷や汗を額から垂れ流す警備員はその震える、役立たずの銃を持った腕を下ろしながら、告げる。

「……死に……たく……ない」

 それを聞いた翔は一瞬微笑んだが、すぐに顔を引き締めると、男の腹を殴って、気絶させた。

 地面にゆっくりと警備員を横たわらせた翔は、その刀を鞘に納めて、低い姿勢をとった。

 あいつの使ってた抜刀術……それを使うのは少し、気が引けるが……やるしかねえだろ!

 左手に鞘。右手に刀。翔はその右手に握っている刀を鞘から勢いよく放ち、警視庁の玄関とも言えるガラスを斬り、地面へと落下したガラスは粉々に砕け散った。

 警報が鳴り始める中、翔は焦らずにゆっくりと、その足を警視庁の中へと進めていく。

 そんな彼へと警報を聞いて、駆けつけた警官たちは迷い無く、銃を取り出して、その銃口を、刀を持って近づく翔へと向けた。

「その刀を置いて! 仮面を外しなさい!」

 警官たちの中の一人がそう声を上げた瞬間、警官達が構えていた銃は既に全て、翔の刀によって斬られ、地面に転がっていた。まるで、玩具のように。

 警官たち全員に悪寒が走った後、警官たちに間を与える事無く、翔の拳は襲い掛かる。

 次々と、警官たちは翔による打撃を受けて倒れていき、そして、翔の周りには誰も立っているものはいなくなった。

『天谷大貴は警視庁の地下に拘束されてる』

 Doubt(ダウト)の言葉を思い出しながら、翔は下へと降りる階段かエレベーターを、辺りを見回して探す。

 しかし、階段、エレベーターはあっても、地下へと繋がっているものはなかった。

 まあいい……ゆっくり探すさ……

 と心中で思った矢先、また、何人もの警官たちが翔へと銃を向けていた。


 ◇


 警視庁の地下


 Persona(ペルソナ)の姿は珍しくも、そこにあった。“珍しくも”と言うのはPersona(ペルソナ)が滅多にこの地下へと顔を見せないからだ。

『やあ、大貴。元気かい?』

 そんな軽い感じで大貴に声を掛けたPersona(ペルソナ)は、牢屋に入っている大貴に睨まれる事となった。

「俺の血を……返せ!」

『その願いを叶えてやる事はできないよ』

 叶えるつもりなんて……最初から無いくせに!

 大貴は立ち上がって、Persona(ペルソナ)と大貴とを遮っている何本もの鉄の棒の方へと行こうとしたのだが、足枷のおかげでそこまで届きはしなかった。

 足枷に繋がった鎖が張ったせいでバランスを崩して、床に体をたたきつけた大貴は、その体を起こしながら、右手で床を勢いよく殴りつけた。

「お前はどこまで……最低な野郎なんだ!」

『はて……最低とはどういう事かな?』

 仮面の内で甚が笑っているように感じとった大貴は歯を噛み締めた。

「幼い女の子をあんな姿にして……何が楽しいって言うんだ!」

 大貴の必死な姿を見て、Persona(ペルソナ)は笑った。

『ハハハハッ……楽しい? そう。楽しいのさ! 殺人を快楽する人間。友達、人との繋がりを求める人間。足を事故で失い、絶望した人間。そんな奴らを俺は人形にした。希望を与えてやった。これのどこが最低だと言うんだ?』

 言葉を返すことができなくなった大貴。

 そんな大貴を見下ろしていたPersona(ペルソナ)の元へと、一人の男が近寄ってきた。

Persona(ペルソナ)長官! 侵入者です!」

『――何!? どんな野郎だ?』

 男はその早い息遣いを整えながら、その進入してきた人物の特徴を述べる。

Persona(ペルソナ)長官と同じ仮面をその顔に付けて、刀を持った男です! 警備員、警官たちはすべてその刀によって、構えた銃を斬られ、腹や首筋を殴られ、気絶させられています!」

 刀を……持った……?

 Persona(ペルソナ)と大貴の二人は同様の人物を思い浮かべ、大貴だけがその人物の名を口にした。

「翔……?」

『……だろうな……地下の警備員、警官も上に回せ』

「分かりました。それと、その侵入者の監視カメラの映像があるんですが、見ますか?」

 思案したPersona(ペルソナ)は頷いた。

『先に行って、準備をしていろ』

「では!」

 小走りで去っていった男を見送りながら、Persona(ペルソナ)は仮面の内で、にやりと笑った。

『良かったなぁ、大貴。今日、お前はこの牢屋から出られるぞ』


 ◇


 監視カメラの映像を見るために大貴が捕まっている牢屋から警備室へと向かっていたPersona(ペルソナ)

 そんな彼の目の前に現れたのは、人形の中でも異常な男――Kill(キル)だった。

「おい。なんか警報なってるが……何かあったのかぁ?」

『侵入者だ。映像を見に行く途中だったんだが、お前も一緒に見に行くか?』

 にやりと笑みを浮かべたKill(キル)の表情は答えを聞かずとも、首を縦に振ることがPersona(ペルソナ)には分かった。そして、警備室へと向かった二人はその映像を確認した。

「これが侵入者の映像です」

 要らぬ説明を入れた男だったが、もはや二人はその言葉を聞いてはいなかった。

 映像を見ているPersona(ペルソナ)は驚愕していた。

 ――ッ!? この動きの速さ……もはや、首斬りを凌駕してないか……?

 そう心中で呟いた瞬間に、鳥肌が立つPersona(ペルソナ)Kill(キル)の方を横目で見た。すると、Kill(キル)は満面の笑みをその顔に浮かべて、映像を見ていた。

 あいつだ……俺と同じ快楽者ァ……仮面を付けててもわかんだよ……ハハハッ!

 笑うKill(キル)は拳を力強く握り締めた。

「今度は確実に遊んで(殺して)やるよ……! おい! 今のこいつの居場所は?」

「はい……此処へと続く階段の廊下へと来ています」

 仮面を付けた侵入者の居場所を確認した瞬間、警備室から出て行こうとしたKill(キル)であったが、Persona(ペルソナ)の手によって腕を掴まれて、阻まれた。

「邪魔すんなよ、ペルソナァ!!」

『お前……今度こそ――死ぬぞ?』

 Persona(ペルソナ)のその言葉には重みがあった。しかし、Kill(キル)はその言葉を嘲笑った。

「俺ァ人形だぜ? 死ぬも何も、人形だから、壊れるだけだろ?」

 Persona(ペルソナ)の手を振り解いたKill(キル)は警備室から出て行った。

 くそ……また、人形を一人。否、一体、失うことになるな……さて、俺は俺のやるべき事を始めさせてもらうとしようかな?

 Persona(ペルソナ)は、舌打ちをした後に、にやりとその口元を歪めた。


 ◇


 Persona(ペルソナ)と同様の仮面を顔に付け、唯の古刀を持った翔は廊下をゆっくりと歩いていた。

 そんな翔の目に映るは、かつて()り合った事のある人形であった。

「ここから先は通さねぇぞ? クソ野郎」

「お前を壊せば――――通れるって事だな? それに、お前が此処に現れて、俺の中で確信が得られた。その先に地下への階段があるんだな?」

 鞘に収めた刀の柄を右手で握り、低い姿勢をとった。

「俺にとってお前はもう、通過点に過ぎない――」

 その言葉を吐き出した刹那――翔はKill(キル)の目の前から真横に移動し、その刀を引き抜こうとしていた。

 刀を引き抜くまでのゼロコンマ二秒。

 Kill(キル)はその時間を使って、その太刀を紙一重で受け流そうとしたのだが、千里眼をその眼に宿した翔には、そんなKill(キル)の考えも、ちゃんと視えていた。

 引き抜かれた刀はKill(キル)の腹を深く(えぐ)り、大量の血を吐き出させた。

 もはや、臓器までもが出てくるのではないかと思えるほどの深い傷なのにも拘らず、Kill(キル)は翔の腹へと拳をぶつけた。

 こいつ……捨て身の攻撃……か……

 後ろへと吹き飛ばされた翔は自らの体勢を立て直しながら、鞘を床に放り投げた。

「ハハッ……」

 腹を深く斬り裂かれ、大量の血を床に垂れ流しているKill(キル)は――笑った。

「そうだ……これが、これが! 俺の求めた潤いだ! 殺しても殺しても乾いていたこの手! だが、今は乾いてねぇ! さあ、楽しもうぜ!? 殺しの螺旋を!」

 狂い。侠気。

 Kill(キル)を見て、高ぶっている翔の自らの心の内。今まではそれを必死で沈めようとしてきた翔。だが、今の翔はそれも自分だと受け入れたため、抑制する必要は無くなった。

「俺が殺しを楽しんでるのは否定しない。けど、殺しの螺旋にはもうこの身は投じねえ。その為に――俺は今を戦ってんだよ」

「ごちゃごちゃ言ってねえで来いよ! ビビってんのかぁ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、翔のその身は既にKill(キル)の真後ろに位置しており、刀はKill(キル)の首を目掛けて、振るわれた。

 首は宙を舞い、血は天井に向かって、噴き出す。そして、その人形は尚も、回復するべく、細胞分裂を繰り返す。

 翔はその回復する時間を待つことなく、その刀を何度も、何度も振るっていく。

 その度に舞う血を見て、翔の口はいつの間にか、微笑んでいた。

 刀をずっと振るう事は、当たり前だが、疲れるものだ。

 息を切らした翔はKill(キル)に振るい続けていた刀を止めて、後ろへとその身を退いた。

 まだ……死なないのか……?

 まだ、回復しようとする人形を見て、そう思った翔。そんな彼に少しの恐怖が走った。


 それを人形は見逃さなかった。


「うっ……!?」

 腹に鈍い痛みを感じ取った翔は自らの腹を恐る恐る覗いた。

 そこからは血が噴出しており、それが人形の手に握る銃のせいであると知るには少し、時間を要した。

「人形の回復力をなめんなよぉ? クソ野郎」

 しかし、Kill(キル)が翔にそう言った瞬間、翔に向いていた銃を握っている右腕が、玩具のパーツのように床に落ちた。

「……笑えねぇ、冗談だ。俺の限界は――――こんなモンかよ……」

 Kill(キル)の表情にいつもあった笑みが消え失せ、代わりに悲しみが染み出して、きていた。

 こいつ……!? こんな表情もできんのかよ……

 人間のようなその表情を見て、翔は目を逸らした。そして、眼を瞑ったまま、Kill(キル)の心臓に向けて、その刀を突き刺した。

 こいつには殺人快楽しかないと思ってた……けど、ちゃんと人間としての感情があった……Persona(ペルソナ)……お前は人形を創りたいのか? それとも――人間を創りたいのか……?

 翔はKill(キル)の最後の姿を見ることなく、自らの足を前へと歩み出した。


 ◇


 くそ……いてぇ……

 階段を降り、血の滴る腹を左手で押さえながら、廊下を歩く翔は右手に、鞘に収めた刀を持ちながら、腹部の痛みで壁に寄り掛かった。

 翔の意識は痛みのせいで段々と、消え入りそうな状態だった。

 そんな状態の翔が廊下の角を曲がった時、もう一人の人形が翔の目の前に現れる。

一宮(いちのみや)翔……Persona(ペルソナ)様のとこまで、連れてく……それが命令なの」

「――!?」

 翔は大きく目を見開き、壁に寄り掛かった状態から両足に自らの体重を預けた。そして、鞘を左手で持って、低く構えた。

「ぬけぬけと……俺の前に現れやがったな……」

 殺人快楽への不安が消えた今、頭の中を支配するものは大貴の救出のみ。そんな彼の頭が復讐の色に変わるのには、そう時間を要さなかった。

 目の前に現れた人形は、そう。化物に変貌し、犬塚を殺した女の子の人形――吏夜(りよ)だった。

「犬塚さんを……よくも、殺しやがったな!!」

 瞬間、鞘に収められていた刀が牙を剥いた。

 幼き少女の首を()ね、それでも飽きたらず、刀は心臓を貫いた。そして、刀を引き抜くのと同時に腹部の痛みによって、床に四つん這いになる翔。

 くそ……こんな時に……

 その間に細胞分裂を繰り返し、身体を元に戻した吏夜はそんな彼へと、告げる。

「大貴を……助けて……」

 その言葉を聞いた瞬間、翔は目を見開いた。

「お前、何言ってんだよ……そんな事言ったところで、どうにもならねえ……俺はてめえを殺してやる!」

「わたしは殺してもいいから……! わたしの友達を……大貴を救って……」

 涙を流す人形。

 これは……これは演技だ……!

 そんな彼女に刃を突き立てようとした翔。しかし、吏夜はそれに反応しなかった。

 直前で刀を止めた翔は四つん這いの状態のまま、刀を下ろし、床を殴りつけた。

 翔は千里眼を使って彼女の過去、大貴とのやり取りを視たのだった。

「……なんで……なんで、俺が我慢しなきゃならない!!」

 翔は必死に、内で戦っていた。

 こいつが犬塚さんを殺した! 悪いのはこいつだ! なのに、なんで……人形なのに……人間みたいなんだよ……感情があるんだよ!

 “お前を殺したいのに、刀を、怒りを向けたいのに……お前は俺の追い続けた復讐相手なのに……殺せない……”

 翔の頭の中に唯の言葉が鳴り響いた。

 あいつも……こんな気持ちだったのかよ……くそ……

 拳を握り締める翔は腹の傷を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。

「早く……連れてけ……」

 ぽかんと口を開ける吏夜だったが、すぐにその口を閉じて、翔をPersona(ペルソナ)のところまで翔を連れて行く。

 唯……お前は俺を本当に殺したかったのに、殺せなかったんだな……お前はもう――俺の顔なんて、本当は見たくないんじゃないのか……?

 翔のその問いに答える者はいない。

「ここの扉の向こう……」

 翔は間を置くことなく、すぐにその扉を開けた。そして、その扉の向こうには、両手と両足を拘束された大貴とPersona(ペルソナ)の姿があった。

『さて、まずはその俺と同じ仮面をとって、刀を地面に置いてもらおうかな?』

 大貴に銃を突きつけたPersona(ペルソナ)の姿を見て、翔はPersona(ペルソナ)の言うとおりに仮面を捨て、刀を床に置いた。

「翔!!」

 嬉しさと不安が入り混じった表情を見せる大貴に翔は拳を握り締める。

天谷(あまや)……お前を救った後には、ちゃんと殴ってやるからな?」

「えっ?」

 殴られる覚えが全く無いような反応を見せる大貴に説明はせず、翔はPersona(ペルソナ)を睨みつける。

「返して貰おうか? 天谷を」

『刀を持たずして、お前に何ができる? まあ、どうせ刀を取ったところで何もできやしない。何故なら――』

 Persona(ペルソナ)は注射器を取り出して、大貴へとその針を刺し、何かを血液中に入れ始めた。

『――これがDeicida(ディーシダ)だからだ――――』

「なっ――!?」

 嘘……だろ……?

 瞬間的に千里眼を発動した翔。その眼に映るのは残酷な現実であった。

「てめえ!!」

『おっと、大人しくして貰おうか?』

 Persona(ペルソナ)はもう一つの注射器を取り出して、翔に見せ付ける。

『これはDeicida(ディーシダ)のワクチンだ。今から十時間以内に大貴の体内に入れれば、Deicida(ディーシダ)が大貴に猛威を振るうことは無い。だが、十時間経った場合、Deicida(ディーシダ)は大貴を(むしば)み、お前にも感染し、お前を外に出すことによって日本中、世界中に広まっていく……』

「……何が言いたい……?」

 腹部を押さえ、苦しい表情を浮かべる翔。

 そんな翔に対して、Persona(ペルソナ)は仮面の内で、その口元を歪めた。

『俺はちゃんと警告したはずだ。「妙な行動は慎んでおけ」とな。なのにお前がここに来て、こんなに暴れたから、今のこんな状況になってしまった。さて……(たの)しい交渉といこうか? 翔』

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