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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
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No.21  Lust murder

 ――――もう、これ以上……何も失いたくない!

 それが夢のような話だっていうのは分かってる……もう、十分なほどに分かってるんだ……

 相手は不死身とも言える人形。それを相手にする限り、誰も死なないなんて事はありえないんだよ……


 ――なら、皆、犬塚(いぬづか)さんのように、人形に殺されてしまうのか?


 死ぬのか……? 俺の目の前で……?

 ……だったら、俺が――全ての人形を壊してやる! だから、俺は――――


 ――――その為の力が欲しい。


 力が欲しい。あの化物の人形を壊せるくらいの力が欲しい。犬塚さんを護る事ができたくらいの力が欲しい。皆を護る為の力が欲しい。

 欲しい。





 ――――(チカラ)ヲ授ケヨウ。



 ◆


 その場にいた殆どの人物が(しょう)の姿を驚きの眼差しで見つめていた。しかし、一人だけは翔の姿を怯えるような眼差しで見つめていた。

 その人物は下唇を噛み、右手で左肩を握り締める少女――吏夜(りよ)だった。

「いや……いや……いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやっ!! 来ないで……来ないでぇ!!」

 急に精神が不安定になった精神病患者のように「いや」を繰り返した吏夜。そして、そのまま自らの足を闇の中へと向けた。

「吏夜! 待ちなさい!」

 その場から必死に立ち去ろうとする吏夜を引き止めようと、声を張り上げたのは龍雅(りゅうが)と相対している女の人形だった。しかし、そんな彼女にもう一度、耳から受け取る刺激が襲う。

「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁああああ――――!!!」

「何? また!?」

 片方の耳を片手で塞ぎながら、女の人形は呟き、翔へと目を向けた。

 そんな翔は俯いたまま、右手で自らの顔を覆っていた。その足下にはさっきまで握っていた刀が落ちており、今の翔は完全に無防備な状態だった。

「おいおいおい! 俺を吹き飛ばしといて、意味なく、叫んでんじゃねえよ!! クソ野郎がぁああ!!」

 翔に吹き飛ばされたKill(キル)は声を荒げながら、翔の方へと疾走した。しかし、その足が翔の半径一メートル以内に立ち入ろうとした瞬間――――彼の右足は宙を舞っていた。

「な……にッ!?」

 右足の膝から下を失ったKill(キル)はバランスを崩し、地面へと倒れた。

 自分の身に何が起こったのか、把握できていないKill(キル)の前に翔は歩み寄った。

「てめぇ……いつの間に、刀を握りやがった……?」

 その人物は翔だった。そして、先ほどまで顔を覆っていた筈のその右手には、地面に落ちていた刀が握られていた。

 翔は自らの口元を大きく歪め、その刀を地べたにうつ伏せの状態になっているKill(キル)へと何度も、何度も振り下ろした。

 周囲へと血が(ほとばし)る中、翔は、

「ヒャハハッ! ハハハハハッ!」

 声を上げて、内に込み上げる快楽に浸っていた。

 しかし、翔の行動を他の人形たちが頬っておく事など、あり得はしない。

「俺の獲物。手を出すなと言った筈だ!」

 Kill(キル)と口論をしていた人形はそう呟いた瞬間に翔の顔面を蹴り上げ、後方へと吹き飛ばした。

 翔はそのまま、地面を何度も跳ねるボールのように、数十メートル吹き飛ばされた。しかし、その顔に浮かべる笑いが消える事は無い。

 自らの体が血だらけなのにも拘らず、翔は(たの)しそうに口を歪める表情から一切、変えようとしない。

 そんな翔に畳み掛けるように、Kill(キル)と口論をしていた人形は翔の吹き飛ばされた方向へと疾走し、速度を保ったまま、翔の腹、目掛けて拳を振るった。

 だが、その刹那――――そう、ゼロコンマ一秒の世界の中で、翔はその人形の方向を見て、大きく口元を歪めて見せた。

 何かされると思った人形は咄嗟の判断で後方へと退き、翔の様子を窺う。

 ……何もしては……来ないのか……?

 人形をただ、佇んで見つめている翔からは、尚も大量の血が流れ出ていた。

 動かないんじゃなくて、動けないのか……?

「本当に……期待外れだよ、翔」

 人形が翔をその目で捉えたまま、そんな呟きを漏らした。それが今の翔に伝わっているのかはその表情からは読み取る事ができない。

 翔の笑っている行為に見飽きた人形は翔をその目に入れたまま、地面を蹴り出そうとした。


 ――人形はちゃんと翔の存在を目で捉えていた。だが――


「アハハハァ?」

「――!?」

 ――人形は自らのその目でその存在を見た。さっきまで自分と相対していた筈の翔と言う存在を自らの隣で。

 翔は右手に握る不気味に光る鋭い刀で、人形の右腕を切断した、その刹那、右脇腹を深くその刀で(えぐ)って、臓器を空気に触れさせた、その刹那、刀は半回転し、人形の左足を切断――――

 経った時間は二秒にも満たない。なのに、翔はその一瞬を十秒とでも言うかのように、操っていた。

 一瞬の内に起きた怒涛の攻撃に、人形の体は何個もの部品に分解された車のようになっていたが、辛うじて、その場に立っていた。

 他の人形が助けに入る隙も無く、人形は最後の力を振り絞って、自らの身を後方へと投げ飛ばした。

 しかし、後方へと退(しりぞ)く人形の目が捉えたものは――不気味なまでにより一層濃くなった歪んだ口だった。

 人形にはその口元を歪めた表情が、こう言っているように聞こえた。

 “逃げても無駄だよ?”

 翔はまた、人形が目で捉えていたのにも拘らず、瞬間移動したかのように人形の目の前にまで迫っていた。

 右手に持ったその刀が大きく振り上げられ、人形目掛けて振るわれた。

「ハハハッ!!! いいぜ! てめえも殺人快楽者だったとはなぁああ!!」

 振るわれようとしていた刀を自らの左手で止めた、血だらけのKill(キル)が人形と翔との間に割って入った。勿論、翔に斬られたはずの右足を元通りにして。

「てめえの殺人快楽と俺の殺人快楽! どっちが上かぁ確かめてみようじゃねえかぁぁああ!!!」


 ◇


「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁああああ――――!!!」

 耳障りな声を上げた翔の様子をただ、龍雅(りゅうが)は茫然と見ている事しかできなかった。

 何が……一体、翔に何が起こっている……!? まさか……――!?

 龍雅は今の翔の行動から、ある答えへと辿り着いた。

 “その俺の殺人快楽が勝手に俺の体を動かして、化物になった人形と……闘ったんだ。その時……自分でも驚くくらいの速さで体が動いてた……”

 ――殺人……快楽……

 その答えは龍雅の額から冷や汗を垂れ流させた。そして、流れる冷や汗を増大させるような行動を翔は龍雅の眼前で行ってみせた。

 落としたはずの刀をいつの間にか、その右手に携えて、Kill(キル)の右足を切断した光景。

 ――!? いつの間に……刀を……!? それに今の右足を切断した時……翔は刀を振るったか……?

 捉えることのできなかった目の前で繰り広げられた光景に龍雅は息を呑んだ。

 これ以上は……これ以上はいけない! 翔が侠気に……殺人快楽に呑まれてしまう!!

 龍雅が翔の元へと走り出そうとした時、その声は悪魔のように紡ぎ出された。

「おいおい、動くんじゃないぜぃ? 龍崎(りゅうざき)ぃ」

 銃を白井(しらい)の仲間の頭へと突きつけている人形の声に、龍雅は動きを止めた。そして、銃を持った人形を睨みつける。

「またまたぁ~『卑怯な』って、目が告げてるぜぃ? 人の犠牲の上に、お前と言う名の存在が成り立ってる事を理解して、受け入れていないから、こういう事になっちまうんだぜぃ? 仕事の依頼で散々、人の命を金に代えて、殺してきたのにお仲間さんには優しい(つら)かぁ? 本当にお前って奴は――――おめでてぇ野郎で腹が立つぜぃ」

 瞬間、銃の引き金は人形によって、無残にも引かれてしまい、銃声は空気を震わせた。

 その光景に目を見開く龍雅に対して、銃を片手に持った人形は嘲笑した。

「おっと。あまりの腹立たしさに“うっかり”銃の引き金を引いちまったぜぃ。まあ、俺が言いたいのは要するに、こっちの戦いに集中してくんないかねぇ? あっちの事はあっちの事でこっちの事はこっちの事だぜぃ? それに――“香織(かおり)ちゃん”の話も途中だったからねぇ?」

 苦い薬を無理やりに飲まされたような顔をする龍雅。しかし、龍雅はふと、ある事を思い出して、人形へと尋ねかけた。

「そう言えば、あの人形の女の子の元へは行かなくてもいいのですか?」

「話の話題を変える気なの、龍崎? まあ、答えてはあげるわ。別に問題ないのよ。私たちはあの子の保護者でも、何でもないんだから」

 その龍雅の質問に答えたのは人形の女の子を追いかけようとした女の人形であった。

 そう言う事ですか……

 龍雅は内心でそう呟きを漏らしながら、横目で翔とKill(キル)のいる方向を見た。龍雅の視線の先には翔がKill(キル)へと何度も、何度も刀を振り下ろす姿があった。

「だから、彼を助ける気も無いと言う事ですか?」

「そうよ。それに私が助けなくても……ほら、見てなさいよ」

 女の人形が翔とKill(キル)のいる方向へと目を向けたと同時に龍雅も完全に二人へと視線を移した。その瞬間――

「ヒャハハッ! ハハハハハッ!」

 ――その笑い声が発せられた。

 そして、その直後に一人の人形が翔の元へと疾走し始めた。

 あの人形は……先ほど、翔に吹き飛ばされた……

 龍雅がその人形の姿を捉えた直後には、翔は地面から宙に浮いていた。しかし、やはり、重力には勝てずに何度も地面に叩きつけられながら、数十メートル蹴り飛ばされた。

 翔と龍雅との距離が遠くなった為に、龍雅は自らの足を動かそうとした。だが、そこには人質という名の抑止力が働いて、龍雅の足を止める。

 舌打ちをしたい悔しそうな表情を浮かべながら、龍雅は人形との会話を続ける。情報を一つでも多く、引き出すために。

「そう言えば……あなたたちの人形の名前はなんて言うのですか?」

「……私は沙由(さゆ)

「俺は健兎(けんと)だぜぃ。それから、さっきまで刀で何度も刺されてた奴はKill(キル)。翔を蹴飛ばした奴が(たか)だぜぃ。残りの二人は……帰ったみたいだぜぃ……ああ。それともう一人、首斬りだぜぃ」

 聞いてもいない人形の名前まで口にした健兎は尚も、銃を白井の仲間の一人の頭に突きつけている。

 瞬間、健兎は銃を持っていない方の左手で、自らの額を押さえて、言葉を発した。

「あー……なんで、お前はそうやって話をずらすぜぃ……めんどくせぇ奴だぜぃ、お前は……って事で――始めちまおうぜぃ、沙由」

「ええ」

 その瞬間、鈍い音が鳴り響いた。その音は「グサッ」や「グチャッ」といった言葉で表現される音。

 龍雅も自分の身に何が起きたのか、一瞬、理解できなかった。しかし、背中に伝わる激しい痛みで、その音の正体を龍雅は理解した。

 くっ……これは……刺された……!?

 短い、ナイフのようなもので龍雅は背後から、沙由によって、刺されていた。そして、龍雅が由をナイフごとワイヤーで斬ろうと、動こうとした時――銃を持った健兎は笑みを浮かべた。

「あっれー? いいのかい? 龍崎ぃ。君のせいでお仲間さんが死んじゃうぜぃ? ああ。それとも、お前は――この人たちの事をお仲間なんて、思っていなかったのかなぁ?」

 その健兎の発言により、龍雅は動きを止め、それ以上、手足が出せなくなった。

 血がナイフを伝って、地面へと垂れていく中、沙由は呟いた。

「さあて……あなたは何回、刺せば死んでくれるかしら?」

 ……卑怯……ですね……


 ◇


「てめえの殺人快楽と俺の殺人快楽! どっちが上かぁ確かめてみようじゃねえかぁぁああ!!!」

 瞬間、翔の体はKill(キル)の咆哮と共に、後方へと吹き飛ばされた。しかし、地面に叩きつけられる前に、翔は自らの体を捻って、体勢を整え、地面に着地する。

「あぁ? 俺の蹴りは効いてねぇってかぁ? ふざけてんじゃねえぞ!! クソ野郎!!」

 Kill(キル)は地面を蹴り上げ、翔の吹き飛ばされた方向へと疾走した。だが――

 ――ッ!? こいつ……いつの間に俺の横――――

 ――翔の姿はKill(キル)の疾走する方向には既に無く、Kill(キル)の真横に在った。

 右手の刀が風きり音と共に振るわれたその刹那、Kill(キル)の首から上の部分が宙を舞う。しかし、翔の猛攻はそれだけには(とど)まらなかった。

 Kill(キル)の右腕を肩から斬り、左腕を(ひじ)から斬り、そして、刀を体の各部位に突き刺しては抜き、突き刺しては抜く行動を繰り返す。最後には胴体を真っ二つに斬り去った。大量の返り血が翔の身へと襲い掛かる。

 隆と呼ばれた人形はそのKill(キル)が真っ二つにされた真ん中から、翔への攻撃を狙った。だが、その狙いが裏目に出てしまう。

 Kill(キル)身体(からだ)が真っ二つにされても尚、翔はKill(キル)に刀を突き立てたのであった。

 その翔の刀は隆の頭を貫き、大量の血をまた、翔に浴びせかける。翔の服はもはや、返り血を浴びすぎて、黒い色をしていた。

 そして、翔の口元の歪みは未だに消え失せてはいなかった。

 隆と言う人形の頭から刀を抜き取った翔の視線は他の所へと向けられた。龍雅の元の二人の人形へと。

「アハァ?」

 もはや、正常ではない声を発した翔は龍雅の元へとその身を疾走させた。

 翔の衣服や身体に付着していた血が飛び散って、地面に落ちていく。人形二人が翔と争った場所は――血の海と化していた。

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