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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第1章― 神の子
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No.04  正体不明

 瞼を閉じた目に光が当たり、眩しさを感じながら、俺は重い瞼をゆっくりと開いていった。

大貴(だいき)!」

 今にも泣きそうな顔で俺の名前を呼んだのは――

「母……さん……?」

 ――母さんの姿だった。

 ……俺は今どこにいるんだ?

 そう疑問に思って、辺りを見回そうと起き上がろうとする。しかし、途中で全身に激痛が走り、起き上がれなかった。

「まだ、起きたら駄目よ……酷い怪我なんだから……」

 酷い怪我……? そうか、ダッフルコートを着た奴に襲われたんだった……じゃあ、ここは病院なのか?

「母さんがどれだけ心配したと思ってるのよ……」

 今にも泣きそうな声を上げる母さん。

 そうか、心配かけてしまったのか。

「……ごめん」

 母さんはそのまま、「父さんに電話してくる」と病室から出て行った。もしかしたら、泣いた表情を見られたくなかったのかもしれない。いつも強い母さんだから。

 頭が痛い、と言うか体、全体が痛い。

 殴られて吹っ飛ばされたときに体を激しく地面に叩きつけられたからだろう。そして、左腕の骨は折れているか、皹が入っているらしい。

 あの時の“あれ”は何だったのだろうか? 人間じゃないのは明らかだった。あの力は絶対に人間の力では無い。そう、まるで――“化物”のような力だった。

 病室の白い天井を見上げながら、俺は憂鬱感に浸る。

 なんで……なんで、俺なんだ……? 俺を奪わせちゃいけない……一体何のことなんだよ! 浦議(うらぎ)の家で機械のような声が告げるまでは忘れられていたのに……

 大きな溜息を吐いて、俺は額に右腕を当てた。

 もう……何も考えたくない……


 ◇


 北川高等学校


 大貴(だいき)が入院している最中も学校ではいつもどおり、授業が行われていた。

 大貴の教室――二年九組で席が空いている所は二つあった。一つは勿論、大貴のものだ。もう一つは(じん)の席だった。

 そんな状況下の中、浦議は寂しさを感じられずにはいられなかった。

 大貴は大怪我に甚は家の用事かぁ……

 授業の合間の休み時間。

 溜息混じりに心中で呟く浦議。

 学校終わったら、大貴のお見舞いに行こう。昨日の件もあるし!

 そう考えた浦議の昨日の件と言うのは正しく、パソコンの画面に髑髏(どくろ)が映り、言った言葉であった。

 浦議はその言葉を信じてはいない。だが、心の奥底には少しだけそれを信じている自分が存在しているのに浦議自身も気付いていた。

 授業、昼休み、授業、ホームルーム、課外と終わり、残るは学校から出ることのみとなった。

 浦議は鞄に教科書などを急いで詰め込みながら、足早に教室を出た。

 早く行って、励ましてやらないと!

 彼は心中でそう呟いて、階段を一段飛ばししながら下りていく。

 まだ、他のクラスはホームルームを終えていないようで靴箱に来ても人の気配すら無い。そんな靴箱で素早く上靴を脱いで下靴に履き変えた後、小走りで門へと向かう浦議。

 流石に息切れした浦議は息を整えながら、門を出ようとしたとき、誰かの手によって肩を掴まれ、動きを止められる。

「ちょっといいかな?」

 浦議の肩を掴んだ男は百八十センチメートルくらいの身長の長身の男で、その姿は翔だった。しかし、翔のことなど知らない浦議は少し慌てた表情を見せた。

「今日、休みだった生徒はいる? 入院した生徒とか」

 入院した生徒? この人は大貴の事について聞いているのだろうか?

「それなら――」

 と答えようとした浦議であったが、昨日の髑髏のあの言葉を思い出し、咄嗟に続きを述べるのをやめてしまう。そして、翔に対して尋ねた。

「何で知りたいんですか?」

 浦議の睨んだ目を見て、翔は自分の頭を掻いてからポケットから箱を取り出す。

「昨日、大怪我して倒れてるこの高校の制服の男の子に遭って、救急車呼んだのは俺なんだ。そんとき、落としてったものを渡したいんだけど……」

 嘘は言ってない、と思う。

 そう感じ取った浦議は安堵の息を吐き、翔を睨むことをやめる。

「今から僕、その入院してる子のお見舞いに行く途中なんですよ。良かったら一緒に行きますか?」

「ああ。ありがとう」

 そう言って浦議は翔を大貴の入院している病院――八草病院へと案内する。大貴の入院している病院は予め、先生から聞いていた浦議。

 病院へ行く道中、浦議は翔に向けて尋ねた。

「その落としていった物って何なんですか?」

 少し翔は思案する素振りを見せてから答えた。

「銃」

「……え?」

 少しの沈黙を経て、浦議はそう口にした。予測不能な回答に驚く浦議を翔は笑う。

「冗談だ。そんなおっかないものなんて誰も普通は持って無いよ」

 その後、翔は浦議に聞こえないくらいの声で「“普通なら”な」と強調するように呟いた。

 浦議はそれ以上、その落とし物について質問できなくなった。いや、話を翔に逸らされたといった方がいいのかもしれない。そして、二人は八草病院の前へと着くのであった。

「おっと、お礼しなくちゃな」

「いいですよ。ついでですし」

 「いや、こういうのは大事な事だ」と翔は言いながら、メモ帳とペンを取り出して何かを書き始めた。そして、何かを書き終えると、その書いたページを取って、浦議へと渡した。

 それを見て浦議は、疑問の呟きを漏らす。

「住……所……?」

「何かあったらいつでも来い。できる範囲で助けてやる」


 ◇


 俺は母の買ってきた漫画を片手に外の夕日をぼんやりと眺めていた。

 一日がこんなにも長いものだと感じたのは今日が初めてだった。今までは一日一日がすぐに過ぎていくものであったからだ。しかし、今、考えてみればそれは一日一日が充実していたということではないだろうか。

 充実していた。楽しかった。果たしてそうなのか? 俺は満足しているのか?

 学校はつまらない場所。そうじゃないのか?

 ――いや、学校は楽しい場所だ。皆と話してわいわい騒いで……

 ゆっくりと溜息を吐いて片手に持った漫画に視線を落とした。そして、病室の扉が四回ノックされた。

「どーぞ」

 と、力の抜けた声を発して片手に持った漫画を閉じた。入ってきたのは浦議と背の高い男性だった。浦議が来るのは分かるが、背の高い男性は? 誰だ?

 俺の訝しげな表情から察したらしく、背の高い男性は口を開く。

「俺は君にこれを届けに来ただけだ」

 そう言って俺の方へと近づいてきた男性は片手から少しはみ出すくらいの箱を俺へと渡してきた。

 重い。

 渡されて一番初めに思ったことがそれだった。そして、男の用はそれだけだったようで、病室から出て行こうと俺に背を向ける。

「ま……待ってください!」

 俺はその男性を呼び止めた。

「あの……ありがとうございます」

「どういたしまして。今度からは夜道は気を付けて歩けよ」

 病室から颯爽と出て行った男性。

 夜道を気を付けて? 何で俺が夜道を歩いていたことを知っているんだ?

 その疑問の答えは浦議が述べてくれた。

「あの人が救急車を呼んでくれたらしいです。それより、怪我は大丈夫なんですか? 左腕は折れてるようですし……」

 教室と同じように敬語で話す浦議は俺の左腕を心配そうな目で見つめてきた。

「病室の中くらいスイッチのOFF状態でいいんじゃないか? それに怪我は大丈夫。一週間くらいで退院できるし、学校も行けるんだって」

「そうだね、病室の中くらいはOFFるよ。それより、ホントに心配したんだぞ? 家に帰る途中で襲われたって聞いたし……で、襲ってきたのはどんな奴だったんだ?」

 襲ってきた奴……

 おれは返答に困った。あの化物のような奴の事について、果たして言ってもいいのだろうかと。

 迷っているそのとき、話を逸らす話題が見つかって慌てて言った。

(じん)は? 浦議と一緒に来るのかと思ってたけど……?」

「ああ、今日は家の用事で休みだった。何の用事だろ……?」

 俺は少し安堵の息を吐いた。

 上手く話を逸らす事ができた。けど、甚が学校休むなんて珍しいな。一回も学校、休んだ事ないような気がする。

「じゃあ、僕はもうこれで。彼女さん学校に置いて来ちゃったから」

「ああ、ごめんな。その彼女さんにも俺が謝ってたって言っといてくれよ」

 浦議はにこりと笑って病室を後にした。

 そうか。彼女いるんだったな、浦議は。

 少しの間、天井を見上げてから横に置いた漫画を手にとって俺はまた、漫画の世界へと釘付けになった。現実から目を逸らすように。


 ◇


 病院は外も中も禁煙。吸うには指定の場所へと行かなければならない。

 しかし、翔はその指定の場所に行くのはめんどくさかったらしくきちんと八草病院の敷地内を出てから、煙草に火を点けた。

 もう残り少ないな……煙草買いに行かないとな……それにしても、銃で撃たれるってのは慣れねえな……

 そんな事を考えながら、夕暮れのオレンジ色の空を見上げる。

 オレンジ色の一部はもう既に青くなり始めていた。

 もう用はないし、帰るか。

 そう思い帰路につく翔は駅へと向かう。

 電車に揺られ、歩いて数分で事務所に着いた。

 すると、その事務所へと上がる階段に一人の男が立っていた。

 依頼か……?

 そう判断すると、翔は小走りでその男の元へと向かう。

 翔から男に声をかけようとしたとき、逆に男の方から翔は声をかけられた。

「あなたが翔さんですね?」

 その尋ねに対して、「はい」と答えながら頷く翔。

「依頼をしたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい。お待たせしてしまってすみませんでした。どうぞお上がりください」

 階段を上っていき、鍵を使ってドアを開け男を中へと入れる。

「そこのソファに座って少し待っててください。ああ、それと――」

 慌ててそのことを男に告げる。

「――後ろの物体はお気になさらずに」

 後ろの物体と言うのはあの死なない人形の事であった。動きを完全に停止させたそれはまだ、片付け終えてはいない。

 それにしても、ソファで寝ていた唯はどこに行った?

 ふと疑問に思う翔であったがそこまで深く考える事はせず、お湯を沸かし、カップに淹れたコーヒーを机へと置いて自らも依頼人と対峙するソファに座った。

「で、依頼内容は何でしょうか?」

 ソファの後ろの物体を見ていた男であったがその声によって翔に視線を向ける。

「はい。今、巷で流行っている麻薬。暴力団の間で取引されているものなんですが、その暴力団に提供している男を一人、捕まえて欲しいのです」

 麻薬、暴力団……よくある依頼だな。

 男は自らの鞄から三枚の紙を取り出して机に上に置いた。

「あんた分かってるのか? 俺は殺し屋だ。殺しの依頼しか受けない」

「いや、厳密に言うと殺しの依頼でもあります」

 そう言って三枚の紙の一番下の紙を翔へと見せる男。

「その男を捕らえるには、この強力なガードを突破しないといけないんです」

 紙に印刷された一枚の写真を見て翔はようやく理解した。

「そうだな……こいつは殺し屋に頼まないと処理できない」

 少し自らの口元を歪めた翔はすぐさまメモ用紙とペンを取り出して数字を書いていった。

「引き受けます。この額でいいですか?」

 男は少し首を傾げて思案して答えを出す。

「……はい。では、連絡先はその資料に書いてありますので捕らえられましたら、ご連絡ください」

 そう言ってソファから立ち上がり、事務所のドアへと向かった依頼者。ドアはその依頼者の男を吸い込むようにバタンと閉じた。

 その一番下の資料の写真にはダッフルコートを着た人の形をした異形な人間――人形が写っていた。


 ◇


 八草病院


 病室は物音一つしはしない。静寂な夜。

 俺にとってその感覚は久しぶりのものだった。そして、夜ではなく、闇とも思える感覚も。

 今の時刻は二十二時。

 もう寝るか……

 そう思ってベッド元の電気を消した。

 はっきり言って夜の病院というものは怖い。例えるなら夜の学校並みの暗さだった。

 その怖さを少しでも和らげる為に俺は目を閉じた。

 あの箱の中身……何だったんだろう……

 そう思った俺はもう一度、ベッド元の電気を点けて、ベッドの下に置いておいたその箱を自分の膝の上に置いた。

 やはり、重い箱だった。鉄の塊が入っているように重い箱。いや、本当に鉄の塊が入っているのか?

 俺はごくりと唾を呑み込んで、箱を開けた。そこにはもう一つの箱が入っていた。

 その箱の蓋も開けた俺の目に“それ”は映った。

 ――銃。

 あの化物が襲ってきたときに握り締めていた銃。

 忘れていた。

 あの男性は何故、その銃を俺に態々、届けてくれたのか。疑問に思った。

 俺は恐る恐るその銃の銃弾が入っているところを確認する。

 全ての銃弾が入っていた。

 という事は俺は銃の引き金を引く事ができなかったのだろうか。分からない。

 俺の手は激しく震え、すぐさま銃を箱の中へとしまい、ベッドの下に置いた。

 怖い。

 俺はベッド元の電気を消さずに一夜を過ごした。

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