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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
49/72

No.19  自分の世界

 某マンション


 その一室のベッドに、横になっていた俺は安堵の息を吐いていた。

 今日は自衛隊が、このマンションに来る事はなかった……

 まだ、自分が捕まっていない事を喜んでいた俺だったが、すぐにその頭を切り替えた。

 いや……まだ、完全に一日が終わったわけじゃないんだ……いつ来たって逃げられるくらいの心の準備をしとかないと!

 そう。まだ、今日は数時間残っている。その数時間の内に自衛隊がこのマンションを嗅ぎつけない保障なんて、どこにもない。

 だから、俺は自らの身をベッドの上から起こした。すると、この一室にいる一人の人物が俺へと声を掛けてきた。

「どうかしたのか、天谷(あまや)?」

 その言葉を投げかけてきた人物は昨日、俺がこのマンションに帰ってきたからずっと、俺の傍にいる人物――白井(しらい)だった。

 白井が言うには、俺が拘束されない代わりに二十四時間、行動を共にして、見張っておかないといけないらしい。

「いや、『銃を持っておこうかなぁ?』って思ったからさぁ」

「自殺しようとか、考えんなよ」

 もう一つのベッドの上で、読んでいる本から目を離す事無く、白井は言った。

 それを冗談で言っているのか、本気で言っているのか、は本を読んでいるその真剣な顔からは読み取る事ができなかった。

 俺はリビングへと行き、その机上に置いてあった黒くて、重い、銃を手にとって、ポケットへとしまい込んだ。その横にある銃弾の入った箱も同様に、逆の方のポケットへと押し込んだ。

 そして、俺がリビングからさっきのベッドのある部屋へと戻ろうとした時、それは唐突に聞こえた。

 何か巨大なものが爆発したような轟音が地鳴りと共にこの部屋まで、届いた。

「なっ――!? なんだ!?」

 俺がそう思って、言葉を発した瞬間、マンション中に警報音が繰り返し、鳴り響いた。

 この警報音……あの時と同じ――

 その警報音が耳から脳内に届いた時、俺の頭にはあの光景が過ぎる。もう、瞼の開ける事の無い、犬塚(いぬづか)さんの姿が。

「白井さん! 俺……どうすれば!」

「大丈夫だ! 早く、非常階段から逃げるぞ!」

 ベッドのある部屋からリビングに出てきた白井の手に引かれて、俺はそのマンションの一室から出た。

 そんな時に俺の脳内では一つの疑問が募った。


 ――俺は、本当に逃げきる事ができるのか?


 しかし、今の状況ではそんな心配事も首を振って、無理やりに打ち消すしかなかった。

 今、俺がいるのはマンションの七階。

 非常階段への入り口はこの階にしかなく、地上にも出口など無い。

 出口は地下にあり、地上から非常階段に侵入される事もない。だから、地下の出口をPersona(ペルソナ)に見つけられでもしたら、ゲームオーバーだ。

 白井の手に引かれるまま、階段を下りていく。そして、一階に着いたんじゃないかと思えるくらい下りたところから、その音が壁の向こうから聞こえるようになった。

 銃を乱射する音と、手榴弾の爆発する音。

 その音を聞くに、俺は耐えられなかった。

 耳を塞ぎたかった。けど、白井に手を引かれている為、それはできなかった。

 皆が俺を護ろうと……必死に頑張ってくれてるんだ……! だから、俺はそんな皆の為にも、捕まらないようにしないといけないんだ!


 ◇


 マンションに警報音が鳴り響いた瞬間から、一階から順に分厚いシャッターが閉まる仕組みになっている。しかし、その分厚さでも、手榴弾を使われてしまえば、粉々に壊されてしまうものだった。

 相手が戦自であるならば、一階を制圧するのに五分もの時間を要しないはずだ。

 それを予測した龍雅(りゅうが)は白井がいないこの状況での白井の仲間への指揮を矢崎にさせていた。だが、矢崎に指揮をさせていると言っても、その指揮する事を矢崎に指示しているのは龍雅だった。

 つまりは、実質、白井の仲間を指揮しているのは龍雅であった。

「全ての部隊を後退させてください! 私がワイヤーを使って、罠を張りますから」

「分かりました、けれど、そんなもので時間稼ぎになるんですか?」

 矢崎のその質問に、龍雅は淡々と答えた。

「ロクな時間稼ぎにはならないでしょうね……なので、二階のシャッターもすぐに作動させてください! そして、七階へと向かって、非常階段から皆さんを地下に誘導してください! 相手は戦自です。数や武器の性能では敵うはずがありませんよ。それに……まだ、“あの時”の傷の癒えていない人たちが多数いるはずです。ここはもう、放棄して、もう一度、どこかで体勢を立て直すのが得策でしょう」

 龍雅の意見を尤もだ、と思った矢崎は後ろにいる白井の仲間へと指示を出し、前にいる仲間にも同様に指示を出す。

 その指示に従って、上の階へと上っていく白井の仲間たち。しかし、その中の数人の者たちはまだ、その階にその身を残していた。

「お前ら……何してる……?」

 その者たちに尋ねかける矢崎。

「逃げてるだけじゃ、すぐに捕まってしまいますよ、矢崎さん。俺たちにも、時間を稼がせてください!」

 その数人の中の一人がそう言って、自らの手に持った銃を見せつけた。

 その姿を見て、矢崎は溜息を吐いて、龍雅に答えを求めるように視線を移した。

「別にいいですけど……あなたたちの命の面倒は、あなたたちで見てくださいね?」

「そんな事は百も承知です!」


 ◆


 一階は難なく、五分以内に制圧され、物騒なものを平然と装備した自衛隊の隊員たちは続々と、そのマンションの二階へと侵攻していた。

 作戦はうまく進んでいる、と思っていた一階から上がってきた隊員たち。その目に映ったものは、床に倒れる何人もの同僚たちの姿だった。

 その中の右腕を切断された隊員が今、二階へと着いたばかりの隊員たちに虫の息で告げる。よく見ると、その隊員は腹も少し、切り裂かれていた。

「糸が……張って、ある……切断……するんだ……」

 その隊員の最後の言葉を聞いた隊員たちの中の一人が廊下に糸が張られたいるのを確認しようとした瞬間、その廊下の角から、人が顔を見せ、BMGで蜂の巣にされた。だが、流石、自衛隊の隊員だった。

 何人かの隊員たちは瞬時に右へと飛んで、その銃弾の嵐を免れた。

 自衛隊の隊員たちが壁にその背中をつけるのと同時に銃撃戦の火蓋がきって落とされる。

「やはり、ワイヤーの罠が使えるのは最初の一度のみですね」

 銃を片手に壁に張り付いた白井の仲間の隣で龍雅はそう告げた。

「つべこべ言わずに、手伝ってくださいよ。あっ! 後ろの銃取ってください」

 そう言った男の目には涙が浮かんでいた。その涙は今、ここに彼一人しか残っていないと言う残酷な現実を物語っていた。

 その者の左手を向けられた龍雅は素直に自らの後方にあった箱から銃を取り出して、その左手に置いた。

「どうも……それより、やっぱり相手は訓練されてる自衛隊隊員。僕たちじゃ、歯が立たないですね……」

「まあ、あくまで時間を稼ぐのが目的ですからね。やばくなったら、逃げればいいんですよ」

 龍雅はその箱の中から一つの手榴弾を手にとって、その安全ピンを引き抜いた。

「伏せてください!」

 隣にいる男へとそう忠告して、自衛隊の隊員たちのいるところへとそれを投げた龍雅は後ろへと退(しりぞ)きながら、耳を塞ぐ。そして、武器の入った箱を持ちながら、そのまま、廊下の角へとその身を退かせた。同時に自衛隊の隊員たちはさっきまで龍雅と白井の仲間がいた所まで侵攻してくる。

「相手の数をできるだけ、多く減らしましょ――」

「早く下がって!!」

 瞬間、龍雅は白井の仲間から後方へと勢いよく押され、そうされたと同時に吹き飛ばされた。

 煙が晴れた時、龍雅の目にその光景が入ってきた。


 目の前で下半身が吹き飛び、さっきまで生きていた白井の仲間がそこには倒れていた。


「……こんな残酷な行為を……正義の下にやってるんですからね……何とも、皮肉な話ですよ」

 龍雅は武器の入った箱から数個の手榴弾を取り出して、安全ピンを外し、隊員たちに向けて投げた後、すぐ傍にあった三階への階段を駆け上がりながら、呟く。

「人を殺すのに……言い訳なんてものは通用しないんですよ。正義の名の下に人を殺したって――――殺人である事に変わりはないんですから」

 時間稼ぎをするのに限界を感じた龍雅はそのまま、七階へと向かって、途中、ワイヤーを張りながら、ひた走った。しかし、その道は決して、天国へと繋がるものではなかった。

 そう。その道は――――地獄と呼ぶべきところへと繋がっていた。


 ◇


 地下の出口へと出た瞬間にその音は鳴り響いた。


 ――銃弾が放たれる音。


 俺はその銃の撃った人物を目視する前に、目の前に立って、俺の手を引いた白井が倒れていく姿を見た。

「しらい……さん……?」

 俺は後ろ向きに倒れて、床で頭を打ちそうになった白井を両手で支えた。そして、そのまま、抱きかかえながら、その重さに耐え切れずに座り込む。

 「重たい」と思ったその時、俺の目にはそれが映った。

「血……?」

 腹から大量に床へと血を流す白井は苦しい表情を浮かべながら、誰かを睨んでいる。

「あ、あま……や……逃げ……ろ……」

 口からも血を垂れ流しながら、そう告げる白井だったが、俺の耳にはもはや、その言葉は聞こえていなかった。

 白井が、撃たれた、腹を、血を流して、吐き出して、血が、紅い、紅い、紅い、血、血、死、死、死、死――


『久しぶりだな……大貴(だいき)


 ガスで変えられたようなその声に反応して、俺は視線を上げた。

 そこには――銃を片手に持って、此方の方へと向けた、仮面を付けた人物の姿があった。

 こいつが……白井を撃ったのか……?

 俺はそう、理解するまでに暫くの時間を要した。

「ペルソナァァァァァああああああ!!」

 俺がポケットにしまいこんでいた銃を仮面を付けた人物――Persona(ペルソナ)へと向けて、立ち上がった瞬間に俺の首は何かを突きつけられていた。

『下手に動くと死ぬぞ? 大貴』

 大人一人分くらいの刀身の鎌の刃が俺の首には突きつけられており、俺の後ろには前に白井を殺そうとし、その鎌を持っている首斬りの姿があった。

「よくも……よくも白井を!!」

『心配するな。急所は外してある。だが、お前が抵抗するようなら、今すぐ首が刎ねられるがな』

 Persona(ペルソナ)の後ろから、俺の足下で倒れている白井に近づいていく、一人の女性。その女性は多分、Persona(ペルソナ)の人形だ。

 白井を軽々と担ぐその女性の行動は、白井を人質に取られた事を意味していた。

 そして、俺はいつの間にか、本当はそれを上る予定ではなかったすぐ傍にある階段を上らされ、地上まで、連れて来られてしまった。


 ◇


 唯一の逃げる手段であった非常階段が押さえられたこの状況を打開など、できるはずはなかった。

 非常階段から出てきた全ての人々が抑えられ、地上へと連れて行かれた。

 それは龍雅も(しょう)も例外ではなかった。

 二人とも人形によって、取り押さえられ、身動きが取れない状態であった。

 そんな絶体絶命な状況下にPersona(ペルソナ)はまだ、大貴を自らの近くにおいて、その場にいた。

 龍雅と翔以外の人物は全て、手錠と足枷が掛けられ、鎖で電柱などに繋げられた。全ての人物を拘束し終えた自衛隊の隊員はPersona(ペルソナ)の指示に従って、車へと乗って、その場から立ち去っていった。

 そして今、この場所には八人のDOLLとPersona(ペルソナ)とマンションにいた人々しか、しかいなくなった。マンション以外、建物は無い。

『さて……一人ずつ、公開処刑でもしていくか?』

 その言葉は決して、冗談なんかではなかった。そして、それはこの場にいる全員が分かっていた。

「やめろ! この人たちに手を出してみろ! 俺は舌を噛み切って、自殺してやる!」

 白井の仲間と同様に手と足を拘束された大貴はそう声を荒げた。しかし、そんな大貴に対して、全てを見透かしているかのようにPersona(ペルソナ)は言葉を返した。

『果たして、お前にそれができるのか?』

 瞬間、大貴は自らの体をビクつかせた。

 自分の言った言葉を改めて、問い返された大貴は、その言葉の意味を深く考えた。そして、確信したのだった。

 俺には……できない……

「お前らの狙いは俺なんだろ……? だったら、早く……俺を連れてけよ……」

 これ以上の犠牲を出すよりも、自分が連れて行かれるほうがマシだと考えた大貴。

 まだ、傷も癒えていないのに……皆、人形に勝てるはずが無い……

『……まあいいだろう。目的は達成された。いくぞ』

 そのPersona(ペルソナ)の声と共に動き出す人形たち。

 翔と龍雅はその口から血を出すんじゃないかと言うほどの 力で人形に腹を殴られ、地面に倒れ伏した。

 そんな二人の姿から目を逸らして、Persona(ペルソナ)の言われるがままに自らの足を車の方へと向ける大貴。

 しかし、その時、大貴の耳にその声は届いた。

「待て……よ…………待てよ!」

 腹の痛みを必死に(こら)えながら、立ち上がる翔は自らの元にあった(ゆい)の日本刀をその手に取った。

 お前を奪わせるわけには――――いかねえんだよ……!

 翔のその声に振り返った大貴は今にも泣きそうな声で叫んだ。

「やめてくれよ! お願いだから、抵抗しないでくれ! 俺はもう……犬塚(いぬづか)さんのような犠牲は――」

 大貴の頭に過ぎる犬塚の姿。

「――出したくないんだよ!!」

 翔を止める為に叫ばれた、大貴によるその言葉は逆に翔の今の怒りを逆撫でした。

「そう思ってるのは……お前だけじゃない……俺だってそうだ……」

 瞬間、一人の人形が翔に向けて、疾走した。その人形は先日、大貴と一戦交えた人形であった。

「――!? 翔! 逃げてくれ!」

 あんな……まだ、筋肉が完全に回復してない体じゃ――

 そう考えて、叫んだ大貴であったが、その考えはあっさりと、崩れ去った。

 自らの目の前まで近づいてきた人形の首を翔は自らの手に持った古刀(ことう)を鞘から引き抜いて、斬り裂いた。

 首を失った人形の体は地面に倒れ、首はその数秒後に地面へと落下した。

「俺は……俺はお前のためじゃない」

 翔は自分を龍雅が殺そうとした時の事を思い出しながら、言葉を紡いでいく。

「世界の人々のためでもない。唯のためでもない――――」

 唯の古刀を握った翔の右腕から、紅い雫が垂れ落ちた。

 その垂れ落ちた紅い雫は決して、先ほど倒した人形の血ではなく、翔自身の血だった。

 そう。翔の右腕の筋肉はさっきの刀を振るった事により、もう、傷口が開いたのだった。

「――――俺は――俺の世界を守るためにこの刃を振るうんだ」

 血だらけの右腕を上げ、刀の切っ先を大貴へと向ける翔。

「だから――たとえ、この四肢が引き裂かれようとも、お前を奪わせはしない!」

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