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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
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No.05  天谷の命と全国民の命

 講堂にいる誰もが沈黙した。そして、そんな空気に耐えかねたのか一人の男が消え入りそうな声で呟く。

「今……なんて?」

『おっと、聞こえなかったのならば、もう一度言ってあげましょうか? アメリカは日本を攻撃する為に普天間基地を作ったと言ってるんですよ』

 その瞬間、聞くに堪えかねたもう一人の人物が目の前の机を手で叩きつけた。その人物と言うのは日本の代表――総理大臣だった。

「そんな事は……ありえる筈が――!」

『“無い”と言いたいのですか? じゃあ、今からこの映像を見ていただきましょうかね。その後、詳しく説明してあげますよ』

 Persona(ペルソナ)は総理大臣の言葉を遮るように言い放ち、画面を見ろと言う意を込めて、後ろの壁のようなスクリーンに振り返った。

 Persona(ペルソナ)は手元のパソコンのキーボードを操り、その壁のようなスクリーンに映像を映し出した。仮面の内でその口を尚も歪めながら。


 ◇


「な……なんだ……これは……!?」

 スクリーンの映像を見て、驚愕の表情を浮かべ、声を漏らす男。他にも唖然としている者や、映像に耐えられず、トイレに行った者までいた。

 講堂にいた人々が見た映像。それは先日行われていたDeicida(ディーシダ)による人体実験の映像だった。

 それを見ながら平気そうにしているのは人形の女の子とPersona(ペルソナ)だけであり、Persona(ペルソナ)に至っては笑顔を浮かべていた。

 編集した映像を十分、見せたところでキーボードをカタカタと動かしてスクリーンに映し出された映像を停止させた。

『私の所持している殺人ウイルス――Deicida(ディーシダ)による死刑囚を使った実験です』

 言葉を失っている講堂にいる人々。暫くの時が経過して、やっと口を開いたのは総理大臣だった。

「……この映像を我々に見せて、何を企んでるんだ……? Persona(ペルソナ)

『敵とみなした瞬間、すぐさまその態度を切り替える。フフッ……そう。お前たちは俺の事を見方だとは思っちゃいけない』

 その言葉を聞いて、Persona(ペルソナ)を睨みつける総理大臣のその頬から一筋の汗が垂れ落ちた。

「質問に答えろ! 何を企んでいる!?」

『そう声を荒げるなよ。俺はただ、お前たちに交渉……いや、“命令”しに来ただけなんだ』

 その講堂にいる全員がその顔に疑問に色を見せる。

 そんな全員を代表して、総理大臣がまた、その口を開いた。

「何が言いたい……?」

『察しが良ければ、もう分かってると思うんだがな……まあいい。今から説明してやろう』

 立っている姿勢がきつくなったのか、Persona(ペルソナ)はその場に置いてあった椅子に腰をかけ、机の上でその手を組んだ。

『殺人ウイルス――Deicida(ディーシダ)の源はある一人の人間の血だ。そのある一人の人間と言うのが――天谷(あまや)大貴(だいき)

 行動の人々の誰しもがその顔に驚きの表情を浮かべ、講堂がざわめき始めた。

「K事件の犯人の天谷!?」

「先の9.11でも天皇が殺害された祭典にいたと言うじゃないか!」

「悪魔の子だ……」

「今からでも遅くない……Persona(ペルソナ)の話が本当ならば、早く始末した方が良いのでは?」

 あらゆる意見や驚きの声が飛び交う講堂。

『おいおい、それくらいの事で驚いてもらっちゃあ困る。話の続きだが――』

「そんな事、嘘に決まっている!」

 Persona(ペルソナ)の言葉を遮ったのは閣僚の中の一人の男の声だった。

 Persona(ペルソナ)はゆっくりとその男の声が聞こえた方向、立ち上がっている閣僚の男の方を見た。

「さっきの映像だってそうだ! 今のCGの技術を使えば、作ろうと思えば、簡単に作れるはずだ! 皆! こんな奴の言う事に騙されるな!」

 その一言により、さっきまでPersona(ペルソナ)の言葉を鵜呑みにしていた者たちもPersona(ペルソナ)へと批判の声を浴びせかけた。

 そんな中、Persona(ペルソナ)は隣でつまらなさそうに座っている吏夜(りよ)と言う女の子の人形へと耳打ちした。

 すると、吏夜と言う人形の女の子は子供が見せる無邪気な笑みをその顔に浮かばせる。

 その一部始終を見ていたPersona(ペルソナ)の言葉を遮った男はまたもや叫び声を上げる。

「ちゃんと人の話を聞いて――!!」

 その刹那、さっきまでPersona(ペルソナ)の横にいた吏夜と言う人形の女の子がその男の目の前にまで迫っていた。

 そして、その人形の女の子はその右拳を振りかぶって、男の頭へとその拳をぶつけた。

 轟音と共にその男の頭は講堂の床に()り込んでいた。血は床を伝って広がっていく。

 Persona(ペルソナ)に対する批判を口にしていた講堂にいる全員が言葉を失った。

『頭の悪い彼のようになりたくなければ、俺の話を信じる事だ。まあ、CGじゃないって証拠は此処で見せることも可能だけどね』

 そう言って、Persona(ペルソナ)は一つの注射器を手に持って講堂にいる人々へと見せつけた。その中の液体は紅く、血の色をしている。

『この注射器に入ってる液体が殺人ウイルス――Deicida(ディーシダ)だ。死にたくなければ信じろ。それとも、此処で全員死にたいのか? お前らは』

 講堂にいる人々は人形の行動とPersona(ペルソナ)の一言により、その動きを完全に静止させている。

 狙い通りとばかりにPersona(ペルソナ)はその仮面の内で笑ってみせた。

『どこまで説明したかな……ああ、天谷大貴の事までか。で、だ。早くにその殺人ウイルス――Deicida(ディーシダ)の存在を知ったアメリカは血眼になってその存在を探していた。そして、Deicida(ディーシダ)がある人間の血を源として作られる事を知ったアメリカはそれと同時に日本にそのある人間がいる事も知った。アメリカはDeicida(ディーシダ)の源となる人間を穏便に探す為に、()つ、Deicida(ディーシダ)が先に日本によって創られるのを阻止する為に条約を結び、普天間基地を置いた』

「……な……そんな莫迦(ばか)な……」

 消え入りそうな声で一人の男が呟く。そして、険しい表情を浮かべる総理大臣。

『そして、今、俺の手によって、殺人ウイルス――Deicida(ディーシダ)は完成した。もうすぐアメリカは天谷がDeicida(ディーシダ)の源だという事に気が付くだろう。早く手を打たなければ、どうなるかは察しがつくよなぁ……?』

 頭を抱える総理大臣はその口を開く。

「アメリカがウイルスを口実に日本へ向けて攻撃……いや……最悪の場合、戦争を仕掛けてくる……」

『ご名答。流石、総理大臣といったところかな』

 Persona(ペルソナ)は総理大臣に向けて拍手をした。そんな拍手の音だけが講堂へと響き渡る。

「それと関係するのが……お前の言う“命令”というやつか……?」

 総理大臣はPersona(ペルソナ)を鋭い目で睨みつけながら、尋ねた。

『察しが良くて本当に助かるよ、総理大臣。それで、その命令の内容だが……』

 講堂に緊張感が走る。

『天谷を確保する為に“戦自”の全戦力を導入する事を要求する』

 講堂にいた全員の顔が驚愕の表情を浮かべた。何故、そんなにまで驚いたのか。それは、

「何故……一人の人間の為に“戦自”を……? しかも、全戦力を!?」

 男の言うとおり、問題はそこにあった。天谷一人に戦略自衛隊の全戦力を費やすと言う事は、日本の警察が無能と言っているようなものである。

『お前たちはまだ、理解していないのか? 天谷は人間じゃない。殺人ウイルスだ』

「しかし……」

 それでも渋る総理大臣に対して、Persona(ペルソナ)は言い放つ。

『言ったはずだ。『命令だ』と。拒否権などありはしない。それとも総理は日本の一億二千万人以上の全国民の命と天谷一人の命とを天秤にかけるというのか?』

 険しい表情を浮かべる総理大臣に対して、Persona(ペルソナ)は仮面の内で余裕の笑みを浮かべる。

「……違う」

『違わないさ。総理の一言で全国民の命が失われるか、一人の命の犠牲で済むのかが決まる。それだけ、総理の言葉には重みがある』

 総理大臣は少し、躊躇(ためら)いをみせてからその重い一言を発した。

「……分かった。“戦自”を動かそう。だが、全戦力というのだけは受け入れる事ができない」

『……まあいい。それくらいの事は大目に見てやってもいいだろう』

 上から目線で言葉を言うPersona(ペルソナ)。実際にこの場の主導権を握っているのはPersona(ペルソナ)と言っても過言ではなかった。

『話はこれで終わりだ。だが、総理大臣だけは此処に残ってもらえないか? 何、殺しはしないさ。もし、総理大臣を俺が殺したなら、俺を逮捕すればいい。それだけだ』


 ◇


 講堂に残ったのは総理大臣とPersona(ペルソナ)のみとなった。最後まで駄々を()ねていた吏夜と言う女の子の人形も最終的には講堂から出て行く事となった。

「……それで、何を話す気なんだ……?」

『単刀直入に言おう。総理大臣、君は世界が欲しくはないか?』

 (いぶか)しげな表情を浮かべる総理大臣。

「世界征服か……? 生憎、そんな野望は持ち合わせていない」

『野望? 滑稽(こっけい)だな。野望と言うのは身の程の知らない大それた野心。分不相応な望みの事を言うのだよ。俺は身の程知らずではないし、大それた事を言っているわけでもない。現にこのDeicida(ディーシダ)があれば、十分、実現可能なことだよ』

 Persona(ペルソナ)がそう述べた後、総理大臣は少しの間、思案し、大げさに笑い出した。

「ははははっ……!」

『何がおかしい?』

「いや……必死に理由を述べて、お前は何をそんなに焦っているのかと思ってな。それにそこまで必死になると言う事はお前の思惑には私の了承が必要なんだろう?」

 黙り込むPersona(ペルソナ)は内心で総理大臣に向けて、舌打ちをしていた。

「図星か? なら、お前はあくまで俺にそのDeicida(ディーシダ)によって脅迫をさせたいわけか。なら、はっきりと言わせてもらおう。私は日本の代表の総理大臣としてそれはできない。そして、お前にそんな事をさせる気も無い」

『……後悔するなよ?』

 そのPersona(ペルソナ)の返答を総理大臣は嘲笑う。

「後悔などしない。お前もそのDeicida(ディーシダ)を所持している事を後悔する日が必ず来るぞ」

『ご忠告どうも。もういいよ。戦自を動かす事をちゃんと進めてくれれば、後はもう問題ない』

 Persona(ペルソナ)はそう言うと、椅子から立ち上がって講堂の出口へと向かい、講堂を後にした。

 講堂に残されたのは総理大臣一人となってしまった。


 ◆


 講堂を出て、車へと向かうPersona(ペルソナ)。その道中に人影は一つも無い。

『総理大臣。お前をその座から引き摺り下ろしてやる!』

 Persona(ペルソナ)のさっきまで笑みは消え去り、代わりに怒りの表情を仮面の内のその顔に浮かべた。


 ◇


 午前八時


 昨日は(しょう)を見つける事は叶わず、その日を終えた。そして、今日も翔を探す為にその身を起こした。

 どこで寝ていたのかと言うと、それはとても言い難い場所なので伏せておこう。だが、野宿ではない。

「今日はどこをあたるんですか?」

 二人とも年上なため、敬語を使って尋ねた。

「まだ、行っていない場所がもう一つあるんだ。今日はそこをあたる」

 と犬塚(いぬづか)さんが答えると、その続きを紡いだ。

「翔が母親を殺した時の家だ」

 翔が……母親を殺した時の家……

 翔の過去については昨日の夜、犬塚さんに詳しく聞かせてもらった。翔にそんな過去があったなんて、俺は何も知らなかった。俺はまだ、翔の一部分しか知りえていないのだと痛感した。

「じゃあ、そこに行きますか」

 と言う白井(しらい)の発言と共に俺も二人と同様に足を動かし始めた。


 ◆


 東京の都市部よりも郊外のところに翔の母親を殺した時の家はあるようだった。何年間ぐらい、翔はそこに帰っていないのだろうか。

 俺はその場所に行く事にあまり乗り気ではない。何故なら、記憶を取り戻したんなら、その心の傷の原因となった事件が起こった場所へと出向こうと思うだろうか。俺がもし、翔の立場なら、一生出向きたくない場所だ。

 そして、翔の立場とか関係なく、俺自身、その場所には行きたくなかった。

 段々とその場所に近づいていくにつれて、俺の中の不安は倍増していった。最終的にはその不安は痛みとなって、俺の腹を刺激した。

 電車に揺られること数十分。電車から降りてバスに乗り、また十数分でその場所に着いた。

 犬塚さんが指差した先にあったのは家ではなく、ただの空き地だった。この状況からもう、家は取り壊されたらしい。

 やはり、その場所にも翔の姿は存在し得なかった。立ち去ろうとしたその瞬間、見覚えのある声が俺の名前を呼んだ。

「天……谷……? それに犬塚さんまで!?」

 その声の聞こえた後ろを振り返った俺の目に映るその姿は正しく、

「――翔!?」

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