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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
34/72

No.04  普天間基地の陰謀

「実験体の心肺共に停止しました」

 白衣を纏った女性が少し残念そうな声でそう告げる。

 そんな女性の声の調子など無視して、Persona(ペルソナ)は横の男へと尋ねる。

『まだ、Deicida(ディーシダ)は内臓破壊を続けているのか?』

「はい。感染者が死んでも体内に残り続けて、内臓を全て破壊した時、その活動を停止させます」

 『ふーん』と感心しながら、次の質問を紡ぎ出すPersona(ペルソナ)

『その活動を停止した後はどうなる?』

 男は(あらかじ)めその質問を予想していたようで答えを淡々と述べる。

「内臓を破壊するという活動は停止させますが、ウイルスはまだ体内に潜伏しています。そして――」

 少し間を空けてから男は呟く。

「――今度は感染者の肉体を(むしば)み、ウイルスを散布させる材料にします」

 それを聞いたPersona(ペルソナ)はにやりと口を歪ませて、男に向けて言葉を投げかける。

『この映像を持って、明日、交渉に向かう。それまでに、映像をディスクに移しておけ』

 そう言うと、Persona(ペルソナ)は後ろを向いて、その場を後にした。


 ◇


 闇は増殖し、侵食していく。

 “殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ焼イテ殺セ首ヲ絞メテ殺セ銃デ撃チ殺セ眼ヲ抉リ取ッテ殺セ斬リ殺セ

  ソシテ、オ前ガ母親ノ四肢ヲ斬リ裂キ殺シタ様ニ殺セ”

 頭の中で声が聞こえる。狂気。

 “オ前ハ殺人ヲ快楽シテイル”

 してない! 俺は殺人に快楽なんてものを望んだりはしていない!

 “(ゆい)ノ両親モソノ血デ汚レタ手デ殺シタ。殺シガ快楽ダカラ”

 俺は快楽のために人を殺してきたのか? 分からない。自分が分からない。

 視界からの景色は街灯もあり、明るい。だが、俺の心は闇。一筋の光も無い。

 俺は何の為に殺し屋になったのか。

「違う……快楽の為じゃない。そんな為に殺しをしてきたんじゃない!」

 駄目だ。このままだと……狂気に飲み込まれてしまいそうだ。

「俺はもう――誰も殺しはできない」


 ◇


 午前6時XX分


 大貴は目覚めるとまた、その天井を見た。

 蛍光灯の光しかない、肌寒く、湿気ているような狭い部屋。

 しかし、最初に此処へと寝ていた時とは大貴の状況は違っていた。

「手錠と……足枷」

 その枷から伝わる冷たさは大貴の体を冷やし、心をも冷やしているかのように大貴には思えた。

 このまま……俺は一生、此処で過ごすことになるのだろうか……? (しょう)に会う事もできず――

 その時、大貴は、はっと気付いた。

犬塚(いぬづか)さん!」

 大貴を連れ出そうとしたがために白井(しらい)に右太ももを銃で撃たれた犬塚。

 大貴の頭の中に浮かぶのはそんな犬塚が血をダラダラと流しながら倒れている光景だった。

 俺はこんなとこで何をしてるんだ!

 そう思ってベッドから降りて立ち上がろうとする大貴だったが、その足についた枷が大貴の邪魔をする。

「くそ! 何なんだよ、これ! 外れろ! 外れろ!」

 両足をじたばたさせながら枷を引きちぎろうとする大貴であったが、所詮、無駄な努力だった。その両足からは、じたばたしたおかげで枷が牙をむき、血が垂れてきている。

 それを見たとき、大貴の頭の中にある考えが走った。

 “両足斬っても死にはしないよな?”

 しかし、大貴の周りには鋭利な刃物は見当たらなかった。

「はぁー」

 と溜息を吐いてベッドに仰向けに倒れむ大貴。

 その両足からは少しずつではあるが、段々と血が流れ出てきており、ベッドのシーツへと垂れていく。その紅い液体はシーツを紅く染め上げようと、どんどん広がりを見せていった。

 そして、大貴の耳に廊下から足音がゆっくりと此方へ近づいてきているのが聞こえた。その足音はちょうど、この大貴のいる部屋の前で不意に止まった。

 ドアの鍵を開け、入ってきたのは、

「気分はどうだ? 天谷」

 白井の姿だった。

 大貴はベッドの上で体を起こし、白井を睨みつける。

「犬塚さんはどうなった!?」

 “ふぅー、やれやれ”と言わんばかりの表情を浮かべる白井。

「生きてるよ。まあ、お前と同様に拘束はしてるけどな」

 「生きている」という一言を聞いて、大貴は安堵の息を吐いた。

「少し話があるんだが、話してもいいか?」

 と、ドアを閉め、大貴のいるベッドへと近づいていく白井に対して、大貴は「何を話す気だ?」と疑問に思いながらも、その首を縦に降った。

「翔の事なんだが……探してもいいだろう」

 えっ……よっしゃー!

 と心の中で喜びの声を上げる大貴。

「だが、絶対に俺と一緒に行動を共にしてもらう。そして、翔を探すならすぐ始めないとやばい。そうしないと手遅れになるかもしれないんだ」

「えっ?」

 言葉を漏らした大貴。

 何が……手遅れになるんだ?

「とにかく、早く準備をして、行くぞ!」

 大貴の足に嵌められた足枷にある鍵穴に鍵を入れて、回す白井。その様子を(うかが)いながら、大貴は白井に尋ねる。

「“犬塚さんも”ですよね?」

「ああ」

 白井は足枷を外し終わると、手枷を外す作業を移行した。そして、手枷も外し終える白井。

 大貴はやっと、ベッドの上から床へと降り立った。

 白井は血だらけの大貴の足を見て、溜息交じりに言う。

「包帯か絆創膏(ばんそうこう)が必要だな……」

 自分が傷を負っていることをすっかり忘れていた大貴は思い出した途端に足に痛みを感じてきた。


 ◇


 他の部屋へと移動した大貴と白井。その部屋には犬塚の姿も存在しており、その顔を見た大貴は再度、安堵の息を吐いた。

 そんな大貴が包帯を巻いてもらった足首を眺めていると、その包帯を巻いた白井がクローゼットの近くでポツリと呟いた。

「フード付きの服はまだ早そうだな……」

 そう言って、白井は大貴に近づきながら、(つば)付きの黒い帽子を被らせ、サングラスを渡した。

 最初、「何だろう」と疑問に思った大貴だったが、

「お前は一応、世間では犯罪者なんだから、変装しないといけないだろ?」

 と言う白井の一言で気付いた。

 「もっと自覚しないと……」と大貴は心に刻んで、立ち上がる。

 大貴のその足の痛みはさっきよりも引き、歩くのにも支障はなさそうだ。

「犬塚さんと俺もサングラスくらいは掛けていった方が良いかもな……奴らに狙われない可能性は否定はできない」

 サングラスをかける犬塚と白井に(なら)って、大貴もサングラスをかけた。

「行くぞ」

 白井のその声と共に歩き出す三人。しかし、その中の一人、犬塚だけは松葉杖を片手に携えていた。

 それは先の白井の銃撃により、右足の太ももを撃たれたからである。

 白井は酷い男だが、そこまで非情でもないらしい。何故なら、犬塚の歩くペースに合わせて、歩いているからだ。

 そして、相変わらず、窓の無い迷路のような廊下を三人が歩いていくこと十分。

 三人の目の前には大きな壁が出現した。いや、よく見ると取っ手のようなものが付いている。と言うことはドアなのだろう。

 白井はその大きな壁に付いた取っ手を握り、回して押す。やはりその壁はドアだったようで容易に動いた。

 外へ出ると、大貴にとって意外な光景が広がっていた。

「えっ……? 地下じゃなかったんですか? 窓が一つも無いからてっきり……」

「まあ、そう思っても仕方が無いな」

 大貴の目の前に広がるのは立ち並ぶ木と斜めになっている地面。

 そう。大貴がずっといた場所は大貴の予想していた地下ではなく、“山の中”だった。

「三頭山……か?」

 犬塚がそう呟くと、白井は頷いてみせた。

「ああ。昔、たくさんの同胞が死んだ場所でな……だから、ここに創らせてもらった」

 声のトーンを落して、白井は言った。

 サングラスのせいでその表情をちゃんと確かめる事はできないが、大貴には悲しんでいるように見えた。

「まずは翔の事務所をあたる。行くぞ!」

 その発言と共に山を下っていく白井。その後を追いながら、大貴は犬塚さんを気遣い、山を下っていった。


 誰かに監視されていた事に気付くことなく。


 ◇


 八草病院


 その五階にある唯の病室に細長い袋を持った一つの影が入っていく。

 その男は唯の寝ているベッドの前でその足を止めて、一人、呟き始める。

「ああ……君は何故、そんなにも美しいのか……僕は君に恋してしまったようだ。あの日以来……」

 唯のしなやかな髪を触りながら、男は変な言葉をその口から紡ぎ出す。

「だが、まだ早い。僕は殺している君に恋してしまったんだ。だから――」

 男はその口を大きく歪め、細長い袋を取り、鞘に収めた刀を(あらわ)にした。そして、その鞘を引き抜いて、その刃を唯の首へと近づけた。

「――君を殺すにはまだ早い」

 男はそう言うと、唯の首に近づけた刀――“雷切”をその鞘へとしまい、袋へと入れ、その病室を後にした。

 病室に一人残された唯。その目がまだ、開く事は無かった。


 ◇


 翔の事務所に着いた三人は一様にその足を止めた。

 この事務所を訪れるのが大貴には久しぶりの様に感じられる。

 そう言えば、9.11から此処には訪れてないな……

 そう思った時、一つの疑問が大貴の頭の中に浮上した。

「今日って何日なんですか?」

「九月十六日だ」

 そう答えてくれたのは白井で、

「中に入るぞ。鍵は持ってるか?」

 という白井の質問に答えたのは

「俺が持ってる」

 松葉杖を片手に携えた犬塚だった。余談だが、大貴も犬塚と同様に翔の事務所の鍵を持っている。

 階段を上るのがきつそうな犬塚を大貴はサポートしながら、一緒に上っていき、やっとの思いでドアの前に辿り着く。

 犬塚は鍵を白井に手渡して、白井はそれを受け取り、鍵穴に差し込んで回した。

 ガチャっと言う音と共にドアを開けて中を窺う三人。しかし、事務所の中は誰かがいる気配は皆無だった。

 靴を脱いでずかずかと事務所に入っていく白井。犬塚は玄関に立ち止まったまま、携帯電話を取り出した。翔に連絡する気のようで大貴もそれを察したのか、犬塚と同様に玄関で立ち止まった。

「チッ! あいつ電源切手やがる!」

 という犬塚の一言から連絡が取れなかったのは一目瞭然だった。

 二人は玄関で靴を脱ぎ、白井と同様に事務所の中へと歩みを進めると、白井は事務所の至るところを調べている最中だった。

「もう、調べても翔はいないんじゃないんですか?」

 大貴がそう言うと、白井は大貴のほうを見て動きを止めた。

「ああ、そうだな……翔がいないなら、もう此処に用は無い。行くぞ」

 そう言って、早々と事務所から出て行った白井は階段を下りていった。

 大貴と犬塚は鍵を閉めてから、一緒に階段を下りると、白井が携帯電話をいじりながら、二人を待っていた。

「これからどこをあたる?」

 白井にそう尋ねられた大貴は首を傾げながら考える。しかし、大貴の中で翔の行く場所と言えば、唯の病室か此処くらいしか思い当たるところは無かった。

 唯の病室の事を言おうとした時、大貴はふと思い出した。それは病院のことを考えていたために大貴の記憶から思い出されたものだろう。

「少し、寄りたい所があるんですけど……いいですか?」

「どこだ?」

 大貴は少し、言うのを戸惑いながらも口にする。

「友達のところに……」

 大貴の言葉を聞いた白井は溜息を吐いた。

 友達……そう、浦儀。Persona(ペルソナ)――(じん)の事はちゃんと伝えておかないと……

Persona(ペルソナ)の事について話しに行くのなら止めておけ」

「……何で?」

 白井は大貴を睨みつけながらそれに答えた。

「その友達も巻き込むことになりかねないからだ」

「……もう、十分巻き込んじまった……俺のせいで怪我して……だから――!」

 その瞬間、大貴の言葉を遮るように白井は大貴の頬に平手打ちを飛ばした。

「まだ分かってないのか! それ以上、お前はその友達を傷つけたいのか? 今度は殺されるかもしれないんだぞ! 本当の友達って言うんなら――」

 そこで白井は言葉を止めた。それは大貴のその表情から、もう、その先に言いたい事が分かっていると察したからだった。

 そうだ……白井の言ってる事は正しい。俺が莫迦(ばか)だった。また、浦議を危険な目に遭わせそうになってたんだ……

「……翔がいそうな場所がもう一つある」

 大貴は白井に叩かれた左の頬のじんじんする痛みを堪えながら、呟いた。

「八草病院……」

「じゃあ、その病院に行くぞ。俺も一度、行った事があるから場所は分かる」

 白井の言うことに頷きながら、唯の入院している八草病院へと向かった。しかし、八草病院に行っても翔はおらず、その日は見つけることができなかった。


 ◇


 2011年9月17日 午前1時


 大きなスクリーンが備え付けられた講堂に二十数名の男女が座っていた。

 その男女たちの視線の中心にいるのは仮面を付けた男――Persona(ペルソナ)であった。

 二十数名の男女たちは各閣僚と総理大臣。そして、皇太子の姿までそこにはあった。

 天皇がいないのはPersona(ペルソナ)が依頼した殺し屋の手で殺させたからである。

「こんな夜遅くに何かね? 警視庁長官殿」

 第一声を発したのは二十数名の閣僚の中の一人の男。

『皆さん眠たいでしょうから早く終わらせたいでしょう? その為には皆さんの協力が必要なんですよ。それがまあ、この時間帯に呼んだ狙いだったんですがね』

 相変わらずの感情の読めない機械の声でマイクに呟くPersona(ペルソナ)

『まずは映像を見ていただく前に少し、話をしましょう。沖縄県の普天間基地について』

 その場にいた全員の顔が緊張の色に変わる。そして、Persona(ペルソナ)は驚きの事実をその場で吐き捨てた。

『普天間基地は冷戦を口実にアメリカによって作られた。だが、その本当の理由は違うんですよ』

「はぁ? 君は何を言って――」

 閣僚の中の一人の男が声を上げたのだが、その発言を遮るように外から二つの銃声が聞こえた。そして、その後、外から聞こえてきたのは警備員とSPの悲鳴だった。

 そこにいる全員が講堂の入り口のドアを凝視する。一様に緊張の表情を皆が浮かべる中、Persona(ペルソナ)だけが仮面の内で笑っていた。

「こんにちわ~」

 開かれた講堂のドアから入ってきたのは十歳くらいのハイテンションな女の子であった。

「わぁ~! テレビに出てる人たちがいっぱい! おもしろーい!」

『少し静かにしていてくれるかな? 吏夜(りよ)。それで、話の続きなんだが、アメリカは日本を攻撃する為の布石に普天間基地を作ったんだよ』

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