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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第2章― 血戦
30/72

Prologue

 2011年10月15日


 目の前の黒い影は何も告げはしない。

 黙ったまま俺の行動を伺っているようだった。

 先手必勝とはよく言ったものだ。

 人形相手では先に動いた方が負けだ。かと言ってずっと立ち竦んだままでは意味が無い。

 じゃあ、どうするのか。

 何もしてないように思わせてから攻める。

「お前はもう終わりだ」

 漫画のような決め台詞を吐く。だが、それは本当の事だった。

 黒い影の体中には無数の糸が張り付いており、動こうともがけば、体中が切れる。

 動かせるのは顔の口、眼などだけだ。

 そして、黒い影はその動かせる口で初めて言葉と言うものを告げる。

天谷(あまや)大貴(だいき)。予想以上の男だ」

 口元をにやりと歪める。先の無感情な顔とは真逆の感情を表面に出している表情をした。

 しかし、それは暗闇と言う状況下から見た表情。朧だったので本当に歪めたのかは定かではない。

 だが、先の黒い影より今の方が妙な威圧感を放出していた。

 背中に妙な悪寒が走る。嫌な感じだ。

Persona(ペルソナ)もいい仕事を与えてくれた。最初は外れかと思っていたが……」

 司令官の名前を呼び捨てにする黒い影。

「大当たりと言う事か? なぁ……お前はちゃんと俺にとっての当たりでいてくれよ」

 黒い影は無理やり腕を動かそうとする。

 当然、ワイヤーが皮膚に食い込み、切傷が刻まれる。だが、ワイヤーの強度にも限界があったらしく、人形の骨に当たったところでワイヤーはぶち切れた。

 人形の右腕からは大量の血が流れ出る。だが、次の瞬間には右腕の傷は全て塞がっており、血も垂れ流さなくなった。

 そんな様子を見て俺はなんの驚く素振りを見せない。それは当たり前の事だからだ。鳥が空を飛んでいて驚く人がいないように人形の傷が塞がるのを見ても驚かないのだ。

 人形は自分を縛りつけているワイヤーをどんどんその方法で解いていく。

 普通、今の俺の状況下ならば危機感を覚えるのだろうが、俺は全然と言っていいほど危機感を感じていなかった。

 何故なら――

 瞬間、人形がよろめきながら膝に手をついた。

 息も荒く、汗もダラダラと垂れ落ちていく。

「お……おまえ……何をした……?」

 人形は俺のほうを睨みつけながら、疑問を口にする。

 俺は人形の疑問に対してあっさりと答えを述べた。答えを明かしたところで何もできやしないのだから。

「お前の体に巻きついてたワイヤー。それに毒が塗ってあっただけだ」

「だから……お前は――」

 人形は瞬間、俺の両手を凝視した。

 人形が俺の両手を見たのかは自分でも分かっていた。何故なら俺の両手には――

「そう。手袋してるんだ」

 ――白い手袋をはめていた。

 俺はポケットから数本のワイヤーを取り出してもう一度液体を塗っていく。

 そして、ワイヤーの先についた錘を街灯や木に投げて、人形の体に巻きつかせた。蜘蛛の巣のように絡みついたワイヤーは人形の動きを止めた。

 まぁ、ワイヤーなんて無くても人形は毒で動く事ができない。

「さあて、問題です。ワイヤーに塗った液体の正体は何でしょうか?」

 自分の言った事に自嘲的な笑みを浮かべながら、俺は両手の白い手袋を外した。

 俺はポケットからあるものを取り出して人形に見せつける。

「まさか!?」

 大きく目を見開かせた人形が見たものは――

「そう、ワイヤーに塗った液体は――油だ」

 ――俺の手にあるライター。

 俺はカチッとライターの火を点けてワイヤーへと近づける。

 瞬間、ワイヤーに吸い込まれるようにその火はワイヤーを伝っていった。

 そして、人形に巻きついているワイヤーまで到達した瞬間に火は人形へと襲い掛かった。

「あああぁぁああ! ああああああぁぁぁ――ああああああ!」

 叫びを上げる人形はワイヤーで縛りつけられ、もがく事も叶わずに火達磨となる。

 マグマのように溶け出した皮膚や脂肪がどろどろと地面に垂れていく。


 ――俺はその場から逃げ出した。



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