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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第1章― 神の子
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No.22  力の代償

『まあ、話はこれくらいにしておいていいだろう。俺の目的はお前――龍雅の命なんだからなぁ?』

 その瞬間、Persona(ペルソナ)は止めていた足を(しょう)と龍雅に向けて、ゆっくりと進め始めた。その姿は獲物の隙を狙う化物のように。

 翔は自らの手に持った刀をPersona(ペルソナ)に向けて構えようと、腕に力を入れた。しかし、

「――ッ!?」

 持ち上げようとした刀が上がる事は無かった。そして、地面に膝を着く翔はゆっくりと足下に目をやって、大きく見開かせた。

 なんで……俺、膝……着いてるんだ……?

 翔は自ら膝を着こうと思ったのではなかった。自分の意志ではなく体が勝手に動いたのだ。

 自らの足を動かそうにも動かない翔は訝しげな表情を浮かべる。

「なん……で……?」

 翔は刀をぽろんと手から離し、地面にうつ伏せの状態に倒れこんだ。

 意識が遠退いていく感覚に襲われる翔は必死にもがく。

 くそッ……踏ん張れ!

 体と頭に言い聞かせたが、言う事を聞くはずが無かった。もう、体は限界だったのだ。

「血を流しすぎましたね、翔。君はそのまま、寝てていいですよ。後は私一人でやりますから」

 しかし、龍雅のその言葉を聞き終える前に翔の意識は闇に呑まれた。


 ◇


 八草病院


 息を荒げる藍堕であったが、急に体をビクッとさせてゆっくりと立ち上がった。

「まだ……生きてやがんのかよ……しつけぇなぁ……」

 よろめきながらも病室を出て、また、病院の駐車場へと向かう藍堕。

 彼は何故、また駐車場へと足を向けているのか。それは千里眼を使って視たからであった。

 今にも倒れそうな歩き方で階段を一段一段と下りていく藍堕はロビーを後にして病院から出て、駐車場へと向かう。そして、藍堕の目に映ったのはその駐車場に立っている何者かの影。

 それは藍堕が蜂の巣になるくらいまでナイフを刺した人形の姿だった。

 人形のナイフの傷はあたかも存在しなかったように消え失せており、残っているのは服の血の跡とナイフで千切れた跡だけだった。

 よろよろと自分に近づいて来る藍堕を見ながら、人形は言葉を漏らした。

「それが千里眼を手にする代わりの“代償”と言う奴か?」

「……よく、知ってんじゃねぇか……そのとおり。俺は命と引き替えに千里眼を使ってるって言っても過言じゃない。俺の命は――――残り(わず)かだ」

 藍堕は四本のナイフを懐から取り出して、両手に持った。

 人形はただ、その様子を傍観する。だが、藍堕が地面を蹴り上げようとした、その瞬間に人形は口を開いた。

「お前は……何のためにその目を使う?」

 唐突な質問にも動じることなく、藍堕は即答した。

「――生きるために!」

 藍堕はその言葉の矛盾に気が付いていた。

 生きるために千里眼を使うと言う事は生きるために命を削っていると言う事なのだ。

「矛盾」

 表情には出していないが、人形は嘲るような調子で告げた。

「かもな……けど、俺は千里眼の代償なんかには負けねぇ! 俺はまだ、死なない!」

 藍堕は自らの覚悟を言葉で表すように叫ぶと人形に向かって疾走した。

「本当の不老不死なら、目の前にいる」

 人形は藍堕の言葉を吐き捨てるように言葉を発した。

 藍堕の足は人形との距離が攻撃できるくらいの十分なところへ来ても速さを抑えることは無かった。人形は向かってくる藍堕に応戦するように拳を振り上げる。

 その拳は藍堕に触れることは無く、空気を殴った。

 藍堕はその人形の右腕に二本のナイフを貫通するくらいの強さで突き刺した。

 人形の右腕からはナイフが二本生えたような状態となっており、人形は間合いを取るように藍堕の走ってきた方向へとその身を投げる。

 人形の右腕を伝って真紅の色に輝いた雫が何度も地面へと(したた)り落ちていく。

「知ってるよ。てめえが不死身じゃねぇって事くらいなぁ」

 藍堕は人形のナイフの生えたような状態の右腕を凝視する。

 そんな藍堕の事など気にする事無く、人形は右腕の二本のナイフを抜き取り、地面へと放り投げた。

 瞬間、人形の右腕の傷がまるで巻き戻しの映像を見ているかのように塞がっていく。そして、傷は完全に消失した。

 その光景を疑う事無く凝視する藍堕は――千里眼でその様子を視ていた。

「ふーん……」

 一人納得したように呟いた藍堕は話し始める。

「人間よりも数段に速い細胞分裂の速度……それに細胞分裂の回数が人間の五~十倍かぁ? そんなに殺さなきゃ死なないって事は……」

 藍堕は勝機が見えたかのように口元をにやりと歪ませた。

「“そんなに殺せば死ぬって事”だろ」

 藍堕がもう一度、人形に向かって疾走しようとした時、唐突にそれは起こった。

「うくっ……!?」

 藍堕は地面に向けて勢いよく赤い液体を吐き出した。

 くそ……また、きやがった……

 藍堕は心中で舌打ちをしながら、右手で左胸の位置をおさえた。

 そんな藍堕を殺せる好機を人形が見逃すはずは無く、人形は藍堕に向かって疾走する。

「くそ……俺の都合なんてお構い無しってかぁ……?」

 前のめりになって膝に手を着きそうだった状態から体を起こしつつ、藍堕は呟いた。

 藍堕はいつの間にやら右手にナイフを取っていた。体中の至るところにナイフを仕込んでいるようだ。

 藍堕が体を起こしてからゼロコンマ何秒というほどの速さで人形は藍堕に拳を振るえるくらいの距離にいた。

 人形は疾走してきた分の速さをそのまま利用して藍堕の腹に向けて右拳を振るったが、避けられてしまった。

 藍堕はその人形の空振りした腕に向けて右手に取ったナイフを突き立てた。その刃は腕を軽々と貫いて右腕を斬りおとす。

 雨水の跳ねる地面に転がり落ちる人形の右腕。

 その瞬間、右腕を斬り落として油断していた藍堕の首に人形の左腕が襲い掛かった。

「うっ……ぐぁ……!?」

 喉を段々と圧縮していく人形の左腕によって藍堕は地面に吹っ飛ばされた。

 すぐに体勢を整えて後方へと退く藍堕はその光景を目にする。

 人形の右腕の生えていた斬り口から骨が伸び、肉がそれを包み表面を皮が覆って最終的に元の右腕に戻ったのであった。

 酷く咳き込みながら藍堕は自らのナイフを人形に向けて構える。

「今度は再生できないくらい、殺してやるよ」


 ◇


 2011年8月31日 八草病院


 ――龍雅は……生きているのだろうか?


 真っ暗闇の中を眺めながら、俺はそう思った。しかし、その真っ暗だった光景が瞬間、一変し、走馬燈にように映像が流れ始めた。

 “俺はお前とは違う。俺はあの人形以外を殺したことなんて一度もない”

 俺が質問したときにそう答えた(ゆい)

 ホントに殺していないのだろうか? だったら誰が……

 映像は龍雅の姿を映す。

 龍雅はなんで天谷(あまや)に殺しの技なんて教えたりしたのだろう。

 分からない。分からない。


 なんで――


 ◆


 俺はその瞬間、唐突に目が覚めた。

 その目が最初に映し出したのは白い天井だった。

 俺は体をゆっくりと起こして周りを見回し、今の状況をはっきりと理解する事ができた。

「病……院……?」

 一体……誰が……?

 そう思いながら、俺はまた、ベッドへと横になる。

 白い天井は何も告げはしない。当たり前のことなのだが、それが俺の気持ちを少し寂しくさせた。何故なら――

「ハハ……本当に……ないんだ……」

 俺は自らの右手を左腕のあった場所へと伸ばして、掴もうと手を握った。しかし、俺の右手が掴んだのは空気だけでそこには何もありはしなかった。

 ――俺の左腕は失われていた。

 そして、右手で左目も触る。しかし、眼帯がしてある為に見えなくなったのかは定かではない。けど、瞼が開いている感覚はあった。

 なのに、見えない。眼帯をしているので当たり前だろう――――違う。見えない。

 夢でもなんでもなかった。


 ――俺は左腕と左目を失くした。


「なに、左腕と左目失ったくらいで落ち込んでんだよ」

 唐突に聞こえた人の声で俺はベッドから体を起こしてその声の聞こえた病室の入り口の方を見た。

 そこには口元を微笑ませた一人の男が立っていた。

「誰だ? ……あんた」

「藍堕権介(けんすけ)、って言ったら……信じてもらえるかぁ?」

 こいつが日本で一番の殺し屋なのか……?

 俺は驚愕の表情を浮かべた瞬間に疑いの目で入り口に立っている男を睨みつける。そして、本当なのかを確かめる為に質問した。

「その証拠は?」

 その質問を予想していたのか男は自らの首を傾げてすぐに考え始めた。

 男はその考える素振りを十秒くらいでやめてはっきりと言った。

「ねえに決まってんだろ」

 俺が予想だにしなかったその回答に少し愕然とする中、男は話を構わず続けた。

「まあ、俺が藍堕権介ってぇのは信じなくていいからよ。話だけでも聞いてくれ。ところで……“千里眼”って奴は知ってるかぁ?」

「……Persona(ペルソナ)が藍堕の名前を出した時に一瞬、聞いた程度だけど……それが?」

 あの時のPersona(ペルソナ)は日本で一番の殺し屋の藍堕が千里眼を持っているような事を言っていた。

 その事について心中で思っていたら、男は俺の心を見透かしたように頷いてみせ、説明まで付け加えた。

「ああ。俺は千里眼を持ってる。そして――――お前の親父――一宮(いちのみや)堆我(たいが)もな」

「なっ!?」

 俺は思わず言葉が出てしまった。

 俺の親父が……千里眼を?

 その前に千里眼というものが本当に存在するのかすら信じられないこの状況にそんな事を言われて、俺の頭は混乱しそうな勢いだった。

「お前が信じようが信じまいがどうでもいいし、俺がただ単に独り言を言っていると思ってくれたってかまわねぇよ。けど、これだけは言っとくぜ?」

 男は一息置いて重要な事を呟くように言葉を発した。

「これからの戦い……お前にとって千里眼は必要なものになる」

 俺にとって……必要……?

 男は俺の目を一心に見て、俺の心へと話しかけているようだった。

 病室の入り口で立ち止まっていた男は俺のベッドの横の窓へと近寄って、顔を外に出しながら話した。

「千里眼ってのはな、“未来・人の心・遠くで起こる出来事”を視ることのできる眼だ。けど、そんな勝手のいいもんに限ってそれ相応の代償ってもんが存在する」

「代償……?」

 独り言のように語りだした男の話を黙って聞いておこうと思ったのだが、俺は思わずその単語を繰り返してしまった。

 男は少し俺の方を横目で見たが、すぐに外の景色へと目線を戻して語りだす。

「そう、代償。“命”と言う名の代償だ。だから、俺はもう、一年も生きられないと思う」

 男は重大な事をすんなりと告げた。

 なんで、そんな大事な事をケロッと言えんだよ……

 少し怒りが湧いたがそれを抑えつつ、俺は一つの疑問を男へと投げかける。

「どうして……そんな事を俺に……?」

 男は俺の疑問を嘲笑うように答えた。

「さっきも言ったようにお前にとって必要になるからに決まってんだろ? ま、もう一つ理由を挙げるとすれば、千里眼が開眼(かいがん)する可能性は極稀。だけどなぁ、親が千里眼を発眼していた場合、その息子は三割の確立で発眼すんだよ」

「……俺も千里眼を発眼する可能性があるって言いたいのか? だから、あんたはさっきから色々と説明してるのか?」

 男は窓の外の風景から目を離し、俺の方向を向いて嬉しそうな表情をしながら頷いた。

「そーゆーこと」

 三割の確立かぁ……十人に三人。低い確率だなぁ……

 望みが薄いことと代償が命と言う事に落ち込む俺。すると、親父の事で一つの疑問が形成された。

 待てよ……俺の親父は千里眼を持ってたんだろ? なのに――

「――どうして親父は千里眼を持ってんのに、Persona(ペルソナ)に殺されたんだよ!」

「言っただろぉ? 千里眼は命を削るって。それと、もう一つ言わなきゃいけねぇ事があった。命はな、千里眼を発動しているときにしか削られねえんだ」

 発動しているとき……だと……?

 まるでそれは千里眼の発動を制御できるような口ぶりだった。

「制御……できるのか?」

「当たり前だろ? そんなこと」

 そう言って、男はまだ、言葉を続ける。

「で、千里眼を何回も使用してくると、制御できなくなってきて最終的には千里眼を発動したままの状態になってしまう。そうなったときにはもう終いだ。俺の場合はその一歩手前の段階だろうな。時々、発動させてないのに勝手に発動したりする時がある」

 男は全ての事を話し終えたようで、窓の方へと視線を向けて再度、外の風景を眺め始めた。

 千里眼……

 それについては詳しく分かった。けど――窓の外を眺めている男のことについては何一つとして分かっていない。

 俺はそんな事を考えながら、ベッドへと横になると、外の風景を眺めていた男が「あっ!」と唐突に声を上げて俺の方を向いて、質問してきた。

「そういやぁお前、龍雅と()りあってたんだろ? その後、どうなった?」

 なんで龍雅の事を聞くのか疑問には思ったが、その疑問もすぐに消え失せた。

 そう言えば、龍雅が藍堕に唯を護るように頼んだみたいなことを言ってたな……ってことはここって唯の入院してる八草病院か……?

「俺の方から、戦いをやめようって言って、それから……Persona(ペルソナ)が龍雅を殺しに目の前に現れて――」

 俺の言葉が詰まりそうになったとき、ちょうどよく男が言葉を遮るように言った。

「意識が飛んだってわけか……」

「あんたでも龍雅がどうなったかのか知らないのか?」

 龍雅が生きているのかが気になった。

 Persona(ペルソナ)に殺されたんじゃないだろうか。あいつは銃で撃っても死ぬ事がなかった。

「知らないから聞いてんだけどなぁ……お前がこの病院に運ばれてきてから、何回も連絡してんだけど……一向に出る気配がねぇし……」

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