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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第1章― 神の子
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No.16  Personaの陰謀

「さあ! ここからが本番だよ!? 天谷大貴!」

 自らの両腕を捨てても尚、俺の前に立ち塞がる少年――人形。そして、俺の目の前に立ち塞がる理由は自分の為ではなく、ただ、命令の為だけに。

 人形の両腕の在った部分からは大量の血が流れ出し、俺は人形を人間と錯覚してしまいそうな感覚に襲われた。

 違う……こいつは人形だ!

 そう自分に言い聞かせながら、その人形を睨みつけた。しかし、その人形は――

 ――両腕を斬られたというのに、余裕の笑みを浮かべていた。

 俺はその瞬間、背中に悪寒を感じた。

 こいつ……笑ってる……?

 その悪寒は正しく、恐怖だった。

「ほら、早く救急車呼ばないと、隣に倒れてる少年が死んじゃうよ?」

 俺は横に血だらけで倒れてる浦議の姿を見た。

 このままだと……ホントに死んじゃう……

 しかし、俺には目の前の人形を打開する案など、思いつかなかった。何故なら、一度、俺が人形に一方的に殴れらた経験があるからだ。その恐怖が脳裏にちらついて、俺は攻めようにも攻められない。

 そう。俺の力量はあれから、上がっていない。人形を超える瞬発力も無ければ、逃げ切れる足も無い。何もできない。だからと言って、何もしないわけにはいかなかった。浦議の命が掛かっているんだから、答えは一つしかない。

 俺は自らのポケットに手を突っ込んで、ワイヤーを取り出す。

「来い……DOLL(操り人形)

 その瞬間、人形は何も持たぬまま、俺に向かって疾走してきた。その速さは世界記録を頭に超しているんじゃないかと思えるほどのスピードだった。だが、その人形は俺の目の前にまで来た途端に姿を消した。

 どこに!?

 首を素早く左右に振って辺りを見回すが姿は確認できない。

 くそ! 逃げたんなら、救急車を――

 と携帯電話を取り出そうとした瞬間に右側から、その人形が急に現れた。

 その距離は一メートル以内。

 何をされても、避けられない。

 ワイヤーも張っていない。

 絶体絶命の状況であったが、その人形の両腕が無いのが唯一の救いだった。

 そんな両腕の無い人形が俺への攻撃として選んだ方法――それは頭突きだった。

 俺はそのまま、左側に吹っ飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。

 前にも味わったこの痛み。

 トラウマとも思えるあの経験を意識してしまう。

 やっぱり……俺には敵わないのか……?

 倒れた俺に近づいてくる両腕のない人形。俺は自分の身をゆっくりと起こして、その人形と向き合った。

 足を止めることなく、近づいてくる人形。

 両腕が無くても力量の差は人形の方が上。

 絶体絶命の状況。

 怖くないと言ったら嘘になる。怖い。目の前の人形が怖い。

「くそぉぉぉおおお!」

 俺は一歩一歩近づいてくる人形に向かって走った。

 早くこいつを片付けないと……浦議が危ない!

 何本ものワイヤーを取り出し、人形へと向ける。そして、俺は――そのまま人形の横を通り過ぎた。

 人形もそんな事をすると思っていなかったのか、固まっている。

「逃げるのかい? 友達を置いて。そうか、君にとって友達と言う存在はそんなものか」

 俺はその言葉を聞いて、走っていた足を止めた。

 もう、走る必要はなくなったからだ。

 何故なら――

「――お前……もう動けないだろ?」

「なっ!?」

 人形は自らの目を大きく見開かせた。

 そう。人形の周りには先のワイヤーの数よりも二倍近くのものワイヤーが張り巡らされていたのだった。

「僕の横を通り過ぎた、一瞬の内に!? き、君にそんな力量は――」

 俺は最後まで人形の言葉を聞くことなく、右手に持ったワイヤーを引いた。

 一瞬で肉塊へと変わる人形を俺は見ることなく、浦議の元へと駆け寄る。

 ――いや、俺はその肉塊を見ることができなかった。

 “人を殺した”

 自分に奴は人形だったと言い聞かせたが、人形は人間を基にして創られたもの。

 人間を殺したも同然だった。

 俺はその現実から目を背けたかっただけなんだ。

「おい! 浦議!」

 俺の声に反応しない浦議。その周りには(おびただ)しいほどの血が広がっていた。

「くそ! 早く、救急車を!」

 携帯電話を取り出して、番号を押そうとする。

 あれ? 救急車の番号って何だっけ?

 咄嗟に思い出せなくなった番号。

「なんで……なんで思い出せないんだ!?」

 早くしないと、浦議が死んじまうっていうのに!

 その瞬間、やっと救急車の番号を思い出し、指を走らせた。そして、救急車を呼んだ俺はあることを思い出す。

 “俺は……犯罪者だ……”

 このまま、浦議の傍にいては警察に捕まり、浦議にも迷惑をかける。

 友達が死にそうだというのに傍にもいられない。

 俺は顔を俯けて、その場を走って後にした。

 俺はそのとき、自分が本当に日陰者なんだと、改めて理解したような気がした。


 ◇


 浦議が救急車で運ばれてから数分後。

 もうすぐ、警察が来るそこには浦議の血の跡と、人形の肉片と血の跡しかなく、倉庫街は妙に静かであった。

 そんな倉庫街に二つの足音が近づいてきた。

 そして、二つの足音は人形の肉片と血の跡がある場所で止まった。

「わたしの言うとおりだったじゃんか!」

 えっへんと言わんばかりに威張る少女。年齢は十歳くらいで、さきほどPersona(ペルソナ)の前で駄々をこねていた少女であった。そして、その少女に賛同する青年もまた、さきほどPersona(ペルソナ)の前で少女を叱っていた青年であった。

「そうですね。ですが、誰と争ってこんな風になったんでしょうね……」

 十歳くらいの女の子は頭からクエスチョンマークを出すように首を傾けて考えるが、答えは一向に出て来そうにない。

 青年はあえて、疑問を口にしたが、女の子に考えさせるつもりは毛頭、無かった。青年は独りでに呟いて考えていただけだった。

 十人の中で一番弱いとはいえ、人間を超越した人形……それを倒した者となると……相当なてだれのようですね……

「う~ん……わっかんない!」

 女の子は考える事をやめて、動きの止まった青年に目を向けた。

「どうしたの? 来須(くるす)?」

 少女の呟いた来須というのは青年の名前だろう。

 少女の問いに対して、青年は「何でもありませんよ」と答えて続きを紡ぐ。

「彼が死んだことは後日、Persona(ペルソナ)様に報告するとして、私たちは先に仕事を済ませましょうか。場所も特定できていますしね」

 さっさと背中を向けて、倉庫街を後にする青年を見て、少女は頬を膨らませて走り寄った。

「わたしが()るんだからねっ! 分かってる!?」

 人形の肉片と血の跡から去っていく二人は刻々と、(しょう)と一緒にいる女性の人形の元へと近づきつつあった。


 ◇


 2011年8月8日


 浦議が怪我を負ってから、五日ほどの時が過ぎ、俺は今、病室にいた。

 浦議の入院している病院で俺はサングラスとマスクを付けて、堂々と入っていった。

 まだ、浦議は目をあけない。

 傷は殆ど回復しておらず、医師によると神経を損傷している可能性が高く、下半身不随になるかもしれないと聞いた。

 全て、俺のせいだ。

 俺が浦議を巻き込んだから、こういうことになってしまった。

「ごめん……」

 俺は椅子から立ち上がって、浦議の病室を後にした。

 この五日間。俺は毎日、情報を集めるためにあの倉庫街に行った。そして、気になる情報を手に入れた。

 その情報は“マフィア・ヤクザ・暴力団などをまとめあげて上に立とうとしている者がいる”というものだった。

 その立とうとしている者はPersona(ペルソナ)と名乗り、顔はその名の通り、仮面で覆われ、ガスで変えられたような声をしていたらしい。

 そいつは正しく、俺から俺の血液を採取していった仮面の奴だった。

 それ以外には当てはまらない。そして、仮面の奴――Persona(ペルソナ)DOLL(ドール)と言う九人の組織を部下に従えて、裏世界の首領(ドン)になりつつあるらしい。

 仮面の奴が裏世界の首領になって何をしようとしているのかは見当もつかない。けど、一つだけ、言えることがある。

 もうすぐ、仮面の奴は表にも騒がれるくらいに動くだろう。

 9.11まで、今日も含めてあと三十四日……できるだけ、多くの情報を集めないと……


 ◇


「はぁはぁ……」

 剣道の道場の中で二人の人物が竹刀を握って向かい合っていた。しかし、二人には大きな違いが二つあった。

 一つは一人は胴着を付けているのにも拘らず、女性のほうは私服という違い。そして、もう一つは人間と人形という違いだった。

 そう、胴着を付けて息を荒げている人物は――翔だった。

 それに対して、私服のままの女の人形は息を荒げていない。

 二人の勝負は一方的なもので、翔は一本も女の人形から取っていなかった。

 屈辱を味わっている翔は完全に余裕な女の人形から、一本取りたかったが、無理な話だった。

 翔と女の人形との実力の差は正しく“月とスッポン”だったのだ。

「どうしたの? 早くかかってきなさいな」

 余裕の笑みを浮かべて言う女の人形に対して、翔は舌打ちをすると、竹刀を強く握り締めて女の人形の頭、目掛けて振るった。しかし、その振るった瞬間の一瞬の隙に女の人形は翔の頭に一本を浴びせかけた。

 勢い良く振るわれた竹刀は翔の頭をグラングランさせる。

 くそ……さっきから手足も出ない。こんなんで俺は……本当に強くなれんのか?

 疑いの目で女の人形を睨みながら、竹刀を握っていた翔であったが、そんな心を見透かされて、またも一本、頭に浴びせかけられる。 

「迷わないでどんどん突っ込んできなさいよ。それしか今のあんたにはできないでしょうが。あんたの殺しみたいにこそこそやってても、刀は扱えないんだからね?」

 溜息を吐いた翔は女の人形を見て竹刀を構える。

 突っ込めばいいんだろ……突っ込めば!

 女の人形の言うとおりに、翔は何度も何度も突っ込んで、その度にカウンターを食らっていた。

 そう、あんたはそうやって突っ込んだ方がいい。何故なら、あんたの動体視力と瞬発力は人並み以上のものだから。

 突っ込んだ際に相手の動きをその眼で捉えられれば、あんたはそれを避けつつ、カウンターを食らわせることができる。

 あんたのその眼と瞬発力を合わせれば、最大の武器になる。そして、刀の使い方を覚えて、“あの眼”を手に入れれば――

 ――あんたに敵う相手は……無に等しくなる――

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