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DOLL―What can the hand of you save?―  作者: 刹那END
―第1章― 神の子
16/72

No.15  人間と人形

「あなた――“誰かのために”を言い訳にしてる?」

 さっきまでの真剣な空気が異様なものへと変化した。

 一瞬でキリッとした眼差しへと変わり、俺を睨みつける。

 俺はその女の威圧感というものに気圧されそうになりながらも、その場に立ち止まる。

 まるで、この世のものとは思えない怪物に相対しているようだった。

 そう、怪物――人形みたいな。

「あんたは……一体……?」

「あら? 感じ取っちゃった? あたしが人間じゃないってこと」

 思いもよらない真実を女はさらりと吐き出した。

「だから、あんたは!」

 俺は女の威圧感に苛立ちを覚え、思わず大きな声が出てしまった。

「あたしはねぇ……」


 ◇


 暗い倉庫街の裏を浦議(うらぎ)大貴(だいき)は進んでいた。

 それは情報収集をする為であり、人形を探す為でもあった。

「てか、なんでお前もついてきてんだよ。別にお前は殺し屋じゃないんだし、助けてもらった恩もあるし、危険な目には遭わせたくないんだ」

「じゃあ、僕の好きにさせてください。大貴は僕の親友なんですから」

 そう言って、ニコっと笑みを浮かべた浦議に対して大貴は少し、目を逸らした。

 大貴の中では何か後ろめたさが渦巻いていた。

「そう言えば、大貴……左腕は大丈夫なんですか?」

 闇夜を歩く最中、浦議が左腕の包帯を外した大貴に尋ねた。

 大貴は首を傾げながら、答える。

「俺からしたら、もう大丈夫だと思うんだけど……分かんねえや! 医者にも診せれないし」

「無理はしないようにしてくださいね」

 闇夜を歩く二人のペースは落ちない。しかし、大貴は唐突にその足を止めた。

「……? どうしたんですか? 大貴?」

 大貴は一人でなにやら思案しているような間を開けてから口を開く。

「いや……九月十一日って北川高等学校で式典みたいなのがあるんだったなぁ……って思って」

「そう言えば、掲示板とかに張られてたりしてましたね……」

 そんな会話を続けていた二人の前に近づいてくる影が一つ。

 その影は二人の姿を見た途端、その歩んでいた足を止めた。そして、浦議と大貴は一様に身構えた。

「なんだ、君か……こっちは忙しいんだ。出来損ないのクソ人形が逃げ出してしまったからね。それの始末をしなきゃいけない」

 淡々と語るその影の人物はどこかの高校の制服を着ていた。

 その少年は溜息を吐きながら、また、口を開く。

「だから――退いてくれないかな?」

 麻薬取引をしてる奴か?

 その疑問を抱いた二人。

 何故、そんな疑問を抱いたのかと言うと、その情報収集のために来た、この倉庫街は紛れも無く、麻薬取引現場として活用されていたからであった。

 地形の関係上から、警察が来ることは滅多になく、若い者の溜まり場や、暴力団の集会などにも使われたりする。

 そんな裏の住人達が多く集まるということで来た、二人だったのだが、今日は運悪く、誰も来てはいなかった。

 いや、今は来ていないと思っていたの方が正しい。目の前にその少年がいるのだから。そして、雲に隠れていた月が、姿を現し、少年の顔を照らす。

 その瞬間、浦議は顔を青ざめさせ、少年から一歩、足を退けた。

「どうした、浦議?」

 そんな浦議の様子を横で窺いながら、大貴は尋ねた。

 浦議は青ざめた顔色を変えずに答える。

「大貴も……見たことあるだろ?」

 その動揺のせいか、声は震え、いつもの敬語も失われていた。

「こいつ……K事件で殺された……被害者だ!」

 その瞬間、大貴もその目を大きく見開き、少年を一瞥すると、浦議の方へと目を向ける。

 と同時に浦議も大貴へと目を向けた。二人はごくりと息を呑み、何かを確認しあうようにそれぞれを見ながら、頷く。そして、二人一緒に呟いた。

「「ゾンビ……?」」

 その呟きを聞いた瞬間に、少年は深い溜息を吐いて呆れたふうに言った。

「君たちはオカルトに興味でもあるのかい? それとも莫迦(ばか)?」

 少年は哀れみの眼で二人を一瞥し、また、大きな溜息を吐く。

「じゃあ、なんでお前は生きてんだよ!」

 大声で問いかけたのは大貴だった。その大声を耳を塞ぎたいような顔で聞いていた少年は瞬間に目を見開いた。

天谷(あまや)……大貴……!? 世界にとってのジョーカーであり、まだ使える存在……そうか! 分かったぞ! Persona(ペルソナ)様はこいつを……」

 独り言を口にし、納得したようだった少年はそのまま、大貴と浦議を睨みつけた。そして、その独り言から得た一つの単語が天谷には気になった。

 ペル……ソナ……? どこかで聞いたことがあるような……?

 そう考えた大貴の脳裏に(しょう)のあの言葉が過ぎった。

 それは、大貴が仮面の男と初めて対峙し、そのことを翔に話したとき、

『仮面の奴……Persona(ペルソナ)!?』

 そうだ!? あの仮面の男のことだ! なら、目の前のこいつは……?

 と、その少年の正体を考えた大貴であったが、考える必要など無かった。

 少年は自らその正体をその口で明かした。

「僕は――人形(ドール)だよ」

「人形!? だけど、人形はお前みたいに話さなかった……そうだ! 人形は俺を無闇に襲ってきたんだ!」

 少年の正体を否定する大貴だったが、そんな言葉も少年の一言によって認めざる終えなくなった。

「そうだね。でも、その君が会った人形はもう、“前の人形”ってことだよ。つまり、人形も君たちの科学の進歩と平行して進化してるってことだよ」

 不適な笑みを浮かべて告げる少年は大げさに両手を広げて表現した。

 目を見開かせる浦議と大貴は言葉を失う。

 そんな二人に構わず、少年は言葉を続けた。

「僕のように感情を持った人形は全部で十体、創られたんだ。普通はその十体の人形――僕達はPersona(ペルソナ)様に服従するように脳でプログラムされているんだ。けど、その中の一体にはそれが、何かの手違いで成されていなかったようなんだ。だから、僕はその逃げ出した人形を始末しなくちゃならないんだけど……君達は知らないようだねぇ……」

 残念そうに大貴と浦議に背を向ける少年は一歩、一歩、歩き出した。

 そんな少年を引き止めるように大貴は自分の気持ちを叫んだ。

「お前……感情があるんだろ……? 勝手に殺されて、勝手に利用されて! 勝手に人形にされて! お前は悔しくないのかよ!」

 俺、何言ってんだろ……俺にとって、人形は敵の存在なのに……

 さっきの発言を少し後悔した大貴だったが、少年の反応を見て、大貴の後悔は晴れた。

 少年は大貴の発言を聞いた瞬間に歩んでいた足を止めて、大貴と浦議の方を振り向いた。そして、苦笑いしながら、呟き始める。

「“悔しい”……そうだね。悔しいのかもしれない。けど、所詮、僕は人形なんだ。人間のなり損ない……人形は操られるだけの存在なんだよ」

 悲しくそう告げ、背を向けようとしたとき、少年はその動きを止めて、何かを思い出したように口を開いた。

「そうそう。忘れていたよ。さっきの話は他言無用だったんだった。どうにも、僕の性格上から、口が滑ってしまったよ。だからね……別に君は知らなくていいんだよ――」

 少年が口元を歪めた瞬間、大貴と浦議の目の前にいた少年は反応しきれないほどの速さで、間合いを詰めた。そして、少年は自らの手を刃物のように使い、浦議の腹をその刃物に見立てた手で貫いた。

「――そう……君はね」

「浦議――――!?」


 ◇


「あたしはねぇ……“人形”なのよ」

 それの一言を聞いた瞬間、俺はすぐさま、後方へと退き、日本刀を左手に持って、ナイフを右手に取った。

「俺を殺すために近づいたのか? それより……お前は本当に人形か? 奴らは言葉なんてものを話すことは無かった!」

 女は俺に微笑みながら、言葉を紡いでいく。

「科学は段々と進化していくものよ。そして、その科学の技術によって創られているあたし達、人形も比例して、段々と、進化していくものなの。あんた達、人間の科学の進化の結果が目の前にある」

 異様な威圧感はこいつが人形だったせいだからか……

 俺は少し納得したが、まだ、納得できないことはあった。

「だったら、俺を殺すために、剣道を教えてやるって言ったってことでいいんだな?」

 俺は自らの手に持った刀を地面に落として、女にナイフを向けた。そして、俺が女との間合いを縮めようとした時、女の口が開いて、俺は足を止めた。

「あたし達のように言葉が話せる人形は全部で十体、創られたわ。そして、その十体の人形にはPersona(ペルソナ)様に絶対服従するようにプログラムされているけれど、何故だか、あたしだけそれが無かった。だから、あたしは逃げ出して、もう、あいつらの仲間じゃないってわけ」

 十体の人形……

「それを俺に信じろと?」

 俺はナイフを構えたまま、尋ねた。

 すると、女はのろのろと此方に近づきながら、言葉を紡いだ。

「別に信じなくてもいいわよ? でも、あんた、強くなりたいんじゃないの? あたしなら、あんたを強くできる」

 俺は足を止めたまま、訝しげな表情で女を睨みつけた。

「何故、そんな事をしようとする? ……俺にはお前の意図が掴めない……」

「うーん……まあ、理由を無理やりつけるとしたら、“あたしはどうせ、殺されるから”かな。だから、最後の抗いの為にあんたを強くする。そして、できればあたしをPersona(ペルソナ)から助けてほしいのよ」

 女はそのまま、歩く足を止めずに俺の真横まで来た時に足を止めた。

「で、どうするわけ? あたしに剣道を教わる? それとも、あたしを殺す?」

 含み笑いを女はする。それは正しく、余裕の表情だった。

 この女は俺が殺さないと解ってものを言っている。

「いや……お前を殺すのはやめる」

 俺はナイフを自らの懐へとしまい、地面に捨てた刀を手に取った。

「俺はお前が人形だろうが、人間だろうが、どっちでもいい。俺は俺の目的のためになら誰にだって、(すが)ってやる」

 そうだ……誰にだって縋ってやる、唯のためなら――

 そう心でつぶやこうとした時、女の言った言葉が脳裏に過ぎった。


 ――あなた、“誰かのために”を言い訳にしてる?


 それの何が悪いんだろうか?

 このときの俺にはまだ、その意味を理解できていなかった。だが――


 ◇


「浦議――――!?」

 大貴は自分の横で少年の腕によって腹を貫かれた浦議を見て、そう叫んだ瞬間、言葉を失う。

 少年は自らの口元を歪めながら、ゆっくりと貫いた腕を引っこ抜いた。

 地面に倒れる浦議の腹からは大量の血が流れ出し、口からも大量の血を吐き出した。それはまるで、滝のようだった。そして、浦議が地面に崩れ落ちた瞬間に我に返った大貴は悲鳴を上げた。

「あぁぁぁぁ……ぁぁぁあああああああああ!」

 パニックに陥る大貴はそのまま地面に、崩れるように膝を着いた。

 絶望が大貴を襲う。

 そんな大貴に向けて少年は呟いた。

「大丈夫だよ。死ぬとしても大量出血死。すぐには死なない――――っとショック死もあるから、すぐに死ぬかもだけど……まあ、死ななくても両足はもう動かせないだろうねぇ……」

 その少年は大貴を見下ろしながら、やはり口元を歪ませる。浦議の事を哀れむように。そして、その少年の言葉を聞いた大貴は悲鳴を止めた。

 このままだと……浦議が――!?

 大貴は地面に足の裏を着けて、立ち上がると、俯けていた顔を上げた。

「後悔しても知らねぇぞ……人形」

 少年がその一言を聞いて、疑問に思った瞬間、大貴はそれを取り出した。

 糸のように細いワイヤー。

 そのワイヤーを器用に使いこなして、大貴は少年の腕を一本、宙へと舞い上げた。

 後方へと退いた少年は苦笑いする。

「――!? ……油断していたよ。君がそんなものを使うとはねぇ……だけど、人殺しにはまだ慣れていないようだね。さっきのワイヤーの一撃は腕じゃなくて、首にするべきだったよ」

「違う」

 少年の言った事を否定した大貴は少年のその姿を嘲笑った。

「腕は囮。俺が本当にやりたかったのは――」

 その瞬間、少年は自らの周りに蜘蛛の巣のごとく、張り巡らされた細いワイヤーの存在に気付かされた。

「お前が、苦笑してくれたおかげで、時間が稼げた」

「フフ……君の方が一枚、上手(うわて)だったということ、だね……だけど、僕を殺さない君はまだ、甘過ぎる」

 大貴は少年のことを気にせずに浦議の方へと駆け寄った。

 それは少年の動きをワイヤーで封じたからであった。だが――

「救急車を呼んでから、きっちりと、殺してやるよ」

 ――大貴のその一言を聞いた瞬間に少年は声を張り上げて、笑いだした。

「ハハハハハハッ! そんな時間……僕が与えると思っているのかい?」

 少年はもう一本の自らの腕を犠牲にして蜘蛛の巣のように張り巡らされたワイヤーを薙ぎ払った。

「僕が両手を失ったとしても、君との力量の差は僕の方が上だ。さあ! ここからが本番だよ!? 天谷大貴!」


 ◇


Persona(ペルソナ)様はなんで、十人の中でも一番弱い奴を行かせたんだよぉ! わたしならすぐに殺せるのにぃ!」

 仮面の男の座っているその部屋は小さくも、広くもない個室であった。

 その仮面の男の目の前には比較的大きな机があり、その机を(また)いだ所に十歳くらいの年齢だと思われる女の子が頬を膨らませていた。

 すると、その後ろにいた青年が女の子のさっきの発言の口調を注意する。

Persona(ペルソナ)様になんという口の効き方を……すみません。無礼な口調はちゃんと、此方で叱っておきますので」

「えぇぇぇ! なんで怒られなきゃいけないの! ブーブー!」

 駄々をこねる少女は机に身を乗り出して、地面に届かない足をばたつかせた。しかし、そんな女の子の様子を気にする素振りさえ見せずに、仮面の男はガスで変えられたような声で告げる。

『じゃあ、お前達が行け。そして、出来損ないの人形を必ず、ここに連れて来い。もしくは――』

 仮面の男は一息開けて、

『――必ず、始末して来い』

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