001列島出現
太平洋、宮城県沖400km。島もなく、他国の手の及ばない静かな海。普段なら何もない海が、荒れていた。
遠洋漁業船 第八稜線丸
「あー、今日もあっついなぁ」
「お、起きたか?昨日の嵐はひどかったな」
「レーダーにも映らない低気圧なんてあるのかね」
「さあね、もしかすると壊れかけてるかもな」
「やめろよ、縁起でもない」
早朝、4時。普段と変わらなく思えた航海は、変わってしまった。
「ん、あれ。レーダーになんもうつんねえぞ」
「マジで壊れたか?」
「いや、わかんねえよ」
「こんなとこで壊れられても困るな。手持ちの道具じゃ直せないだろうし」
色々レーダーをいじっていると、不意に、レーダーが回復した。
「お、復活した!良かった。あれ?なんか前方にでっかいのがあるって表示してるぞ」
「船じゃないのか?」
「いや、どちらかっていうと島っぽいんだが」
「なにいってんだ!こんな太平洋のど真ん中に島あるわけねえだろ!」
「いや、ほら!見てくれよ!」
そう言ってレーダー画面を見せる。
「うぇっ!マジかよ!」
そこには確かに、陸地の存在が示されていた。しかも、その島の大きさが尋常ではない。レーダー圏内に入りきらないくらいの大きさなのである。
「こ、こりゃ不味い。取り敢えず海保に連絡をーーー」
突如、漁船の周りに水柱がたち、船が大きく揺れた。
「な、何事だぁっ!?」
あわてて周囲を見渡すと、複数の船が見えるではないか。
「い、いつの間に囲まれたんだ!?」
「あいつらなにもんだ!?」
大きな帆柱のようなものが見える。一見すると大航海時代の帆船のようにも思える。しかし、今の時代にそんな船で太平洋を渡ろうという者はいない。
「と、とりあえず逃げるぞ!」
「おれは海保に連絡する!」
エンジン全開で日本の方向へ向かう。しかし、怪船はほとんど同じ速度で追いかけてきた。
「う、嘘だろ!?あんな図体で何て速さの船だ!」
「海保がいるところまで逃げ切れるか?」
「わからねえ!だがあっちが攻撃してくるなら海保も正当防衛できるから....!」
「海保からだ!すぐに来てくれるそうだ!」
「よぉし!」
この近辺は第二管区海上保安本部の管轄である。PLH05「ざおう」をはじめとして、29隻もの船艇が所属している。その本部会議室では怒号が飛び交っていた。
「次長への連絡を急げ!」
「待機中の巡視船に緊急連絡!」
「漁船からの連絡によると国籍不明船は7隻ほど、おそらく武器を装備している。かなり大型だ」
「工作船の大きさではないということでしょうか」
「そうだ。帆船のようにも見えたとのことだ」
正直なところ、会議室に集まった面々は相手の正体を図りかねていた。現代に帆船が攻撃を仕掛けてくるなんて、誰が思い付くだろうか?
「そろそろ"ざおう"が漁船と合流するはずだ。詳細は報告が来てから話し合おう」
「はい、すでに国会安全保障会議の緊急招集がされているとのことですから、じきに指示が来ると思います」
「わかった、ならこちらはこちらでできることをしよう」
「はい」
巡視船"ざおう"
「漁船を発見しました!後ろに...え!?なんだあれ!?」
「どうした!」
「なんか戦列艦みたいなやつがいます!」
「は!?なにいってるんだお前は!」
「いや、マジですって!」
「ええい!貸してみろ!」
そういって双眼鏡を覗く上司。
「うわ、マジじゃねぇか!」
「そういったじゃないですか!」
そんなことを言い合いながらも、手は映像を送る準備をしている。
すでに漁船との距離は4km。不明船との距離は5kmと、かなり危うい距離に近づきつつあった。
「漁船の右から割り込むぞ!とりあえずいつも通り呼び掛ける!」
「わかりました!」
15600馬力を発揮する"ざおう"のSEMT ピルスティク社製12PC2-5V型ディーゼルエンジンは、けたたましい音をたてて"ざおう"の船体を押し進める。
すでにエリコン 35mm単装機銃の射程には入っている。だが相手も武器を持っていると思われる。簡単には警告射撃などを行うわけにはいかない。
相手も接近する"ざおう"に気づいたらしく、漁船の逃げる方向からこちらへ船首を向けている。
「相手の狙いがこちらに!」
「よし!漁船はこのまま逃がす!」
逃げていく漁船。すでに保安本部にはリアルタイム映像を送信している。だが、未だに指示が来ない。
「クソ!もう距離がない!上は何をやっているんだ!」
彼我の距離はもう2kmに迫っている。はっきりと帆船のような船であることがわかる。それにどうやら大砲とおぼしきものが舷側から突き出ている。
これ以上、近づくのは危険だ。
「少し遠いが、停船勧告をする!」
「了解です!」
「あれ無線通じるんですか!」
「知らん!だがやっておかないと上がうるさいぞ!」
「わかりました!」
"This is the Japan Coast Guard,You-"
まずは英語で問いかける。どの国の船か分からないからだ。
「なんか騒いでるみたいですね」
「服装もなんか昔の人たちって感じに見えるな」
双眼鏡を構えて、船橋から相手を観察するがいかにも古くさい。
「というか無線が通じてるのか?」
「でしょうね。ただ、意味はわからないという感じに見えます」
帆船(?)は多少速度を落としつつも、こちらへと接近してきている。
「これは対応を誤ると大きな問題になるぞ」
「いっそのこと日本語で呼び掛けて船を寄せてみるのはどうでしょう?もしかすると漁船のことを脅威と勘違いしているかもしれない」
「ま、日本語で呼び掛けるくらいは問題ないか」
「では、呼び掛けてみます」
"こちらは日本の海上保安庁、巡視船ざおう。そちらの所属を知らせ、停船せよ。繰り返す-"
「あ、動きが変わったな」
「こっちを指差してるようにみえます」
少し時間がたち、帆船が明確に速度を下げた。
「こりゃ日本語わかってるな」
「そのようですが、日本人ということでしょうか?」
「どう見ても日本人には見えんがなぁ」
政府及び海上保安本部からも接触を試みるように指令が来ているため、 "ざおう"もゆっくりと速度を下げつつ接近する。
帆船は全長60mほど、といったところだろうか。2本マストだ。舷側には2つの大砲が確認できる。
「こりゃ戦列艦、いや装甲艦か」
「金属、ですかね。内側はわからないですけど...」
ゆっくりとこちらへ近づいてくる。巡視船が近づくと相手の船体にダメージを与えてしまいかねないため、すでに止まっている。
そして、接舷。ドスンと鈍い音がして、船体が揺れる。
揺れが収まって、船橋から帆船に問いかける。
「我々は日本国、海上保安庁、巡視船ざおう。あなた方の責任者と話がしたい」
帆船の船員がざわざわと騒いでいる。「我々の言葉がわかるみたいだ」などと話しているようだ。
「私が船長のガーバンだ。話を聞こう」
そういって前に進み出てきたのは、立派なカイゼル髭を蓄えた老人だった。




